「數學を以て和歌を製造す可し(昨日の續)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「數學を以て和歌を製造す可し(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

前記の如く三十一文字和歌の數は實に莫大なりと雖も其數無極に非ず數學範圍内のものにして振古以來如何なる歌仙の名歌にても此範圍の外に在る可からず今後千百年を經る間に如何なる歌人を輩出して苦吟せしむるも此範圍外の和歌とては一首もある可からず數學も亦大なるものと云う可し

和歌より下を文字の少數なる發句川柳都々一の如きも〓より算數内のものにして前記第三の公式に由て其數を得べし但し發句川柳は十七文字にして都々一は大抵二十七なるもの多し故に

發句〓川柳の〓數は47=26,647,936,506,962,193,43,9,322,192,887(二十九ケタ)(第五)

都々〓の總數は47=1,401,608,336,111,707,503,910,224,923,614,789,912,162,651,663.(四十六ケタ)(第六)

和歌にも發句川柳等にも一首中間字を禁ぜざる法なれども其意味に於て何字以上は問字を用いる可からずと大抵其極度もある可く又同一の字を重ねるは何字以上に上る可からずと云う實際の經險もあらんなれば是等の事に付き尚吟味せば大に數を減ずることもある可し

又一歩を進れば和歌製造の爲に器械を作ることも難きに非ず其工風は番號押器械(紙幣の番號など印するには此器械を用いる)の理合に基き車の個數を歌の字數に等しくして三十一車と爲し各車の齒數を四十七枚に作りて毎一枚にいろはを刻み三十一車前後次第に相重なりて後車の一回轉すると同時に前車は一回の四十七分一を轉して一文字を進むる仕掛けにて順序に三十一文字の歌を印し出す可し試に其〓をも製したれども何分にも和歌の數は有限とこそ云へ實に莫大なる數なれば今の文明の人事の有樣にては容易に其實施を企つ可きにも非ず又社會に實用のものとも思わざれば唯後人備考の爲に其工風の一〓を爰に示すのみ

右の如く器械を以て和歌發句等を製作するは今日の實際に於て頗る難きことなれども數理に於て之を作り得べきは〓に明白なるが故に仮令ひ此事を實施せざるも古來〓に人の詠したるもの又今後人の詠す可き歌あれば其歌に番號を附し是れは源歌より何番目に當り夫れは最終歌を去ること何番目なりとのことを算定して人に示すは甚だ易し譬へば前節に引用したる易の〓を以て云えば乾下乾上〓を源歌として〓下〓上〓を最終歌と爲し源より終に至るまで六十四首を排列して何の〓は何番目に當るや又何番目は何の〓なるやと尋れば之を算定して問に答ること甚だ容易なるが如し今其算法を説明せんに

前段に云へる如く本源の和歌はいいいと三十一回同文字を重ねたるものとして第二歌はいの字を三十重ねて終にろの一字を附し、第三は終にはの一字を附する等次第に組立組替へて最終はすすすと三十一す字を重ねたるものと爲ること易の乾下乾上より〓下〓上に至るが如くにしてとはの二字を以て結びたらんにはとはいろは第七の文字なるが故に其番号は{47x(7-1)+3}なり又仮にいいい、、、、いたとはと詠じたらんには其番号は{47x(16-1)+47x(7-1)+3}なり此理を推すときは小町の本歌の番号左の如し、

47x(33-1)+47x(7-1)+47x(3-1)47x(16-1)+47x(7-1)+3(第七)

右を算すれば

675,501,338,443,543,876,132,490,856,461,552,551,802,5,17,528,661,795.(第八)

の數を得たり即ち之を小野小町がことはりやの歌の番号とす

又和歌の最終すす、、、、すの番號を求る法は

47x(47-1)+47x(47-1)+47x(47-1)+47x(471-1)+47x(47-1)+47.(第九)

=46(47+47+47+47+47+1)+1=46x47-1+1=47(第十)

右の如くして上の(第四)に示したる和歌の總數を得べし發句の番号を求るも其法和歌に於けるものに異ならず唯文字の數少なきが故に〓や簡なるのみ芭蕉翁の高吟

ふるいけやかはつとひこむみつのをと

の番号もいいい十七文字重なるものを源句として左の番号に當る

17,697,099,146,269,768,286,022,336,542(二十九ケタ)(第十一)

以上は安永〓章君の發意を以て算定し尚これを慶應義塾の學士濱野定四郎君に謀りて修正を加え我輩に於ては〓めて看客の了解に便ならしめんが爲に説明を施したれども書中或は尚不分明なる處もあらん又或は原案に〓〓なきを期す可からず幸に最上の數學家が正誤を〓わり又は不審の條に就き本社に通知あらば深く謝する所にして幾度にても回答の勞を憚ることなかる可し抑も此算法たるや日本の和歌、發句、都々逸、大津〓〓等を包〓し〓するのみならず漢流の詩にても五七言絶句律の如き文字の數を〓り其所用の字に限あるものなれば之を算すること決して難からず固より其詩歌の總數に至ては實に至大にして如何なる蒸氣器關を用いるも實際の製作は容易ならず我輩亦今日にして製作せんと企てるには非ずと雖も其數は〓に學者手中のものにして今後如何なる歌人詩人を〓して如何なる名吟を呈するも殺風景なる數學者の鉛筆を以て其番号を〓點するは甚だ容易なり且今日一度〓此〓〓を〓〓〓は學術日新進歩の世界、これを研究する〓〓は或は〓を去り簡を〓實際に詩歌を製作し盡して〓〓詩人歌人を苦吟〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓る〓〓〓〓〓〓日ある可しと云うも決して空想に非ず文明の學術〓〓大なるを知る可きなり(〓)