「〓學を以て和歌を製造す可し」
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時事新報に掲載された「〓學を以て和歌を製造す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
〓學を以て和歌を製造す可し
詩歌は以て人情を〓い願わん其微妙に至っては所謂神に通ずるものにして天地も是が爲に動くと〓し風流世界に最も重んずる所なれども近來我學問の進歩も亦驚く可きものにして漸く其區域を廣くし從前は真に數理の外に置を不可思議としたるものも之を學問の區域に包羅したる例少なからず日月星辰の運動、風雨水火の〓、物質分離結合の理より有機無機變遷の因縁に至るまでも漸く奇妙不可思議の〓を〓し學問の數理に向かいて真面目を〓置することはなれり〓に我輩の學友工都大學校の卒業學士寛永義韋君が數學の理を推して和歌を製造する發明も千古の不可思議を説くに數理を以てして以て學問の區域を富ましたるものと云う可し抑も君が思想の發起を簡單に説を〓者の了解を便ならしめんが爲に我輩は易経を借用して之を示さんとす易の六十四卦は陰陽の二〓を限り其變化乾下乾上〓より坤下坤上〓に至るまで六十四を得べし故に今この陰陽をいの字とろの字に喩えいろの二字を以て組立る歌を六文字と限り様々に其字の次序を變化せしむること伏義の〓の如くするも六十四より多かる可からず即ち二個の國字を以て六文字の和歌を詠するごときは唯六十四首を得べきものと知る可し
安永君の立案に謂わく日本の國字はいろは四十七字にして和歌は三十一文字を限り此四十七字を様々に組立を様々に組易〓上下〓倒の變化を爲して無數の和歌を生じ其數に限りなく其意味に窮りなし神變不測なるが如くにして置の人も亦實に之を神變不測なりと思い之を信じて會を疑う者なしと雖も苟もいろはに四十七の限りあり和歌に三十一の限りあり有限の材料を以て有限の用に供す即ち我數學中のものにして之を算定すること決して難しからず和歌の規制に於いて一首三十一文字中に同字を用いるを禁ずるものとすれば數學に所謂「バルミュテーション」の類にして其公式に由り凡そ人間世界に作り出す可き和歌の総數を知る可し即ち
n(n-1)(n-2) ゝゝゝゝ{n-r+1}・・・・・・(第一)
右式中(n)をいろはの數即ち四十七
(r)を和歌の字數即ち三十一とすれば
歌の総數=47x46x45xゝゝゝゝゝゝx18x17
=124x1046
=12,400,000,000,000,000,000,000,000,000,000,、
000,000,000,000,000.・・・・・・(第二)
〓りと雖も一首中間字は〓に於いて差支なきことなれば右に示したる數よりも更に〓を増す可し數に三十一字の歌に同一の字を用いること三十一回と爲し之を同字の極度として算するごときは〓るゝ所のものある可からず即ちいとはの字數(ロ)丈けあるとすれば
唯一文字を以て歌を成すものはn個丈け作り出す可し即ちい、ろ、は、に、ゝゝゝゝゝゝゝゝゝゝす(以上い文字は一字にて歌の意味を成しろも亦一字はも亦同じく唯一の歌と知る可し)
次に二文字を以て歌を成すものを算するには前の一文字ずつの歌にい字を前置してとろ丈けの歌數を得べし即ち
いい いろ いは いに ゝゝ ゝゝ ゝゝ ゝゝ いす
又ろ字を前置してもに丈けの數を得べし即ち
ろい ろろ ろは ろに ゝゝ ゝゝ ゝゝ ゝゝ ろす
又は字を前置しても右に同じくに、ほ、へ、等皆同じ蓋しいろはの字數は合してn個あり故に二文字を以て歌を成すものゝ數は
n倍のn個なり即ち n×n
次に三文字を以て歌を成すものを算するには前の二字歌の頭にい字を置いてn×n個の歌數を得べし即ち
いいい いいろ いいは ゝゝゝ ゝゝゝ いろい いろろ
ゝゝゝ ゝゝゝ ゝゝゝ ゝゝゝ いすす
又ろ字を前置してもn×n個を得、は、に、ほ等の字を前置するも亦同じ故に三字歌の総數は
n倍のn×n個にて即ち n×n×nなり
右の理を推すごときは四文字を以て歌を成すものゝ総數はn×n ×n×n即ちn4個なること以て見る可し、一字歌の數はn、二字歌の數はnの二乗、三字歌はnの三乗、四字歌はnの四乗なり故に和歌の字數r個なるごときは其歌數はnのr乗なること明に知る可し即ち
r個より組立たる歌數=nr・・・・・・・・・・・・・・・・・・(第三)
以上の算法に操るごときは古來和歌の數何程ありて今後又何程ある可きも左の數の外に洩れるゝものある可からず
第一 いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいい
第二 いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいろ
第三 いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいは
と順次に從い計り來りて最終の一順前なるものは
すすすすすすすすすすすすすすすすすすすすす
すすすすすすすすすせ
にして最終は即ち
すすすすすすすすすすすすすすすすすすすすす
すすすすすすすすすす
なり即ちいろはの字數は四十七個にして和歌の字數は三十一個なるが故に
4731(四十七の三十一乗)
にして三十一文字和歌の総數は
4731=6,839,645,551,362,303,414,388,150,265,489,536,7,73,690,760,229,559,503.(五十二けた)・・・・(第四)
(以下次號)