「日本帝國の海軍(昨日の續)」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「日本帝國の海軍(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本帝國の海軍(昨日の續)

我輩局外者の考案に依り我大日本帝國の海軍には差當り七十餘艘の良艦を要すとし此良艦を新造するの費用三四千万圓も五年或は十年を期して支出すべしと决するときは次に議すべき事項は此新艦を外國に注文して製造するや或は又内國の造船所にて自製するやの一事なり然るに軍艦製造に關しては無論外國に注文するを禁して專ら内國に自製するを得策とするは古今明白の理たりと雖ども今我日本に於て俄かに海軍の擴張に着手し俄かに其目的を達せんとするには新軍艦の製造は過半之を外國に依頼するの外に手段なかるべし海軍省所轄の内國造船所は横須賀の一所あるのみ他に神戸長崎の工作分局東京横濱神戸大坂函館等の私立造船所等ありて其欠を補ふに足るものの如しと雖ども横須賀の造船所すら未だ以て大に其用を達するに足らず况や私立の造船所の如き小形の帆船にあらざれば江河用の小■(さんずい+「氣」)船に限り製造し來りたるものにして今俄かに堅牢大形の軍艦製造は迚も企及ふ所にあらざるべし尤も今回横須賀製造所にて新造する葛城號の姉妹船一艘は其製造を神戸小野濱の「キルビイ」造船所に注せられたる由なれば横須賀の外に日本全國造船所なしと云ふにはあらざれども私立の造船所には目下未だ大に望を屬するに足るものなしとして不可なかるべし故に今の急を〓ふの用には成る可く丈け横須賀造船所の規摸〓大〓〓て、せめては一年の間に四五艘の軍艦を新造するも差支なき程のものと爲し日夜〓艦の工事を催促して尚ほ及ばざる所は之を外國に注文するの外なかるべきなり

横須賀造船所は徳川政府以來の〓〓にして工事の總費用は凡四百万兩を要するの見込を以て慶應元年佛蘭西人に依頼して其經營を始めたり徳川政府は此所にて兵器をも製造するの見込なりして以て其名も製銕所と唱へたりや明治政府の管する所と爲りし以來十六年間大に其經營に力を盡し遂に今の造船所を成すに至りたるなり然れども我輩が聞く處に依れば慶應元年以來今日まで工事の總費用は未だ其當初徳川政府が豫算の金額に達するに至らずと云へり所内の面積凡十六町歩にして乾船渠二個あり一は長さ三百七十七尺閘門の幅八十二尺一は長さ二百八十八尺閘門の幅四十九尺なり今一つ築造中の新乾船渠長さ四百七十六尺閘門の幅九十五尺のものあり造船斜は三個あり各斜ともに三百尺の船を造作すべし所内に於て蒸氣機關綱具等を製造するの凖備十分なり然るに横須賀製造所に付き軍人の評論を聞くに灣口狹く灣内水深く〓を撓るの岡阜皆高く横須賀は實に天然形勝の地なりと雖ども惜むべきは海陸共に人工を費したる禦防の用意あるを見ず一旦事有るの日に當り敵の艦隊一喝して富津の海峽を過ぎ艦首を左して横須賀灣に闖入せんに之を能く〓くことなかるべく敵に兵を貸すの慮なきに非ざるべしと云へり我輩は批評を聞き兼て又外國各造船所の守衛嚴重なるを見聞して反て之れを巳れに求め大に寒心する所なきに非ず切に當局者の注意を希望するなり

我輩今歐米各國の造船所を■(てへん+「檢」の右側)閲して更に讀者の參考に供すべし

英國は世界第一の海國なるが故に隨て造船工築の盛大なるも亦世界第一なり故に海軍直轄の造船所は其數决して多からずと雖ども私立の造船所甚だ多く且つ其凖備も十分なるを以て急に臨みて船艦を製造するに更に遲〓の〓あることなし又海軍省の政略たる國内の造船術を奬勵するに在るを以て平日と雖ども蒸氣機關の新〓〓〓〓私立製造所に注文し海軍直轄の造船所にては唯其修覆を爲すのみに從事せり直轄の造船所五箇所〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓ヴオンポルト及びケイハム、シ〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓ータ以上是なりボル〓〓〓〓〓造船所は英海峽に在りて其警備甚だ嚴なり各砲臺〓〓重量三十八噸の大砲を備ふ所内の面積〓十七町歩にして濕船渠一個乾船渠十一個あり工塲其〓の結〓に至るまで英國海軍造船所中の第一等なり」ナヤタム造船所は〓〓ウエー河畔に〓〓〓〓〓〓河口を溯ること十二英里の上流なり〓〓〓〓〓〓〓〓〓らるるの憂甚だ少なしと〓〓然れども亦〓〓の〓〓〓嚴にして〓〓に七所の〓〓あり所内の面積〓〓八町歩なりしもの千八百六十三年國會の决議に依て更に百町歩餘の地面を〓入れ直に土木の工事に着手したり未だ竣工には至らされども費用は建物を除き銀貨九百四十七万圓を下らざる豫算なり從來の所内には乾船渠四個造船斜七〓あり」デブオンポルト及びケイハムの両造船所は英國の南海岸に在り重に軍艦修覆の用に供す両造船所は相隔ること十二町隧道を通じて徃來せり所内の面積各二十九町歩にしてデヴオンポルト造船所は重に木艦を製造しケイハム造船所は蒸氣機關の修覆製造に從事すケイハムには濕船渠二個乾船渠四個ありて乾船渠の大なるものは長さ六百尺あり」ペンブロークの造船所は、南ウエールスの海岸に在りて單に船体の■(てへん+「檢」の右側)造のみに從事す所内の面積三十一町歩あり」シーヤニースの造船所はテームス并にメドウエー両河合流の隅角に在りて專ら船艦修覆及び煙航治裝の事務に從事す所内の面積二十三町歩にして濕船渠三個乾船渠五個造船斜一個あり

以上英國海軍直轄の造船所なり五所の甃石乾船渠の總數は三十七個造船斜の總數は上屋の用意あるもののみ三十一個濕船渠の面積は合計五十三町歩なり此五所の造船所にては砲銃の製造を爲さず又軍艦へ糧食の供給をも爲すことなし一切の兵器は海陸軍ともウーリツチユの兵器局より供し軍艦の糧食は〓プトポルト、ゴスポルト、プリマウス、ホルボウリンの五港に設置したる管理局より供するなり又此外に一旦緩〓の際英國政府が使用し得る所の私立銕船製造所の總數は國中に凡そ五十箇所あり私立蒸氣機關製造所又は私立造船所附屬の乾船渠の如きは何樣の急難に臨むも〓げて用ふ可らざる程の大數あるなり(未完)