「朝鮮開國の先鞭者は誰そ」
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時事新報に掲載された「朝鮮開國の先鞭者は誰そ」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
朝鮮開國の先鞭者は誰そ
目下朝鮮の國勢を案するに本年七八月の事變以來支那政府の干涉日に深くして兵事に商賣に又外交に一切の政略に於て同國人の關り知らざるなし支那より這りたる練兵の敎師、礦山の學士等は既に其事に著手し、支那の商人は自在に朝鮮の内地に入りて商業を營み、各開港塲にも徃々支那店を設るの準備を爲し、其政府には支那より顧問の士を聘する等これを要するに朝鮮爲中國之所屬の名のみに非ずして漸く其實を表するものの如し抑も前年我日本政府が特に使節を派遣して朝鮮の開國を促かしたる其目的は隣國の好を以て其人民の睡眠を醒まし共に近時の文明を與にせんとの趣旨にして締盟以來專ら此旨に從て我朝野を共に大に注意す可き筈なりしかとも内國の事務多端の上に明治十年西南の大戰爭其援も樣々の事に妨けられて政府に於ても其交際に就ては甚だ盡力したるものとも思はれず又我人民の彼の國に赴く者も貿易の爲に大賣豪商にして奮起したるは甚だ稀にして多くは無産の輩が一時幾世の〓〓を〓る者に〓きされば固より以て彼の國人の信を取るに足らず殊に商賣〓利の域を離れて學者士〓子の流が特に彼の民情視察のため、學術傳敎のために渡航したる者の如きは曾て其人あるを聞かず、壯年後進の輩にして朝鮮の語學稽古のために徃來したる者さへ少なきは我日本人は朝野共に朝鮮の交際を怠りたる者と云はざるを得ず
朝鮮の國たる日本と支那と兩國の間に挾まりて其國論は兩國の孰れかに依賴して運動し又變化するは論を俟たずして知る可きの勢なるに元來日本人の氣象として支那人を輕侮蔑視すること甚しくして毫も之に心を〓せず殊に近年に至るまで支那政府より朝鮮の内治外交に干涉したることもなきが爲に尚更に安心して依然たる無爲の舊支那人なりと容易に之を看過せしことなれとも近時文明の利器たる蒸氣電信の力はよく此無爲の人民をして活發なる働を成さしめ朝鮮の外交に就て〓きには我日本人が着鞭の先を占めて諸外國に對し恰も東道の主人たりし物も今は却て落後の支那人に主座を讓りて主客其處を異にするものの如し俗言これを評すれば之を我日本國の油斷なりと云はざるを得ず抑も東洋の政略に就ては我輩過日來時事新報紙上に論したることもあり又今後も隨時論する所あらんとする者なれとも其條件は姑く他日に讓りて爰に我日本國が朝鮮の交際に就て先鞭の榮譽を全ふせんとするの方略を案するに我國の兵力以て支那に敵す可し、我外交官の智略以て之に接するに足る可しと雖ども今兵を去り智を用ひざるも日支相比較して到底支那人が我れに對して企て及はざる所のものあり葢し支那の國土は日本に十倍し、其〓財も亦十倍し、士人智略なきに非ず、商人よく利を〓むと雖ども西洋近時の實學に身を委ねて物理の天然原則を知り之を人事の實際に適用して社會の改進を謀らんとする者の如きは大淸十八省を擧けて指を屈するの數ある可きや我輩これを信すること能はず試に近代其國の著書新聞紙を見よ法理文〓の四課に關して支那人の手に成りしものは誠に稀有なるに非ずや彼等の依賴する德敎は周公孔子の遺言にして然かも今日の事實に行はれたるものを見ず理論は則ち談天彫龍にして智略は蘇張韓非子の舊套に過きず近來稍や西洋に採る所ありと云ふも所謂錢を以て文明の器を買ふたるものなれば固より以て百年の基礎と爲すに足らず畢竟彼等が虛妄徒大の罪にして容易に反省の時を期す可からざるなり此點より論すれば彼の有名なる李鴻章と云ひ左宗棠と云ふが如きも個の老腐儒にして其智識の淺劣なる我日本小學の生徒に恥るなきを得ず支那全國無識の世界と云て可なり無識の人民は仮令ひ一時の虛勢を張るも無根の草木、無〓の〓〓の如く終に永久を保す可きに非ずして之に與みすることも易く又これを倒すことも甚た易し例へば十數年前我日本國の形勢も殆と今日の支那朝鮮に異ならず〓天下儒者の〓淵にして儒〓〓空氣を以て掩ひ今の所謂法理文〓學の如き誠に〓々有〓の問〓彷彿たるものなりしかとも當時〓〓區々の微力以て西洋實學の主義を首唱し〓て〓儒〓を一掃して之を改進の道に入らしめんとて終始一の如くにして〓日に至ては儒流都て顏色なし或は卒〓の反動よりして復古の情况あるが如くなるも〓〓再び燃ゆ可らず結局日本に於ては腐儒を倒し了りたるものなり仮令ひ其人を倒さざるも腐儒學の精神は既に巳に死したりと云はざるを得ず既に内國の腐儒を倒したり進て隣國の腐儒を征伐する決して難事に非ず盖し學者進取の氣象は正に此邊に在て存す可きものなり故に我輩は朝鮮の近況を察し一時支那人が虛勢を逞ふするを見て一度ひは其活發なるに驚くと雖ども結局朝鮮の人民を導て文明開化の道に誘引するは支那人の企て及ぶ所に非すして特に我日本人の正に任す可き所なれは吾人は支那と爭ふに兵力を以てするの外に我所得の學問を以てして吾人が朝鮮國を開きたる先鞭の榮譽を全ふせんと欲する者なり