「西洋の新文明支那に侵入する影響」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「西洋の新文明支那に侵入する影響」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

西洋の新文明支那に侵入する影響

支那は世界の古國にして數千年の古より亞細亞東陲文化の中応として其名〓甚だ隷々たりし、國古ければ随て社會の人事もよく整頓し律教、哲學、政治、文事、技藝、農工商事等に至るまで人生所要の事物は一も備わらずと云うことなし即ち人間世界一個の〓裁を成すものと云うべきなり若し世界に風雨の變動なくば此〓裁を維持して千万年の後に傅へしこと或は能くすべき事柄なるやも測り難しと雖も唯如何せん近代歌羅巴に於いて物理推究の實學興り一種新文化の創生を見る折柄突然蒸氣電氣を人事に利用する大發明を爲したるがために地球全面の人間世界に万古未曾有の變動を生じ人爲の〓制度〓組織全く顔色なし甚しきは從來人力の範圍外に在りし天地自然の事物さえ次第に其光輝を失いて人間の眼中漸く將さに天然なからんとする傾向あり實に驚愕の至に堪えざるものと云うべし斯る事の次第なるが故に支那〓來の文明制度何程に整備したりしと云うも蒸氣電氣の攻撃を免がるべくもあらず一たび此攻撃に遭遇する〓は其速度の緩急により早晩必ず破滅砕粉の禍を避くること能はざるべし蒸氣電氣のために撃破し去らるゝは〓り支那の文物に限るにあらず満天下東西の論なく一般〓制度の免がるべからざる定運なりと申すべし

支那人が西洋各國人と貿易交通せしや甚だ久し然れども其蒸氣電氣の實用以前に〓わるものは其影響極めて緩慢にして毫も社會の組織を〓〓するに足るものなかりし蓋し支那人に又支那政府に〓洋あることを知らしめたるものは今より四十年前支那の道〓十九〓に〓東の〓〓林則徐が英國商人の〓片煙を〓き〓をたるより事起り〓〓の戰爭に英國の軍集は遂に江南の諸要地を〓〓れ大に支那〓〓〓の肝を冷したる〓を以て始めと〓〓此〓は〓〓〓〓が遠洋渡航の船舶に蒸氣を使用することを始めたる折にして西洋人の〓力俄に其強大を加えたる時期なりしなり此戰乱の後十七年咸豊九年に至り英佛両國の使節を天津に要撃して又事を起し翌年英佛〓合の兵のために北京を陥いれられ城下の盟を以て和睦を買いたるの日に於いて支那人が西洋を知ることは更に一層の深きを加えたり是より後は支那と交通する外國の數も増し支那人が西洋新文明を敬畏する情も漸く深きを加えるに至り學生を外國に派遣し外國より新技術の教師を聘し造船所を設け兵器局を設け海軍を興し〓船會社を興し銕山に從事し電信線を架し外國の朝廷に使臣を派遣する等大に西洋の文明を採用する端緒を開きたる折柄日本と〓湾事件の談判あり英國と雲南暴殺事件の談判あり次を又今より三年前には魯國と伊〓事件の葛藤あり而して又去年以來は佛國と安南事件の葛藤ありて今日に至るまで和戰何れに決するやを知る者なく日に危急に迫るの有様なり斯る外交上の困難よりして大に悟る所ありたるものか支那政府は近年頻りに軍備擴張に從事し軍艦を新造し銃砲を購入し一蹴して東洋第一の強國たらんことを勉むるものゝ如く然り既に内に此志望ありこれを満足せしむるの法は唯西洋の文明を採用し大に蒸氣電氣を使用するより外に工風なきを以て現時支那人が文明に熱心する念は日に〓緊急なるものと知るべきなり

支那人〓に其政府は必ず謂わん西洋の文明を採用するは文明全体を採用するにあらず唯軍艦銃砲等護國の用に供すべきもの一二を採用し永く支那帝國の面目を東洋に維持すべきのみと然れども焉ず知らん西洋の文明は牛肉豚肉の類にあらず牛か豚かこれを切り賣りして我撰ぶ所の部分のみを取るを得べしと雖も文明は則ちこれに異なり軍艦銃砲の利を取らんとすれば兵學航海學器械學物理學の知識と共に他の政治法律経済衛生哲學道徳等の學〓も相随伴し來たりこれを避けんと欲して避くべからず此等の學識一たび人の脳裏に入れば忽ち之を人事の實際に現し先ず今の支那社會の組織の中に就き最も不完全なりと思惟する部分より改革を始め時勢適當の新組織に遷らんことを勉むるなるべし是即ち文明開化の進歩にして支那全國人民のためには甚だ賀すべき事なりと雖も今の満朝政府愛親覺羅氏一個人の利害のためには極めて憂うべき情勢なりとす我輩固より未來を〓らす〓〓を持するにあらざるが故に満清政府の運命を今日に明言すること能わずと雖も魯國の先例を今の文明〓〓の實況とに由りてこれを〓れば支那の文明進歩すると同時に先ず其衝動を威する者は愛親覺羅氏の朝廷ならん愛親覺羅氏にして一たび続〓の〓〓を失わ〓か今の支那帝國の社會は何等の〓〓を蒙るべきや當時我々が蒙想の力の及ぶべからざるものなるべきや必然なり支那文明の進歩は其影響實に至大至廣なりと云うべきなり