「日本帝國の海軍」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「日本帝國の海軍」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本帝國の海軍

國を宇内に立つる者兵備の止む可らざるは古今明白の事實にして今殊更に我輩の辨論を要せず殊に我日本の如き海表に僻在する嶋國に在ては就中海軍の強大なるを要すること既に輿論の識認する所なり然るに海軍の組織に必要なるは第一其指揮運用の任に當る將校士官にして第二將校士官の指揮運用に供する戰艦砲銃なり我日本政府も大に茲に見る所あり舊幕府以來今日に至るまで或は海軍生徒を和蘭英米諸國に留學せしめ或は教師を外國より聘して國内に兵學校を興す等海軍適用の人才養成の一事に關しては金銀勞力惜しむに足らず大に力を致したる甲斐ありて今日は既に海軍に人才の乏しきを憂ひざるのみならず却て人の多きに當惑して船艦の少なきを憾むの情あるは人才養成の目的を一應達し得たるの證として見るべきなり

海軍の強弱は其將士の良否生熟と船艦砲銃の堅脆利鈍並に其員數の多少に由て之を區別すべきは勿論の事にして人と〓〓相須〓て始めて功を奏すべきなり海戰の實例に於て砲艦の利堅も之を使用するに其人を得ざれば全く其用を爲すこと能はず近くば千八百七十七年南亞米利加ペリウ國内亂の際同國の艦船「ハウスカー」号が英國の無甲銕「〓〓ガツト」形「シヤー」號及び「コルベツト」形「アメシスト」號との砲戰の如き「ハウスカー」號は四寸半乃至五寸半の甲銕にして十二〓半の「アームストロング」砲二門及び其他の大砲三門を備へ隨分有名なる堅艦なり「シヤー」號は〓甲銕なれども大砲は十八〓砲二門〓十八門を備へタ〓ル〓〓〓〓〓〓〓〓二艘〓英國〓〓〓〓〓〓〓〓〓に於て「ハウスカー」號が〓〓〓三〓〓砲〓の〓〓も入り〓〓交〓したり〓時敵味方の距離は七百五十〓乃至千二百五十間なり英艦より放射したる砲丸の「ハウスカー」號に命中したるもの七八十此内過半は甲銕の外面僅かに其痕跡を遺したるのみにして甲鉄に三寸程の凹〓を生じ得たるものは僅かに三個、艦側を貫ぬき艦内にて一人を殺し他の一人を傷けたるもの唯一個なり甲銕の破り難き以て知る可し然るに「ハウスカー」號より英艦二艘に向ひて放射したる大小の砲丸は一も命中したるものなく其中の唯一個が敵船の帆綱を毀損したりしのみ時人此海戰を評してペリウ國のために之を惜み若し「ハウスカー」號乘組の海軍人をして良將棟卒ならしめたらんには一發の下に二艘の英艦を沈沒したるや疑なしと云へり次て千八百七十九年ペリウチリ兩國開戰の時に當り「ハウスカー」號はチリ國の銕艦「コチユレーン」「ブランコ」の二艘トボリビヤ國のメジロン灣外にて砲戰し遂に捕獲せられたることありチリ國の銕艦は二艘ともに吃水線にて甲銕の厚さ九寸大砲は十二噸半の「アームストロング」砲六門を裝載したり此戰に敵味方の距離は最初砲撃を始めたる時千六百間なりしもの漸く■(にすい+「咸」)縮して二百五十間となり最後に至りては僅僅七十五間以内に在りたり對戰の時間は二時間餘なり此間チリ國の軍艦より放射したる砲丸は二艘合して大小七十六發にして其命中するもの廿五個此内にて「ハウスカー」號の艦側或は砲臺の側面を貫ぬきたるもの七個にして同艦長を始め士官以下即死せし者九十一名なりき而して此劇戰の間「ハウスカー」號より「コチユレーン」及び「ブランコ」の二艦へ向け放射したる砲丸は大小四十發にして此内命中したるは唯に三個のみなりしが是迚も敵艦の甲銕厚きがため何等の損害をも生じ得ざりしなり時人此海戰の次第を聞きて兩國海軍人が伎倆の未熟なるに驚かざる者なし平穩の海面に於て七十五間以内の距離にまで接戰したるに七十六發にして廿五發の命中なりしは寧ろ海軍人の恥辱と云て可なり况や四十發にして三發の命中なりしが如きをやとて世界海軍人の評判に上り今尚ほ喧喧する所なり此一例の如きも亦船艦砲銃の堅牢利鋭は其用全く之を使用する人の熟練に在て存するを知るに足るべし海軍に良將練卒の必用なるは我輩の多辨を要せざるなり海軍水兵の如きは陸上の畑水練を以て其伎倆の熟達を望む可らざるは無論の事なりと雖ども其上等の將校士官の如き學術上の知識を以て第一の〓要事〓認めたる人人に於けるも同しく亦陸上の修〓のみを以て足れりとす可らず必ずや水上の軍艦に在て實物を指揮〓〓し天變地異人爲〓障碍を〓〓〓來〓〓〓〓〓将〓士官の〓の任〓全く〓得べき〓〓故〓〓我國の海軍の如き兵學卒業の人才に乏しからざるも實地航海の軍艦〓少なるがために十分に實地の演習を爲さしむべき機會を得ず現在〓の如く林の如き人才をして空しく海洋を望みて身の閑なるを歎せしむるが如き〓〓ためには直接に海軍の實力に影響する所少なからず國のために謀て遺憾至極なるものと云はざるを得ず彼のペリウ〓〓兩國海軍人の如き〓决して無學無〓の人人にてはあらざるべく必ずや自から許すに良將練卒の名を以てしたりしや疑ふ可らず然れども平日に在て尚ほ其實地演習の尽さざりし所ありしにや一旦戰に臨みて折角の堅艦利砲をも活用すること能はず永く世界の海軍人中に笑を〓したること我輩兩國人のためには深く之を惜み日本海軍のためには當面に戒むべき〓車あるを喜ぶなり

               (以下次號)