「東洋の政略果して如何せん」
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時事新報に掲載された「東洋の政略果して如何せん」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日本支那朝鮮と三國相對して其奮交際を云へば樣々舊例もあらんと雖ども、西洋近代の文明を我東洋諸國に傳
へてより、復た舊を語るの時に非ず。日本國は東洋に文明の魁を爲したるものにして、開國二十餘年来、内の改
進に怠らず、内國の事務漸く緒に就くに從て、又隣國の支那を促がし、又朝鮮に使節を遣り、和親貿易の條約を
諦〔締〕盟したるは、卽ち三國新交際の發端にして、其着手の譽は我日本國に歸す可きこと論を俟たず。吾人内に在て
は永く後世子孫に恥ぢず、外に對しては廣く世界中に誇らんと欲するものなり。抑も始ある者は其終の責に任ぜ
ざる可らず。吾人卽に東洋政略の端を開きたる上は、唯其これを開きたるを以て譽と爲す可らず。必ずや其終の
責に任じて三國の文明を謀り、共に文明の賜を與にして、 共に自國の獨立を固くし、東方復た西人の鼾睡を容る
ゝなきこと、我責任の終局なり。吾人の目的は唯この一點に在りと雖ども、人心の同じからざる其面の如くにし
て、三國の人心其目的を共にすること甚だ難し。或は固陋にして變通を知らざる者あり、或は狐疑して他を信ぜ
ざる者あり。尚は甚しきは三國共同の大義を忘れて却て變亂を悅び、人を敎唆して人の交際を離間せんとする者
あるに至る。支那人の如き、我日本政府が我日本國の琉球藩を處分したるを見て猜疑の念を生じたる歟、頻りに
吾人の擧動に注目し、我一擧一動は悉皆支那人の喜憂たるが如し。近くは本年朝鮮の事變に際し、其前後支那人
が朝鮮に接するの情況を察するに、韓人の固陋不明なるを利して益日本人を疑はしめんとし、我れより朝鮮に軍
艦を遣れば支那艦も亦共に入港し、我れより兵士を上陸せしむれば支那兵も亦共に到り、或は支那招商局の名義
を以て朝鮮政府に亘額の金を貸し、或は朝鮮内地の商賣は支那人獨り之を專にするの條約を結て、兩國の人民次
第に相近づくの策を運らすが如きは、畢竟支那人一種の筆法、所謂恩威を施すものにして、韓人には恩を施して
之を懷け、日本人に對しては嗚呼がましくも試に之を威せんとするの心術ならん。
吾人は固より支那人に對して宿怨あるに非ず。況や朝鮮國に對するに於てをや。曾て一毫の怨なきのみならず、
近時世界の形勢に於て止むを得ざる揚合より其開國締盟を促がしたりとは云ひながら、彼の國情の艱難を察して、
力の及ぶ丈けは平和一偏の旨を以て之を誘導し又保護せんことを欲するのみ。既に本年夏の變亂に於ても、其變
を聞て直に兵力に訴るが如きは、我日本政府の爲さゞることにして、我人民の悅ばざる所なればこそ、百事穩に
局を結びたることなれ。此時に際し、若しも我日本人をして禍心を包藏せしめん歟、一朝の變を奇貨として幾萬
の兵を出し、八道を蹂躪して京城を屠ること決して難きに非ず。彼の大院君の如き、安那人の拐帶を須たずして
既に已に日本の軍門に囚虜たらんのみ。今其然らざるは何ぞや。吾人は百年の大計を典して一旦の愉快を取る者
に非ず、飽くまでも平和の主義を重んじて、其目的とする所は唯東洋三國の文明開進に在るのみなるに、獨り支
那の政府が此文明開進を悅ばざる歟、或は文明開進の鋒を爭ふは自國の長所に非ざるを知て、頑冥固陋の非を途
げんとするの我意なる歟、今は東洋全面の利害を忘れて自國一局部の私を經營し、其餘毒は日本と朝鮮との交際
にまで波及して、漸く雙方の間に不快の念を抱かしめんとするは、我輩の最も遺憾に堪へざる所なり。
我東洋の政略は支那人の爲に害しられたりと云はざるを得ず。然ば則ち之に處するの法如何して可ならん。我
輩の所見に於ては唯二法あるのみ。卽ち退て守て我舊物を全ふする歟、進て取て素志を達する歟。今日の進退速
に爰に決心すること最も緊要なりと信ず。日本、支那、朝鮮の奮交際を思へば、必ずしも特に通信貿易の締盟を
日本支那朝鮮と三國相對して其奮交際を云へば樣々舊例もあらんと雖ども、西洋近代の文明を我東洋諸國に傳
へてより、復た舊を語るの時に非ず。日本國は東洋に文明の魁を爲したるものにして、開國二十餘年来、内の改
進に怠らず、内國の事務漸く緒に就くに從て、又隣國の支那を促がし、又朝鮮に使節を遣り、和親貿易の條約を
諦〔締〕盟したるは、卽ち三國新交際の發端にして、其着手の譽は我日本國に歸す可きこと論を俟たず。吾人内に在て
は永く後世子孫に恥ぢず、外に對しては廣く世界中に誇らんと欲するものなり。抑も始ある者は其終の責に任ぜ
ざる可らず。吾人卽に東洋政略の端を開きたる上は、唯其これを開きたるを以て譽と爲す可らず。必ずや其終の
責に任じて三國の文明を謀り、共に文明の賜を與にして、 共に自國の獨立を固くし、東方復た西人の鼾睡を容る
ゝなきこと、我責任の終局なり。吾人の目的は唯この一點に在りと雖ども、人心の同じからざる其面の如くにし
て、三國の人心其目的を共にすること甚だ難し。或は固陋にして變通を知らざる者あり、或は狐疑して他を信ぜ
ざる者あり。尚は甚しきは三國共同の大義を忘れて却て變亂を悅び、人を敎唆して人の交際を離間せんとする者
あるに至る。支那人の如き、我日本政府が我日本國の琉球藩を處分したるを見て猜疑の念を生じたる歟、頻りに
吾人の擧動に注目し、我一擧一動は悉皆支那人の喜憂たるが如し。近くは本年朝鮮の事變に際し、其前後支那人
が朝鮮に接するの情況を察するに、韓人の固陋不明なるを利して益日本人を疑はしめんとし、我れより朝鮮に軍
艦を遣れば支那艦も亦共に入港し、我れより兵士を上陸せしむれば支那兵も亦共に到り、或は支那招商局の名義