「讀新聞紙條例」
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時事新報に掲載された「讀新聞紙條例」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
我國に新聞紙なるものの始て行はれたるは舊幕府の末年洋學士の創意に出たることにして初の程は唯世上の風聞を記し序ながら少しく學問の談を交るなどの事に止まり、差したる意味もなきものなしりが維新の段に至て大に趣を異にし政府よりも頻りに之を〓〓して次第に盛大を致し五六年を經過する間に新聞社も次第に増して隨て混雜も亦少なからざるに就ては何か規則なくては叶はずと云ふ塲合より明治六年十月始めて新聞紙發行條目なるものを布告せられ其〓も國中に新聞紙の發兌は日を逐ふて増加し其論説に耳を傾る者も多くして往往政治上に關することもあるに付き又其取締の爲に明治八年六月新聞紙條例を布告して刑罰等を定めたれ以て今日に至りしことなり然るに窓戸よく鎭して竊盜愈多く竊盜愈多くして鎭〓愈嚴なりの諺に違はず今日の有樣にては明治八年の條例を以て十分の取締とするに足らず一昨日又重ねて改正の〓を布告せられたり盖し利器を取扱ふものは怪我も亦多し新聞紙上往往〓〓の議論を記して〓を〓するものなりと認めらるるものは則ち新聞記者の怪我にして條例は此怪我を防くの備なり我輩は新聞記者中に怪我人の多きは固より願ふ所に非されとも事の全面に就て視るときは人文未だ開けずして新聞紙を記す者も痴鈍にして議論の要點を知らず、之を讀む者も痴鈍にして其言を悟らず、利器の利未た眞に利ならすして之が爲に怪我する者もなければ又怪我を防くの備をも要せさるが如き痴鈍愚昧なる時代に比すれば今日を以て人文の活溌なるを祝せざるを得ず我輩は今回改正條例の布告を視て我日本國又事進歩の明証として認る者なり但し怪我は新聞記者の功名に非ず活溌の文字は其字〓動もすれは軽躁に類して自から活溌と〓するものが事實に於て軽躁の働を呈すること多し其趣は自から着實と稱して裏面に卑屈なるものあるが如し、輕躁にして徒に禍を買ふを爲さず卑屈にして苟も免かるるを求めず正に不羈獨立の地歩を占めて新條例の〓を爲すなきこと我輩の自から目的とする所なり
今新舊條例の相異なる要點は新條例第六條に編輯人印刷人互に相兼ることを得すとして其第十八條に犯罪は持主社主編輯人印刷人及筆者譯者共犯を以て論すとあれは二者相兼ねしめざるは罪を二人に歸して責任を重くするの趣意ならん
第七條に持主社主編輯人印刷人たる者を滿二十歳以上の男子に限り又公權を剥奪せられたる者演説を禁止せられたる者にも之を許さずとあるは未丁年の故を以て罪の■(にすい+「咸」)〓を得せしめざるの趣意ならん、又演説などする者は大抵新聞紙へも關係あることなれは此條は或は間接に演説の取締にも爲ることならん
第八條に保證金の事あり東京は千圓京都大坂横濱神戸等は七百圓他は三百五十圓と定められたるは從前無産無資本の輩が一時の〓〓にて新聞紙を發行し數月ならずして忽ち〓へて跡なきものあり其〓〓等の爲に徒に官を煩はすのみならず事の体面も甚た美ならずして我輩の常に嘉みせざる所なれとも是れは政府より干渉す可きの限にあらすとするも其新聞紙が犯罪罰金等の沙汰に及ふときは身代限は覺悟の〓なりなど云ふ内意を以て罰金を納めざる者もありし由なれば保證金の法は是等の豫防に設けたることならん第二十條に裁判費用及罰金を納完せず又は損害を賠償せざるときは保證金を以て之に充つ可し云云の文を見て法の精神を窺ふ可し
明治九年七月の布告に新聞紙雜誌雜報國安を妨害すと認めらるるものは内務省に於て其發行を禁止又は停止す可しとありしものは新條例第十四條に〓大抵〓〓の言を記したれとも其第十五條に各地方に於て發行する新聞紙前條に觸るる者と認るときは府知事縣令は其發行を停止云云とあるは大に地方官の權を増したるものと云ふ可し
舊條例に印刷器を沒入するの擧は唯官准の名を冒す者に限りたるものが新條例第十六條には發行を禁止若くは停止したるとき内務卿は其新聞紙を差押へ又は發賣を禁し其情重きものは印刷器を差押ふるを得とあり又第三十四條にも陸海軍卿外務卿が特に命令を下して云云の事を記載するを禁し其禁を犯す者は禁錮に處し罰金を附加し情重き者は印刷器を沒■(「状」の左側+「又」)すとあり又第三十七條にも印刷機沒■(「状」の左側+「又」)の罰あり舊條例に比すれば一層の嚴密を加へたるものと云ふ可し印刷器は價の容易ならざるものにして新聞紙社資本金の大半を占め其大切なるは航海〓〓〓の船の如きものなれば之を差押へられ又沒■(「状」の左側+「又」)せられては即日より印刷の營業を失ふて直に社員の生活上に差響く可きが故に之が爲には何れも皆徹骨の感を爲して大に〓〓を加ることならん加之新聞社にも或は印刷器を所有せざるもの多くして其發兌の新紙は他の印刷專業の者へ托するの慣行なれば其紙中に記したる事項に由て〓、新聞社に落るときは印刷專業者も之に坐して器械を差押へられ又沒■(「状」の左側+「又」)せらる可し假令ひ萬一の事とは云ひながら苟も危險なれは之を犯して業を營む者は少なかる可し或は今後印刷營業の者は新聞社の摺物と聞いて一切これを謝絶するが如き〓談を聞くこともあらん
第十七條に一人又は一社にして數個の新聞紙を發行する者一個の新聞紙を停止せられたるときは其停止中他の新聞紙を發行することを得すとあり從前新聞社の手段に一紙を停止せらるれは翌日より他の一紙を發兌して〓に其代用に供す俗言これを替玉と云ふ解停の日に至れば替玉の發兌を止めて舊に復するか故に停止の罰も大に社の利害を輕重するに足らす畢竟狡猾手段に出たるものなりしが今回十七條の〓を以て替玉の工夫は〓く行はれざることならん
右は新舊條例比較の大概なり尚其詳なるは時事新報昨日の官報欄内に就て見る可し何れ〓〓今回の改正に由て條例の嚴密を増したるものなれば各社新聞紙共に必す〓〓することならん法を犯す者多くしては其犯罪者の不幸のみならす國の体面に於ても其の美ならす政府とても固より罪人の多きを以て愉快とするに非ざる可し〓に新聞紙より生する罪は實物に關する罪に比すれは其輕重を量ること易からされば政府は此邊に就て特に〓〓用ひて其輕きにもせよ又重きにもせよ一變不〓の〓平を以て〓〓〓〓〓せしめ政府も人民も自國の体面のため、海外〓外國の〓めと思ひ相互に用心して次〓に〓〓の〓を〓し〓には〓あるも法を用るを〓〓〓るに〓〓んこと〓〓〓〓〓〓〓〓なり