「東京の中央市區を定むべし」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「東京の中央市區を定むべし」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

東京の中央市區を定むべし

東京の中央市區を定むる事は故府知事松田道之君が在世の時專ら計畫せし所にして大に府民の注意を喚起し或は市區攺定と共に東京に築港し世界の船舶をして直ちに其埠頭に輻湊するの便を得せしめんとまでに熱心して大に論議する所ありき然るに一昨年十月政治社會の變動より引續き松田君の死去あり代て芳川顯正君其任を襲ひし以來は世人復た市區攺定を談せず府知事芳川君にも此事を心頭に懸くるやの噂だになし蓋し芳川君は其本官内務少輔にして來て東京府知事を兼任するものなるが故に其心を用るも一地方の事務に限ること能はず中央の省廳に〓し長官を補佐して大に全國の内務を理する所あるべく殊に同君が就任以來は政黨の議論全國に喧しく或は新聞に或は集會に或は演説に關して地方當局者よりの上申伺等に對し指令訓示を要することも多かるべければ其繁其忙我輩の想像し得ざる所のものあるや論を俟たず故に我輩は思ふに新東京府知事就任以來頓に中央市區攺定論の消滅したるは芳川君が之を爲すに意なきが爲めならず縱令充分に其意あるも本省の事務多端なるが爲め之を討論し之を實行するの餘暇を得ざるが故なるべし否ざれば君の明敏にして其職に在る既に一年未た嘗て一言の此重要事に及ぶことなきの理なければなり

文明開化の進步に從て人事次第に其繁を增し次第に其便を加ふ然るに人力の尙ほ不充分なる所あると天然力の尙ほ〓つべからざる所あるが爲めに此繁と便として全國一体に平分し遠近都鄙の別なからしむること能はず故に當代文明の〓〓以後は人民漸く一處に集合するの風を成し〓〓益大にして●人事益繁多に人事益繁多にして其便利益廣大なるの傾向あり英國の例を聞く〓〓船車電信郵便等の用次第に其及ぶ所を廣くし國民衣食住の度次第に上〓するに從て地方村〓に至るまで文明進步の跡〓々證すべ〓一見して風景の舊に異なるを感ずべしと雖とも唯其月日に至ては毫も〓〓の〓を見ず〓〓前日に〓る所あるも〓る所なきを〓とす然るに去〓〓〓の地に至れば正しく地方の實况に反對し文明の進步と共に日に月に戶別人別を增加し中央輻湊の勢は日一日に其强大を致して復た如何ともすべからず殊に倫敦の如きは近來人口の增加と共に新たに市街を作りて家屋を新築する其新街を一處に集めて直線に置かんには其延長毎年二十〓〓馬の〓合なりと云へり斯の如く中央都會の地に戶口の輻湊する所以は處世の便利爰に大なるが故なり或は偶ま地方村〓に〓するの人と雖とも居を都會に占めて事に林〓に〓ふこと〓〓〓るが故なり今此强大なる指導力の在る〓り文明〓〓〓〓に現はれしより以來人間社會の中央輻湊は水の〓きに〓くの道理に從ふものと云はさるを得ず

歐米諸國は市街の搆造を見るに家屋は〓〓の〓〓〓石〓にして水火風雨〓〓の侵すを許さず地下に用水管あり〓外數十里の瀬流より淸水を引來り大管より小管を枝別し庖厨に浴室に便所に三階五階樓上樓下の論なく意の欲する所に就て水を得ざるはなし地下に惡水管あり大管より小管を枝別し樓上樓下の惡水を承けて幹流に合し郊外數里の地に輸送し去りて一滴を餘さず地下に瓦斯管あり郊外各所の本局より瓦斯を引き人家の内外に點〓して明光遍照燭を執るの勞なく厨下の銕竈に点して薪炭を焼くの費なし地下に隧道を穿ちて銕道を布き市内各所に徃來すべし地上街路に沿て馬車銕道を布き東西南北自在に徃來すべし街上空中に銕道を架し地上は人行き馬走り空中は〓車の徃來をなすべし道側左右に甃石の人路を設け雨中の步行に泥濘を踏むの憂なし街上一面に石を甃み木片を甃み或は[アスフハルト]にて塗り固め用の爲めに泥濘を見ず風の爲めに塵埃を起さず或は電氣燈を建て晴夜屋上に幾個の明月を掛け或は伝昔機電信機を店頭に〓べて〓して隔地の人と對談する等其便利言語に盡すべから〓〓等の事項を一々に列記せんには〓〓〓〓〓ざる〓〓を以て姑らく之を〓き唯此等の便利を得んとす〓〓〓人民をして一國の中心に輻湊せしめざるべからずと云ふを以て足れりとすべし

今東京の市街を見るに方三〓其〓〓の不〓爲な〓一〓人をして植民出稼きの〓村落の大なるもの〓〓〓〓しむるものあり之を大日本帝國の〓〓なりと云ふも〓すべからざるなり復た其〓〓を攺めて〓〓〓〓の〓〓に〓〓〓〓をして文明〓〓の便利を享有せしめ〓する〓〓〓〓〓其區域を縮小して力の及ぶ所を〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓野に〓〓し〓儘し〓〓大〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓しむるが如きは到底今の人力の及ぶ〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓仮りに〓〓〓〓の〓に倣ひて〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓が〓〓十五〓の〓〓分の一の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓るべし

我輩今東京府知事に向て東京の中央市區を定め其結搆を攺良すべしと云ふは彼の〓〓の煉瓦屋新築の如き方法に依るべしと云ふにあらず唯中央市區に〓面を製して〓内居住の〓〓に告示し爾後新たに家を建て〓を〓〓〓〓〓〓〓を埋むる者は此〓に依るべしと〓し〓年又は數十年の後に至りて一〓の新東京を〓出せしむるの計畫を爲すべしと云ふにあるのみ今〓日本の〓〓〓〓く〓步し東京に銕道を布き瓦斯管を通し堅牢の石〓〓築く等にて市街の面目も日に益〓良に赴くの際時に及びて其中央市區の定め其國式を府内住民に明示し〓〓ふ所を知らしめざるに於ては各自隨意の攺良に着手して他を顧みず數年の後其体裁の完全ならざるを憂へて大に之を攺めんとするも其費用に堪ゑずして止むことあるべし中央市區の攺定は今日にせざるべからざるなり