「酒造家の情况 前々號の續き」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「酒造家の情况 前々號の續き」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

酒造家の情况 前々號の續き

(第二)造石檢査を受くるの時機は最大切にして苟くも此時機を失すれば些々税額の談に

あらずして釀造の得失に關する少々ならず或は全躰の損失を蒙むることなきにあらざるな

り酒造税則取扱心得書にも檢査は營業者の申出に依り速に取計ひ營業の差支とならざる樣

之を處辨すべしとの明文もありて官吏の心を用ふる决して薄しとせざるなり然れども酒類

の火入滓引等は造石檢査の後之を爲すべきの成規なるを以て爲めに營業上實際の障碍を感

する少からず今夫れ〓〓地方の釀酒たる偶然に芳〓の榮名を得たるに非ず營業家多年の經

驗を積み各自習熟する所あるを以て其仕込の時より一定の順序季節あり一定の動作業務あ

りて拮据勉勵少しも其業に怠ることなく又少しも其時を誤ることなし其用心如何にも周密

鄭重にして百方苦慮戒愼を要すること切なり殊に滓引の如きは最後の秘訣にして其時期の

程度あるは勿論又各家の慣行稍異なる所ありて滓引をなすにも一桶を數度にすることあり

或は時變に應して其時期を遲速することあり又或は甲桶の滓を引取りて乙桶の酒中に混ぜ

じ、乙桶の滓を丙丁と順次に送入する等亦各慣習時期の程度あり此の如く一定の順序ある

中に混淆錯雜變化極りなきものなれば檢査員は時期を誤らず營業に差支なからしめんとす

るも勢行はる可らず况んや人員に限りあり土地に遠近ありて各家各樣の望に應すること能

はず自然滓引を遲緩して腐敗の基を來すの憂なきにあらず又滓のみを一桶に集むれば多量

の滓は清酒になすを得ずして是亦腐敗の基なることありさればとて檢査未濟のものに滓引

をなすを許さゞる成規なれば看々其時期を誤り現に腐敗に付せしもの間々之れありと聞く

是れ檢査官の罪にあらず勢如何ともす可らざるものあればなり然れども釀酒家は其腐敗を

公にせずして之を秘し嘖々其損失を訴へざるものは何ぞや是又大に理由の存するものあり

葢し一二腐敗の桶あるが爲めに之を公にするときは某家には腐敗酒ありとの風評傳播して

他の數十桶に釀造する精良なる酒の品格まで蹴落され一体の價値に忽ち影響を及し却て損

失の大なるものあるを察し其親友といへども之を告げず或は親子の間も其家を異にするも

のは固く秘して知らしめず其心情誠に愍察するに餘ありと謂ふ可し徃時西の宮邊にて腐敗

酒あるときは夜陰に乘して窃かに海中に投棄するを一般の風となせしに近來に至ては燒酎

等に變製するの法ありて一般の風漸く移りたるも尚ほ徒に汚名を恐れて之を放棄するの舊

風未だ全く絶へずと云ふ其愚笑ふ可きか如くなるも名を重するの情憐む可く且尚ぶべき者

あり是に由て之を觀れは檢査の順序を失して營業上に障碍あるは其損失頗る大なるものあ

れは假令一万圓の税額は增し二萬圓となるも寧ろ檢査上此惠を除くの利益は甚た大なるも

のなり故に造石檢査は總て滓引の後に於て爲すべきことなることは官に奔走の勞、混雜の

惠なくして民に輕便利益享くる實に大なることなり是れ滓引の後に檢査を施す法に改まら

んことを望む所以なり

(第三)酒税は固より〓税なりと雖ども直接に政府に納むるものは酒〓にして營業家に取

りては其責任涙して輕しとせざるなり且其期限の如何によりて大に寛苛を感することあり

元來酒は冬季中の釀造にあらざれは名酒を得ること難きは普通の事にして間々早作りと稱

し十一月頃に釀造して早く新酒を賣出すものなきにあらざるも其品質佳ならざるのみなら

ず攝津地方に於ては營業者の最も恥る所となす是れ畢竟不良の酒を釀して攝津地方の酒名

を汚すことあらんことを恐れてなり故に毎年大概冬至頃より始めて釀造に取掛り三月中に

終るを通例とし四月に至り初積と稱し少量の新酒を東京に輸送し爾後夏季に至りて時機を

察し漸次に賣出すこと一般の風なり一体酒は釀造を終るも貯藏日を經るに隨ひ漸く酒精を

減し澱粉糖、糊精の消滅する如き變化あるを以て凡そ百日を經過するにあらざれば酒味の

良否も精細に判別する能はずして其能く清凉芳味を呈するは四五月の頃なり故に其迄は多

量の新酒を輸送すること能はず然るに納税規則に從へば第一期四月卅日限(十月一日より

三月三十一日迄檢査濟石數に係る税額の半額)第二期七月三十一日限(四月一日より六月

三十日迄仝上)第三期九月三十日限(皆濟)とす偖釀造家は最多く資本を要するものにし

て薄資の家は其業を營むこと能はざる程なるが就中金融最も困難なるは四月なり此時に方

り最早全く釀造の業を終りて原料の米より薪炭其他諸物品の代價を精算勘定せざる可らず

故に一時多額の金員を要し金融必迫此時より甚しきはあらず間々高利の金を借來て仕拂を

了ることある程なり然るに此諸仕拂に加ふるに造石税を以てし両方一時に支出せざるを得

ず其困難實に謂ふ可らず其故に自然混雜澁滯して収税官に煩勞を與ふるか又は自ら廢業す

るに至るの情實なきにあらず是れ政府の収税上に於ても恐くは策の得たるものにあらざる

可し若し夫れ之れに一二ヶ月の延期を與へて營業資本支出の時を避け漸く多量貸出しの時

を待ち以て之を収納するときは營業家の生産力を補ふて而て政府の為め敢て不便不利の事

はあらざるべし依て第一期を改めて六月三十日頃、第二期を八月三十一日限、第三期を十

月三十一日頃となしたらんには均しく金額を徴集するに官に損する所なきのみならず其勞

少くして容易に集るの便あるべし是れ爾来一統最深く其改正を希望する所なり

以上三項は實業家が酒造税規則改正に關して希望する所の要點なり我輩素より酒造の事に

就ては不案内なる者なれば遽に其説に同意を表するにはあらざれども頗る實際の情况を悉

して左もあるべきことならんと思考なり依て我意は當局者が能く此等の事情に就て虚心平

意以て省察を越へ猶能く實業家に諮問して規則の改正に從事せんことを望むなり凡そ収税

者と納税者は全く反對の地位に立ち〓〓處を異にするものなれば甲は一概に乙の陳〓を以

て〓〓と見做し姦計と推測し、乙は甲の命令を以て〓〓と評し、卓上の議論となし、未た

其細微の事實と理由とを聞かず先づ敵意を〓〓しの弊なきにあらざれば双方常に事〓〓通

すること能はず方〓圓〓相容れざるの情趣なり其間徒勞冗費實に少からず遂に甲は収税の

多額を得ること能はず〓の乙は營業の繁榮を來すこと能はざるに至る〓〓〓〓て〓〓注〓

あり度ことなり聞く昨年大〓にて〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓上の相談をなさんと全國の同〓〓

〓〓〓〓ん〓したりしも個は税法に關し容易な〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓止められたる由然る

に西の宮過〓大酒造家〓〓〓より此會議に關係せずして別に〓〓す〓〓〓〓〓〓云う左れ

ば本文某氏の意見の如きは税額に喋々するにあらず檢査手續等に關して改正を望むものな

れば决して尋常酒屋の苦情にあらざるなり當局者能く茲に注意せば營業上の實際に通する

に庶幾からん歟