「朝鮮開國の名譽米國人に歸せんとす」
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本文
朝鮮開國の名譽米國人に歸せんとす
朝鮮は亞細亞東陲の一半島國にして東西及び南の三面は海に臨み北の一面は大陸に接し其
土壤人口の如きは我日本に比して僅かに一?を讓るに過きざる東洋屈指の一大國なり此國
元來閉居主義を守りて他國と交際を求めず隣國支那日本等と時に使臣の相徃來することな
きにあらざりしと雖とも是迚も實に稀有の出來事にして自他の交際を親しくするの効を爲
さず日本支那は朝鮮と同文同敎の國にして而かも其最近の隣國なるに此隣國との交際すら
既に斯の如き有樣なれば况して異文異俗の遠人たる歐米諸國とは互に相知るの機會あるべ
からず歐米人は朝鮮國を目して人間と徃來禁制の仙域なりと云ひしは實を失はざるの言な
りし
然るに我日本國は支那朝鮮等に比すれば西洋の文明を採用すること早く疾くに東洋の先覺
者たるの地位に立ちしを以て自家自から文明の進路を急ぐの傍らに隣人をして共に其德澤
に浴せしむるの義擧に從事し支那朝鮮を視ること兄弟の國に異ならず事に觸れ物に當り百
方これを示諭し我と同行して文明の路に進まんことを希ふと雖とも流石に支那は儒敎の本
國と云ひ其土地人民の廣大多數なるは世界無比の國柄なるがために其迷〓は甚た深く其頑
陋は甚た〓く其負け惜みの心は甚た強く頓に他人の忠言を用ふべくもあらざりしと雖とも
獨り朝鮮は其心甚た公平にして頗る進取解明の意ありしが故に〓ち日本の忠言を納れて閉
居主義を廢し自今大に外國と交通徃來する所あらんとて明治九年先つ我日本と修好通商の
條約を結びたりこれを朝鮮開國の第一着?とす盖し朝鮮が數百千年の習慣を破り一朝隣人
の忠告に從て文明の新途に上りしは實に其固有の智と勇とを證するに足るものにして其名
譽これより大なるはなし然れとも文明の採用は畢竟目家自から利するの便あるものにして
他人の爲めにするものにあらざるがゆえにや日韓條約の締盟に由り朝鮮が從來の閉居主義
を廢して外交の新主義を採用したるを見て滿天下の人は朝鮮國人の明敏を稱せずして只管
日本國人の義勇を稱し人間の禁制地を開きて世界貿易の境域を廣めたるは日本國人の義勇
なり朝鮮國人の醉夢を驚破して西洋文明の慕ふべきを知らしめ昔日盲聲の蠻俗を脱却して
聰明の人民たるを得せしめたるは日本國人の義勇なり日本國人は朝鮮開國の主人なり朝鮮
の恩人なりとて嘖々日本の功勞を稱讃して止まず其?恰も二十年前米國人が始めて日本を
開國したる時に當りて全世界の人に其功勞を稱讃せられたるに異ならず實に日本國の大榮
譽なりと云ふべきなり
斯の如く我日本國人が朝鮮開國の主人となり又其主人たるに屬するの榮譽を荷ひしは甚た
好し然れとも一たび此榮譽を荷ひし以來の擧動に付ては我輩の遺憾に堪えざるもの甚た多
し明治九年二月以來昨年七月まて全六ケ年の間に我日本國人は日韓の修好或は通商上に何
等の仕事を爲し何等の進?を加へしや或は辨理公使を漢城に派し或は兀山津の港を開く等
一二事の見るべきものなきにあらずと雖とも朝鮮開國の主人たるの名譽に對し又全六ケ年
日月の長きに對してこれを見れば大に其遲鈍不活?を愧つべきもの甚た多し殊に昨年七月
の事變は朝鮮の文明を進むるの最好機會なりしにも拘はらず爾來に今日に至るまで此機會
を利用して開國の主人たる義務を尽さんともせず悠然一ケ年を空費して晏然たるものゝ如
く然り日本國人は曩きには朝鮮開國の主人たるの義勇ありて其義勇に適應する世界の名譽
を博したり然れとも爾來其擧動の不活?は果して能く此名譽を維持するに足るべきや否や
甚た疑はしきなり
彼の米國人は胡爲る者ぞ支那政府の紹介に由て昨年五月始めて朝鮮と交際の緒を開きてよ
り忽ち特命全權公使を漢城に駐在せしめ事尚ほ創始混雜の際にも拘らず早く既に朝鮮の欽
差大臣を〓て〓〓〓府に至らしめんとし大臣閔洪兩氏は其一行と其に正に東京築地の客寔
に在り今よりして一ケ月を出てず此〓臣が米國到着の上は米國政府並に其人民が此新來の
客を待遇すること如何の〓〓を極むべきや其海陸軍を示し其銕道を示し其船舶を示し其銕
山を示し其造幣局を示し其電信局を示し兵器局造船所を示し學校商社を示し各種の製造所
を示して詳に其解説を與へ眞實に米國文明の慕ふべきを知らしめたる後別に臨みて或は高
價の文明器物を進物にする等の事もあるなるべく使臣等本國に歸り朝鮮政府にして一旦文
明の採用を急くの時に至れば米國人は或は寶財を以て或は勞力知識を以てこれに助勢し八
道の金山石炭山を堀り電線を架し銕道を敷き兵を練り船を造り一朝にして他の東洋の因循
國を凌駕するの文明國たらしめんとするなるべし此時に至り世界万國が米國人を稱讃する
の聲は東西南北に反響し米國人は朝鮮の主人なり朝鮮の父母なりと評判し史者又筆を執て
米國人は三十年前に日本を開き三十年後に朝鮮を開きたりと特書するなるべし事情既に斯
の如きに至れば日本國人が朝鮮開國の主人たるの名譽を維持するの時機は既に去て回収す
べからざるなり我輩は時機の未た去らざるに及びて大に爲す所あらんことを希望するもの
なり