「院省長官の轉換」
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時事新報に掲載された「院省長官の轉換」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
本日の公報欄内に掲載する如く我政府内閣參議中にて其兼任する所の事務に二三の轉換あり即ち參議山縣有朋君は參事院議長の兼務を免して更に内務卿に兼任し參議山田顯義君は内務卿の兼務を免して更に司法卿に兼任し參議大木喬任君は司法卿の兼務を免して更に文部卿に兼任し參議福岡孝弟君は文部卿の兼務を免して更に參事院議長に兼任したり回顧すれば山田君が内務に大木君が司法に福岡君が文部に卿たりしは一昨明治十四年十月時の内閣更迭以來のことにして今日に至るまで任期正に滿二年間なりし獨り山縣君は去年三月參議伊藤博文君が憲法取調御用とかにて歐洲へ渡航するの時に際し伊藤君に代て參事院議長を兼務したりしを以て其任期前三君に比すれば凡四ケ月を短くせり此四君が各其兼務の職に在るの間我日本の政治社會の變化決して少なしと爲さず試に十四年十月以前の有樣と以後の有樣とを比照すれば我々は一目して前後の相違の頗る大なるを見出すなり而して此相違は十四年十月の内閣更迭の後に在りたるよりして推察し更迭即ち相違の原因なりと臆斷するも敢て大なる誤見にはあらざるべきか果して然らは今回の轉任も亦我政治社會の表面に何樣かの變化を生するの原因となるべしと豫期せしも固より尋常一樣の推測なりとして不可なかるべし然れとも唯今回の轉任の如きは單に現内閣員中の二三の人が各其擔任する所の事務を交換したるまでの事にして別段大造の變革にはあらず故に斯る挾小なる原因の爲めに大造〓結果あるべしと豫期するは寧ろ數理に疎なる政治社會外の素人思案たる誹を免かれざるべし
然りと雖とも内務卿などの如き直接に日本内國の行政事務を司とり直接に府縣の官吏に命令するに最も大なる權力を有する官職にして其當任の人を變更するに於ては其影響決して無下に挾小なるものにはあらざるべし我輩は日本全國人民と共に其影響の大小如何を今日以後に實見せんことを樂しむなり