「支那佛蘭西開戰の機熟す」
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時事新報に掲載された「支那佛蘭西開戰の機熟す」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
支那佛蘭西開戰の機熟す
安南事件の如何なる觀想を呈出するやは世人が常に念頭に留むる所にして時事新報も亦决
して探訪を怠らず隨聞隨記毎日の紙上安南事件に關するの報道を見ざるはなし然るに事相
漸く變して漸く重大に進み本日の紙上に記載する最近の報知に由れば支那佛國間の戰爭は
到底避くべからざるものなりと判定するの外なかるべしと信ずるなり
上海より郵書の報知に由れば支那政府は佛國と開戰する事に决し南部に於て大軍募集に着
手し李鴻章を其先鋒の元帥に任し既に旗章節刀を李氏の許に送致し皇帝より李氏への訓令
は談判を引延はして時日を長くし兵を送るに海路に由らずして陸路に由り重〓て勅令を待
たずして宣戰すべしとあり北京政府よりは遠近諸省の提督に羽檄を飛ばして宣戰に决した
る旨を報知し上海よりは多量の電線銕柱類を内地に輸送し江南兵器局よりは呉淞碇泊の軍
艦に武器を輸送したりとあるに五月廿九日上海發の電報に由れば李氏は既に上海を發して
南方に向ひ軍兵は天津太沽北塘を發したりとあるを見れば事態頗る切迫なるを察知すべき
なり
佛國政府は最初在北京の同國公使「ブウリイ」氏に訓令する所ありて安南事件に付支那政
府
と協議せしめたるに同公使が李鴻章と會合し平和の約束を結びて之を本國政府に上申する
に至りて忽ち使命を辱かしむるものとして歸國を命し在東京の同國公使「トリクウ」氏を
し
て直ちに五月廿一日横濱解纜の佛國郵船に搭して其途に上りたり今日頃は多分香港を發し
て天津に赴かんとし未た上海にも達せざる航海中なるべしと推察するなり「トリクウ」氏
は
佛國政府の使命を帶びて北京に到らんとし目下正に其途に在るに支那政府は早く既に出征
元帥の任を李鴻章に授け母の葬事に會して郷里安徽省に在るを再び北上して陛辭するにも
及はず直ちに戰地に出張せしめたり而して李氏への訓令中には再命を待たずして宣戰すべ
しとありと云へば仮令「トリクウ」公使が北京に到着し無事に談判を聞くの運びに至りた
り
とするも其談判の眞最中に〓〓覺南より開戰報知の飛脚到來するが如き奇談なきを必すべ
からず或は支那政府にて「トリクウ」氏に告るに李鴻章に宣戰講和の全權を委任したるこ
と
を以てし折角北京にて談判中にも在安南の佛國人は早く既に支那二十万兵の重圍に陥り弾
丸雨中の人たるやも知るべからず使命の次第は寧ろ李鴻章の營中に就て談するに如かずと
云ふことあらんに「トリクウ」氏は之を聽て道理至極の挨拶とし直ちに李氏の跡を追て雲
南
地方に到らんとするか「トリクウ」氏は佛國政府を代表し支那皇帝政府と談判する所あら
ん
とを北京に到りたる人なり李鴻章の私客にあらざるなり皇帝政府へ向けられたる佛國使節
が李氏に雲南に就て談論するの用なかるべし左すれば「トリクウ」氏が北京安着の上すは
談
判と云ふに至りて其地位の頗る不都合なるを感することあるべし
一方にては平和談判の使節徃來の最中一方にては出征の大將既に戰地に發向する等甚だ不
都合なる始末なりと雖とも元来支那政府の擧動は普通の公法を以て規すべからず一種儒敎
國の慣例に由り春秋戰國の筆法を以て進退するものなるが故に其行爲實にタン端倪すべか
らず或は公然宣戰の沙汰にも及はず突然敵艦を砲?し敵營に襲來することあるやも知るべ
からず仮令突然の砲?にても砲?には相違なきを以て佛兵は之に應じて攻防の策を施さゞ
るべからず即ち両國の間に開戰したるなり此初戰の結果は固より豫想すべからずと雖とも
或は三万の支那兵を以て三百の佛兵を圍み忽ち之を〓〓するが如きことなきを期すべから
ず支那兵は勝に乗じて安南に進み佛國政府は急に數万の援兵を本國より派遣して再び對陣
の用意整ふの際には英國なり魯西亞なり日耳曼なり漸く中〓講和の事に周旋し東京(トン
キン)地方東
西に一線を畫し支那は北を守り佛國は南を〓〓永く相爭ふことなからしむるなるべし竊か
に支那政府の心事を察するに大に佛國と〓を開き直ちに覺南地方を一〓し佛人をして再び
東洋を競ふの念を絶たしめんとするに我兵力の強大之を成して餘ありと自〓するにはあら
ざるべし唯其意中には中國の國勢永く振はず爲めに〓〓〓〓佛日本等窮夷小醜のために凌
辱せられ遺恨際限なし〓には聖人の子孫をして被〓左〓の民たらしむるに至るべきやも知
るべからず時に及で中國の武威を示し彼〓をして瞿然とし自から?束し大國に〓るの禮を
しらしめざるべからずと云ふを第一の主義とするなるべし果して然らば中〓は支那政府の
希望する〓〓〓を〓月の〓〓〓〓〓〓整ふの時に至れば直ちに佛國と〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓〓界には僅に數隊の〓兵を〓て之を〓〓〓〓〓〓〓〓の〓ち除くことなるべし〓〓〓〓
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓し大〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓或い
は此序を以て其〓〓を〓〓〓中今一方の敵に向て大に中華の威力を示さんとするの謀略あ
るべきや否は我輩之を今日〓知ること能はざるなり