「國立銀行條例の改正加除(昨日の續)」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「國立銀行條例の改正加除(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

次に新舊條例第九十三條を比較するに

新第九十三條

國立銀行に於て左に掲くる事實あるときは大藏卿は鎖店を命ずることあるべし

第一 國立銀行の旨趣又は箇條に背戻し大藏卿其銀行を鎖店せしむるを相當なりと思考するとき

第二 國立銀行に於て負債辨

償の義務を盡す能はざる證據あるとき

第三 國立銀行に於て其資本金額〓十分の五以上の損失を生するとき

舊第九十三條

右地方官廳に於て紙幣持主より銀行へ掛合方の書面を領受するときは直ちに其銀行へ掛合ふべし而して其掛合状及び持主より差出したる書面の寫を紙幣頭に送達して其由を報知すべし尤紙幣持主より頭取又は取締役の調印したる書面のみを受取りたるときは唯其書面を紙幣頭に送致するのみにて銀行は掛合に及ばざるべし(但し紙幣頭へ報知せし書面の寫は其地方官廳に藏め置くべし)

新舊條例に於ては本條の言趣互に相異にして條の番號は共に九十三なるも其實双方關係なきものなるが故に對比して其異同を見るべき性質のものにあらず按するに舊第九十三條は國立銀行紙幣引換を日本銀行の負擔に移したるがため自今無用の字句に屬したるが故に之を削除し而して別に官命鎖店の法の新設あるを以て則ち之を新第九十三條としたる迄の事なるべし〓〓改正第九十三條中第一第二第三項に列記する銀行鎖店の法は舊條例に比すれば頗る嚴密にして其區域も亦甚だ〓〓なり銀行條例の旨趣又は箇條に背戻し大藏卿其鎖店を相當と思考するときと云ひ負債辨償の義務を盡す能はざる證據あるときと云ひ又資本金額十分の五以上の損失を生するときと云ふなど自今大藏卿が國立銀行を監督するには充分の力を用ることを得るなるべし

次に新舊條例第九十四條を比較するに

新第九十四條

前條に記載する事實ありと認むるときは大藏卿は■(てへん+「檢」の右側)査の官員を派遣し其事實を推糺せしめ若し相違なきに於ては都て其銀行の營業を差止め金銀其他の出納を禁すべし

舊第九十四條

右地方官の報知を得るに於ては紙幣頭は速かに■(てへん+「檢」の右側)査の官員を命遣し其事實を推糺し其背戻の事實相違あらざるときは都て其銀行の營業を差止め金銀其他の出納を禁すべし

第九十四條は其精神に於て新舊相異なる所なし

次に新舊條例第九十八條を比較するに

新第九十八條

此條例第九十六條に據り其銀行より沒入したる公債証書は大藏省の便■(わかんむり+「且」)に從ひ之を公賣若くは私賣し以て其銀行の發行紙幣引換の資に充るものとす但右公債証書の賣却代價紙幣下付高に對し不足あるときは大藏卿は他の債主に先ち之を其銀行の資産より徴收し若し下付高に對し過剩あるときは之を其銀行に下付すべし

舊第九十八條

紙幣頭は出納國債の兩頭に恊議し此條例第九十六條銀行より沒入する所の公債証書を通貨又は其銀行紙幣を以て公賣又は私賣とも爾時大藏省の便■(わかんむり+「且」)に從ひ之を世人に賣渡すべし尤其趣は新聞紙其他の手續を以て世上に公告すべし

本條中沒入の公債証書とは條例に背戻したる銀行より兼て紙幣の抵當として大藏省へ預り置きたるを營業差止めの後沒入せしものを云ふなり今回の改正に於て右公債証書の賣却代價紙幣下付高に對し不足あるときは大藏卿は其銀行の他の資産に向て先取りの權を有すとせしは其銀行の紙幣引換を益確實ならしむるの趣意なるべし

次に新舊條例第百三條を比較するに

新第百三條

此條例を遵奉する銀行鎖店の場合に於て跡引受人の入費等は都て相當の處分を以て大藏卿之を取極め他の債主に先ち其銀行の資産より之を辨償せしむべし

舊第百三條

此條例第九十二條に掲載するが如く銀行紙幣の引換或は預り金の返濟を拒み之が爲め生する所の費用即ち紙幣持主或は預け金ある者の出願入費及び諸■(てへん+「檢」の右側)査推糺の入費跡引受人の入費等は都て相當の處分を以て紙幣頭之を取極め其銀行より之を辨償せしむべし

今回の改正を以て舊本條中新條例と牴觸する部分を除き新本條中に銀行鎖店の處分に屬する入費は其銀行の資産に向て先取りの權あることを加へたるに止まるが如し

次に新條例第十六章は全く舊條例のなき所にして今回新に制定せしものなるを以て其新舊を比較すべきやうなし

新第十六章

銀行紙幣消却の方法を明かにす

舊條例

無し

新第百十二條

此條例を遵奉する國立銀行より發行したる紙幣は左に掲くる方法を以て其營業年限内に悉皆消却すべきものとす但其取扱手續は大藏卿之を定め日本銀行をして之に從事せしむべし

各國立銀行の紙幣引換凖備金は大藏卿の指定する期限迄に日本銀行に納附し營業年限内之を定期預けとなし以て紙幣消却の元資に充つへし

各國立銀行は毎半季利益金の多少に拘らず其銀行紙幣下付高に對し年二分五厘(即ち半季一分二厘五毛)に當る金額を引去り之を日本銀行に預けて紙幣消却の元資に充つへし

日本銀行は前二項に掲くる金額を預り各國立銀行と別段の約定を結び之が發行紙幣を消却して大藏省に上納するものとす但其約定書は大藏卿に呈して之が奧書證印を受くべし

日本銀行より右消却紙幣を上納したるときは大藏省に於て此條例第五十一條の手續に從ひ之を燒捨て其都度之を公告すべし

日本銀行より右消却紙幣を大藏省に上納したるときは豫て出納局に差出し置きたる紙幣抵當公債證書の内右消却高に相當する員額を大藏省より直ちに其銀行に還付すべし

舊條例

無し

新條例の第十六章第百十二條は今回改正加除の大眼目とも稱すべきものなるべし此條の制定に依て國立銀行の仕組を改めたるものを擧れば是迄の仕組にて營業二十年の後廢業せんと欲するときは其旨を世上に公告して發行紙幣を引換ることなりしに此條例のため今より直ちに紙幣消却に着手し二十年の後には一片札をも遺ささる事となれり又是迄は紙幣引換凖備として其流通金額の四分の一に相當する通貨を自家の金庫に貯藏すべき法なりしを以て例へば目今の如く都鄙の各市塲商况不景氣のため紙幣流通高寡少なるときは金庫の凖備金額も極めて少なくして間に合ひしもの今後は流通高の多少に拘らず紙幣下付高の四分の一に相當る金額は必ず日本銀行に納附し置き引出すことを得ざるべし又今後は利益金の多少に拘らず毎年紙幣下付高の二分五厘(即ち四十分の一)に當る金額を日本銀行に持行きて紙幣消却の費に供せざるべからず以上改正中最も著しきものと云ふべきなり

然るに目下全國各所の銀行庫内に在るべき紙幣引換凖備金總額七百九十五万三千二百二十圓は何れの日までに日本銀行へ引渡すべしと大藏卿にて指定するや又銀行紙幣消却の方法手續は同卿に於て如何に之を定むるやは今回銀行條例改正の全國理財上に關する大眼目とも稱すべきを以て此改正の影響を推求せんとするの前に先づ此等の期限方法手續等を知らざるべからず我輩幸に此等の事項に關し聊か聞込みたる所あるを以て取敢ず之を時事新報雜報欄内に於て〓客諸君に報道し追て諸君と共に其影響如何を推求すべし             (畢)