「日本帝國の海軍(去十日の續)」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「日本帝國の海軍(去十日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本帝國の海軍(去十日の續)

我輩は今歐洲諸國の海軍を閲し了りたるを以て爰に又轉じて亞米利加諸國の海軍を■(てへん+「檢」の右側)すべし北米合衆國は建國以來海軍の準備甚だ等閑にして事有るの日に當て火急に船艦を製造或は購買し并に水兵を募集すると雖ども事無きの日に至れは全く之を忘れて顧みざるを常とせり千八百十二年英國と兵端を開きたる時は多くは海上に接戰し世界有名の海王に敵對するものなりして以て其當坐合衆國の海軍は大に面目を改め船艦の増加は姑らく之を舍き海軍人の勇猛精練なるがため實力の増進したるは實に非常なるものなりし爾來無事の日の永きに隨て漸く武備を忘れて一旦忽ち南北戰爭の内乱起り政府の狼狽一方ならず當時全海軍の船艦八十二艘なりして即坐に新造に着手して千八百六十一年より五年迄全四年間の内乱中に甲銕艦無甲銕艦運送船水雷火船等合計百七十七艘を製造したり其費用は裝載の兵器に屬するものを除き六千四百二十六万弗又此新造艦の外軍用のために商船等を買入れたる總數四百九十七艘此代價千九百六十八万弗なり斯の如くして同國の海軍は此内乱のために僅か四年間に八十艘より一飛して七百艘の軍艦を有するに至りたり此時復た合衆國海軍の名聲は世上に隱れなきものとなりしが内乱鎭定と同時に政府は海軍■(にすい+「咸」)退の事に着手し三年ならずして早く既に其船艦四百艘を賣却し十五年後の今日に於ては軍艦の總數再び又百艘に滿たざるものとなりたり目下銕艦二十艘あり其甲銕の厚さは四寸半乃至七寸裝載の大砲は口徑十五寸のものを以て最大とし進航速力は大抵〓六「ノツト」にして十「ノツト」内外のものは二三艘に過きず海軍人の總數一万千五百人海軍省の定額は千八百八十一年度のもの千五百万弗なり

合衆國を除くの外は南北亞米利加〓國にて強大の海軍を有する者甚だ少なしブラジル國の海軍は軍艦大小七十艘を有し此内銕艦十八艘あり其二艘は千八百七十五年佛國にて製造したるものにして甲銕の厚さは十二寸裝載の大砲は口徑十寸のもの四門進航速力は十一「ノツト」なり此二艘を除くの外他は皆舊樣の小軍艦なり千八百七十五年海軍省の定額は銀貨千零五十万圓海軍人の總數は四千七百人機關士の如き十中の八九は英佛兩國人を傭使せる者なり」チリ國の海軍は軍艦十三艘を有し此内銕艦三艘あり本篇初起の章に記したる「コチユレーン」「ブランコ」の兩艦并にペリウ國より捕獲したる「ハウスカー」號即是なり「コチユレーン」「ブランコ」の〓艦は同形の軍艦にして甲銕の厚さは吃水線にて九寸裝載の大砲は重量十二噸半の「アームストロング」砲六門進航速力は十二「ノツト」又海軍人の總數は千五百人なり」此外ペリウ國アーゼンタイン共和國等の海軍は軍艦の數各十艘内外なり

我輩は既に歐米諸國の海軍を■(てへん+「檢」の右側)閲し了りたり而して以上諸國の外に今一箇國我輩の■(てへん+「檢」の右側)閲を必要とするものあり我西隣の支那帝國即是なり両三年以前迄は支那帝國の海軍は軍艦六十艘より成立つものなりしが近日兵事新聞の報する所に據るに目下正に百零五艘に増加したりと云へり然るに我輩は未た此の百餘艘の明細書を見ざるを以て爰に該國の海軍を■(てへん+「檢」の右側)するに當り隔靴の憾實に山の如しと雖ども我輩が聞見の足らざる所にして今更之を如何ともすること能はず依て止むを得ず我輩が知る所のもののみで擧げ讀者の參考に供すべし則ち不十分ながらも尚ほ無きに優るものあらんとの意なり抑も從來支那政府が軍艦を獲るの法は福州上海等の自國の製造所に依頼するを以て常としたりしが明治九年初めて四艘の軍艦を英國に注文し〓て又同十二年更に四艘を注文したる以來は續續海外より新軍艦を購入し忽ち今日の強大なる勢力を〓すことを得たるなり英國にて新造したる八艘の軍艦は〓〓同形同種にして積量四百噸乃至四百四十噸の小軍艦なり各艦装載の大砲は重量二十六噸半乃至三十八噸の「アームストロング」砲一門と外に小量のもの三四門進航速力は〓乃至十「ノツト」なり此外に又英國して新造したるもの八艘あり其積量は百噸より二百二十噸迄の江河用の小軍艦なり福州の造船所にて製造したる軍艦の數二十一艘其裝載する所の大砲は重量七噸乃至九噸のものにして中に十一噸砲を備るもの一艘あり又一〓〓〓〓の〓〓〓〓〓に注文して新造したる〓〓(〓〓と號するやに〓〓)は頗る堅牢なるものなりと云へり〓〓〓〓人が〓〓の海軍を評して東洋の老〓〓と〓人〓〓〓〓〓したる支那國にして近日〓海軍の〓〓は實に〓て騷がすに足るものあり〓軍艦に〓載する三十八噸砲は今月今日こそ新奇ならざれ其製造の當日に於ては實に世界無比の大砲にして天下の軍人をして悉く其耳を聳てしめたりき〓〓にして仍ほ支〓〓老耄視するの淺見者ありて他を〓侮して自から〓〓〓て知らざることあらんには一旦臍を噛むの〓〓きを〓〓可らず云云と云へり我輩も亦此評に同〓〓んと欲するなり        (未完)