「重ねて郵便税増加の非を論ず」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「重ねて郵便税増加の非を論ず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

重ねて郵便税増加の非を論ず

郵便改良法に付驛逓の當局者は大に我輩と意見を異にし今回郵便税増加の議を提出したるを以て我輩は全國人民と共に過日來幾度か其非を論じたりと雖ともその意一向に通徹せざるものゝ如く既に參事院の評議に於ては原案を賛成するもの多數にて増税の議に决したりと云へり我輩之を聞て大息痛歎すること幾時實に遺憾の念に堪えざるなり我輩が傳聞する所に據れば參事院の議席に於て増税原案の保庇者は只管目下郵便法の不完全なる事跡を述べ一市内配達並びに僻村持込税の法あるが爲めに僅かに一川一路を隔つるの兩地にして一は一錢の税を要し一は二錢を要するが如き其不便利不公平實に言ふ可らざるものあり依て今市内僻村を問はず書狀一通二錢五厘端畫一枚一錢五厘の全國一價法に改むべしとの論旨にて席中に一二反對論の人なきにしもあらざりしと雖とも全國一價法の論鋒其鋭當る可らず遂に原案の勝利に歸したりとなり議席の實際果して斯の如くなりしや否固より之を知らずと雖とも持込税を廢して全國一價法に改むるの便と此便を得んとして此税を廢すれば當時の持込税額丈け驛逓事務の計算上入金の不足を生すべし則ち此に損する者は彼に取らざる可らずと云ふこととは蓋し増税論者の固守する根據なるべし我輩とて勿論今の郵便法を最良なりと云ふにあらず必ずや全國一價法に改めざる可らずとこそ希望したるなり然るに此改革を實施せんが爲め増税論者は嗇に一市内の廉税配達を廢するのみならず更に進て從來の普通税をも廢し書狀の分は此税に二割五分を増し端畫の分は五割を増したる不廉至極の新税を以て自今全國一價の普通郵税と為さんと欲す我輩の考案は之に反し從来の市内配達法を擯て全國に及ぼし書狀一通は一錢端畫一枚は五厘に改め文明国相當の一價法たらしめんと欲す増税論者は入金の不足を恐る我輩は増税以て郵便の費用を増し却って入金の過剰を見るべしと云ふこれ即ち同一の希望を聴きながら彼れ増税論者は一の便利を蒙むるが爲めに一の不便利を起さんと云ひ我輩は一切の不便利を除去して一の便利を求むべしと云ふ所以なり

我輩が増税論を非とするの理由は前日來の紙上に述る所を以て旣に十分なりと信ずと雖とも彼れ論者の〓〓をし其過ち改むるに吝なるを以て我輩は更に論鋒を轉し從前に異なるの方位より観察して今一度増税の非なる理由を論述すべし凡そ一國の文明を品評するには其引証の事項決して一二に止まる可らすと雖とも就中郵便事務の如きは文明を儀表する最要具の一たることは當時文明世界の定論たり我日本國民の如きも人情の常として他人に未開人視せらるゝを好まず殊に當時尚治外法權の壓抑に苦しみ其羈軛を脱すること能はざる所以は謳米各國人に同等の文明國視せられさるもの大に與かりて力あるなりと云ふて以て只管文明の習俗に摸擬して彼等の歡心を買ひ現時の苦界を去るの一助とも爲さんと欲するものゝ如し踏舞の稽古に眼の暈むを厭はず深夜の宴會に風邪の冒すを恐れす甚しきは三千六百万人の生命に關する法律をも一夕に改革し純乎たる佛國風に摸して嘗て侮る色なきが如きも是皆他人に文明國視せられんが爲めの〓發なりと稱せんも大なる相違なしと云ふ不可なからん斯の如き時勢なるに獨り郵便事業に至りては文明の喬木を降りて未開の幽谷に入るも更に悔ひざるが如き决心あるは我輩の合点し得ざる所なり我輩茲に各國の郵便事務を比較して當時の日本は何樣の地位に在るやを明知せしめ以て自から處する所あらしめんと欲するなり其比較表左の如し

   英吉利

人口(明治十四年)    三五、二四、六、五六二

郵便物(明治十四年度) 一七、七六五一、一六〇〇

一人に付郵便物の數平均          五十個

  濠州ニウ、サウス、ウェールス(英國植民地)

人口(明治十四年)        七四、〇八三六

郵便物(明治十三年)     三三八三、三二〇〇

一人に付郵便物の數平均         四十五個

  北亜米利加合衆國

人口(明治十三年)       四九九八、二二〇九

郵便物(明治十二年度)  二二、一七〇八、七一二四

一人に付郵便物の數平均         四十四個

 但し合衆國に限り本文郵便物の總數は内國の分のみ

 擧けたるものにて外國へ〓立の分は此中に在らず若

し内外合計の總数ならんには本文の平均數も幾分の

増加あるへし

  濠州ヴイクトリヤ(英國植民地)

人口(明治十四年)        八五、八五六二

郵便物(明治十三年)     三八三九、四一六九

一人に付郵便物の數平均         四十四個

  白耳義

人口(明治十二年)       五五三、六六五四

郵便物(明十二年)   二、一一六九、一五三六

一人に付郵便物の數平均         三十八個

  佛蘭西

人口(〓〓〓〓〓〓〓〓)   三六〓〇、〓〓〓〓

郵便物(明治十三年)  一二、二〇〇五、四〇一一

一人に付郵便物の數平均         三十三個

  〓〓〓〓〓〓〓〓

人口(明治十三年)       一九六、九四五四

郵便物(明治十二年)     五三一五、五八六〇

一人に付郵便物の數平均         二十六個

  日耳曼

人口(明治十三年)      四五二三、八八二九

郵便物(明治十三年)  一一、七七八二、八〇八七

一人に付郵便物の數平均         二十六個

  〓〓〓

人口(明治四年)       二六七九、二三五四

郵便物(明治十一年度)  三、七五〇三、八七二六

一人に付郵便物の數平均          十三個

  〓〓〓

人口(明治十三年)      三七七五、四九七二

郵便物(明治十二年度)  四、九〇一六、二六四二

一人に付郵便物の數平均          十二個

  南亜米利加智〓

人口(明治八年)        二〇六、八四四七

郵便物(明治十二年)     一六七〇、二七三五

一人に付郵便物の數平均           八個

  西班牙

人口(明治十年)       一六六二、五八六〇

郵便物(明治十二年)     八五二一、〇〇〇〇

一人に付郵便物の數平均           五個

  葡萄牙

人口(明治十一年)       四三四、八五五一

郵便物(明治十一年)    二〇〇四、九一二〇

一人に付郵便物の數平均         四個六分

  〓〓〓

人口(明治十三年)      三五九二、五三一三

郵便物(明治十三年度)    八三二九、四〇一〇

一人に付郵便物の數平均         二個三分

  露西亜

人口(明治三年より六年迄の頃)八五四二、六一四二

郵便物(明治十二年)    一八九三八、五五八七

一人に付郵便物の數平均         二個二分

我輩が前日紙上に論する如く當〓我國の郵便税は他文明諸國に比して凡二倍の高價たるなり若し之を〓〓して相當の廉税を爲さば一人に付郵便物の平均〓〓〓數に十個以上の地位に在りて相當なることならん〓る〓之に反し更に〓に當時よりも不廉ならしむることを〓〓〓〓〓は必定日〓は此比較表中轉錄せらるゝの〓を失ふに〓ることなるべし而して謳米人民等は何の理由ありて郵便事務の斯く不振なるやを詳にせす一概に日本人民は野蠻なりと云て擯斥することならん果して斯のごとくなるときは彼の法律の改良等に至るまて百日の説法空しく一朝の煙と消散すべきのみ郵便税尚〓〓〓〓〓〓〓〓彼の洲法のごときに至りても他日〓〓は拷〓法に〓〓することあらんかと掛念するも見〓〓〓〓〓〓〓〓〓さる謳米人民には無理ならす考なれ〓〓〓〓〓業〓〓別に臨みて當局者に一言し置くこと〓〓〓