「國立銀行條例の改正加除(昨日の續)」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「國立銀行條例の改正加除(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

次に新舊條例第六十一條を比較するに

新第六十一條

此條例を遵奉する銀行に於て預り金の返濟又は爲換手形約束手形等の支拂をなすに當り兼て積置きたる凖備金を以て之を償ふこと能はざるときは其銀行の株主等各其所持の株數に應し別に出金して一時之を償辨するの責に任すべし(但し此出金は全く一時償辨の爲めにして其株金と異なるを以て其銀行は速かに之を各株主へ返辨すべし)

舊第六十一條

此條例を遵奉する銀行に於て銀行紙幣の引換或は預り金の返濟又は爲換手形約束手形等の支拂をなすに當り兼て積置きたる凖備金を以て之を償ふこと能はざるときは其銀行の株主等は各其所持の株數に應し別に出金して一時之を償辨するの責に任ずべし(但し此出金は全く一時償辨の爲めにして其株金と異なるを以て其銀行は速かに之を各株主へ返辨すべし)

今回の改正に依り此第六十一條中〔銀行紙幣の引換〕と云ふ一句を除きたるまでにて他に何等の變更もなし此一句を除きたるは國立銀行紙幣の引換は以來日本銀行にて其責に任するが故なるべし

次に新舊條例第八章の題言を比較するに

新第八章

利益金分配の方法を明かにす

舊第八章

利益金分配の方法及ひ積金割合の規定を明かにす

今回の改正に依て此題言中より積金割合云云を除きたるは此章の第八十條を削除したるに依るなるべし

次に新舊條例の第七十九條を比較するに

新第七十九條

此條例を遵奉する銀行の頭取取締役等は毎半季其銀行の總勘定をなし其總益金の内より諸雜費并に損失補償の金額及び滯貸金の凖備を引去り其餘を以て純益金となし之を總株主へ分配すべし尤右利益の計算は株主に分配せざる前十日以内に(郵便遞送日數を除く)大藏卿へ差出し其承認を得て後之を株主一同へ分配すべし(但し慥かなる抵當物或は確實なる引受人ある貸付金を除くの外其返濟期限を過ること六ケ月以上に及ぶものは都て之を滯貸金と看做すべし)

舊第七十九條

此條例を遵奉する銀行の頭取取締役等は半季毎とに其銀行の總勘定をなし其總益金の内より諸雜費并に損失補償の金額滯貸金の金額(若し之あらば)を引去り其餘を以て純益金となし又此内より次條に規定せる積金を引去り其餘の金額を以て總株主へ分配すべし尤右利益の計算は株主に分配せざる前十日以内に(郵便遞送日數を除く)紙幣頭へ差出し其承認を得て後之を株主一同へ通知し且新聞紙を以て世上に公告し而して之を株主一同へ分配すべし(但し慥かなる抵當物或は確實なる引受人ある貸附金を除くの外其返濟期限を過ること六ケ月以上に及ぶものは都て之れを滯貸金と看做すべし)

以上兩條例の比較に於て格別相違の廉なし但し舊條例に於て銀行純益金の内より滯貸金の金額を引去るべしとありして舊條例の於て滯貸金の凖備を引去るべしと改めたり盖し舊條例に從ふときは十万圓の滯貸金にて五七万圓の抵當物あるものも一錢の抵當物なきものも之を同一視し共に其金額十万圓丈けは純益金中より引去らざるべからざるかふ疑ある然るに新條例にては滯貸金の凖備とあるを以て十万圓の滯貸金にて五万圓の抵當物あるものは殘り五万圓を引去り一錢の帝王物もなきものは全額十万圓を引去ること改まりたるが如し

次條の第八十條は新條例中に全く之を削除したり

新第八十條

削除

舊第八十條

此條例を遵奉する銀行は其資本金額十分の二に至るまで毎半季其純益金の内より少なくとも十分の一宛て引分け之を積金となし以て非常の豫備に供すべし右積金一旦十分の二の員額に至るの後若し損耗其他事故ありて右割合の金額より■(にすい+「咸」)少するときは尚ほ其後毎半季純益金の内より少なくとも十分の一宛て積立到底右十分二の員額に復すべし

斯の如く純益金の内より十分の一以上の積金をなすの舊法を廢したるは今回の改正を以て國立銀行の損失に備るの手當他に十分なるものあるが爲めなるべし

次に新舊條例の第八十三條を比較するに

新第八十三條

國立銀行の役員たる者諸相塲に〓し投機の商業に從事し危險なりと認むるときは大藏卿は銀行に命し其役員を退職せしむることあるべし

舊第八十三條

此條例を遵奉する頭取取締役たる者は自から此條例の箇條に★戻★るべからず或は銀行の役員其他の者をして之に★戻★らしむべからず若し背戻のことあるに於ては此條例に於て其銀行へ附與したる特殊の權利は悉く之を取上くべし(但し右頭取取締役此條例に背戻するときは紙幣頭は其裁判所(又は其府縣の庁斷主任官員)へ通達して之を推糺し其罪の實あるに於ては即ち其銀行を鎖店せしむべし)

舊條例の本條に於ては銀行役員の不應爲を〓〓するの次第甚だ漠然とし其及ぶ所の廣かりしもの新條例に於ては相塲投機の商業に從事する者は退職せしむることあるべしと云ふを以て〓〓〓〓の次第甚だ判明なりにしがため其區域の狹まりしものは他の條條に於て充分之を〓ふ所あるが故に之を〓言すれば新條例の方役員監督〓〓の法一層嚴密を加へたるが如し

次に新舊條例第十二章の題言を比較するに

新第十二章

官命鎖店の塲合特例監督役跡引受人等の〓〓〓并に公債証書の〓〓〓〓〓〓引換等の手續を明か〓〓〓

舊第十二章

銀行に於て其紙幣引換を拒みし時の處分特例監督役跡引受人等の取扱方并に公債証書の歿入及ひ紙幣引換等の手續を明かにす

今回の改正に依て國立銀行紙幣の引換を日本銀行に負擔せしめ更に又此章中官命鎖店の條を加へたるを以て斯〓〓言の更正ありたるなるべし

次に新〓〓〓第九十一條を削除したり

新第九十二條

削除

舊第九十二條

此條例第六十六條に規定する銀行の營業時間中其發行紙幣を其本店又は支店(銀行紙幣引換の事務を取扱ふ)に持參して通貨と引換を望む者あるとき其本店又は支店に於て之を拒み又は之を怠りて其引換をなささるに於ては右紙幣の持主が其趣を書面に認め之を其管轄地方官廳へ差出し其銀行へ掛合方を乞ふべし尤頭取取締役其掛合方を止んとするときは其引換を拒みし旨趣及び其金額月日等を書面に認め頭取又は取締役之に記名調印して之を紙幣持主へ渡すべし然るときは其持主は右書面を地方官廳へ差出すのみにして別に銀行への掛合方は乞はざるべし(但し預り金の返却を拒み又は怠りたる時も亦其預け主たる者本條に凖して申請することを得べし)

既に銀行紙幣の引換を日本銀行に任し各國立銀行は直〓の關係なきことと改りたる以上は新條例に於て此第九十二條を削除すべきは無論のことたるべし(未完)