「・驛遞電信廉價通信法」
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時事新報に掲載された「・驛遞電信廉價通信法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
・驛遞電信廉價通信法
工部省電信局の電信事務を取て之を郵便事務に合併し其實際驛遞省又は通信省なる者を組織すべしとの理由は我輩既に之を前號の紙上に詳論したり我輩又此改革と同時に今の不充分千万なる日本電信法を改良して大に公衆の望に稱はんことを希望するなり我輩は勿論今の日本電信法を指して不都合の極度なりと云ふて一言に抹殺し去るに非ず其仕組の善惡便否を論ぜず電信其物のみにて既に純粹なる一の文明物たるを以て仮令何程迄に不充分たりとも尚無きに勝るものたるや論を俟たざるなり然れとも日本人民たる我輩は尚無きに勝れりと云ふて強ひて自から其心を慰め此文明急歩の世界に立て獨り故らに閑を粧ひ昔日の不開を回想して今日の小漸歩に安んずること能はざるなり
日本に電信線を架設したるは明治二年橫濱の市中に數百間の一短線を架したるに始まり次て東京橫濱間及び大坂神戸間等に架設したりしと雖とも明治三年四年五年を終るまで格別の進歩なかりに降て明治六年東京長崎間の電線落成するに至りて電信の功用漸く世人の知る所となり我日本にも電信ありと云ひ得る程の有樣となりたり爾來十年間毎年多少の進歩ありて目今全國の電線延長は四千六百里電信分局は二百餘局に達したり而して又日本人民が電信を使用するに其進歩の迅速なるは實に意外なることにて明治六年中全國電信局にて取扱ひたる電信の總數は凡二十万通なりしものが逐年に增加して明治十三年七月より十四年六月に至る一ケ年閒には總數二百二十二万通餘となりたり思ふに十四年七月より十五年六月に至る一个年間には更に又幾分の增加なりしことなるべし斯の如く日本人民は電信の利用に汲々たるの際爰に最も吾人をして不便を感ぜしむるものは電信料の格外に高價なる一事なり今我電信局の賃錢表を見るに最近の距離即ち東京大坂等一都府内の通信料は和文一音信（假名二十字）に付十一錢五厘（住所姓名の代並に屆賃を合す）歐文一音信（二十語）に付亦十六錢五厘なりと雖とも其距離隨て長すれば閲す其賃錢を增し最長の距離即ち九州鹿兒嶋より北海道小樽に至るの賃錢は和文にて凡九十五錢歐文にて凡四圓七五錢なり我輩又明治十三年度の電信局報に依り全國を通して和文の通信料平均何程に當るやを算せしに一通の代價平均凡三十三錢なりしことを知り我輩は其高價なるに驚きたるなり（本文和文電信の例に依れば全國平均代價は最高價の凡三分一に當るなり此例を以て歐文電信を推すに其全國平均代價は矢張其最高の三分一即ち一圓五十八錢位に當ることなるべし）我輩今英國の内地電信通信料を左に掲けて日本の通信料と比較する所あらしむべし
英國内地電信料
通常電信一音信即ち二十語（住所姓名代屆賃等なし）に付全英國を通し其距離の遠近に拘はらず代價廿五錢○新聞原稿電信一音信即ち午後六時より翌朝午前九時迄の夜間通信は百語に付代價廿五錢午前九時より午後六時迄晝間通信は七十五語に付代價廿五錢（新聞原稿通信に晝夜の區別ある所以は晝間は社會各人營業の時間なるゆえ此時に際し特別に廉價なる新聞原稿を通信するが爲め通常電信の妨碍となるの憂ならんことを察し此時間に限り僅に代價を高くして其憂を避けたるなり）
以上の代價附けのみにては和英對比の實を全うせざるべし何となれば英國の通常の一音信は二十語なれとも日本の一音信は二十仮名なるを以て單に一音信の代價のみを見て比較することを得ざるなり我輩英國の電信規制を見るに歐洲外の國語にて意味の解すべからざる電信は仮名五字を以て一語と見做すとあり又日本の電信規則にて和文は二十仮名の一音信歐文は二十語の一音信にて其代價は歐文の方大畧五倍高價なるが如し依って思ふに仮名五字を以て歐文の一語に相當するものとして可なるべし果して然れは日本の仮名百字と英文二十語と相對すること明白なり（或は日本の仮名は子母音を合して一字を成すもの多きに付假名一字は英字二字に相當すべしとの説あれとも今日本の電信局にて英文羅馬字のABCを通信すると日本仮名の「イロハ」を通信するとの間に其勞の差異あることなし若し日本仮名を羅馬字にて綴り通信するの法なれば或人の説の如くなるべし）
和英電信料比較 但し全國一價法にて
英國電信料 二十語に付 二十五錢
日本電信料 百字（即ち二十語）に付一圓六十五錢
讀者諸君は此比較を見て何等の感想を生せらるゝや諸君も亦我輩と共に日本電信料の高價なるに〓〓せらるゝなるべし日本の電信料は英國より高きこと六倍なり爰に文明國に不相應なる格外の高價なりと云はざるを得んや我輩が大に其減價を希望するは蓋し理の當然なるべし
今日本の郵便法に於ては新聞原稿を無税にて郵送するの法あり獨り電信法に於ては即ち然らず新聞原稿電信も通常電信も一律同物にして其同一〓の區別あることなし實に文明國の一大欠典と云ふべし宜しく急に新聞原稿電信法を施行して大に文化の普及に注意すべきなり日本電信法〓〓に關する我輩の希望則ち此の如し