「民事訴訟法印紙規則」
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時事新報に掲載された「民事訴訟法印紙規則」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
民事訴訟法印紙規則
我政府は一昨廿三日第五號を以て民事訴訟法印紙規則を制定し本年四月一日よりこれを施行す依って明治八年十二月第百九十六號布告訴訟用罫紙規則は同日限りこれを癈止すとの事を布告したり其全文の如きは本日の本紙広報欄内に就いて熟閲せらるべし今此印紙規則發行の趣意は政府の費用多端の折柄其歳入を増加せんと欲して適當の財源を見ず偶ま民事訴訟の繁多なるを利してこれに課税し以て歳入の一部分を補わんとするに在るか將た近來民間に健訟の風流行し彼の名譽回復、榮業毀損回復など種々の名目を附して其言を大にし根もなき事を根のある如く言做して徒らに社會の妨害を爲す徒あるのみならず故らに契約を疎漏にして訴訟の種を蒔き愚夫婦を扇動して無理の訴を起こさしめ以て己れの口を糊する資に供する徒少なからざるがために各地の裁判所は概〓無用の煩勞に堪えざる弊なしと云うべからず故に印紙の法を以て訴訟の課税を重くするごときは自ずから健訟の悪弊を矯正する効あるべしと云うに在るが唯如何せん此布告文中其趣意を明言する所なきを以て我輩は毫もこれを知る方便なきなり盖し訴訟本來の性質たるや他人の所業の不埒なるがために我〓理の既に抂れるものを再び直くして其正に〓いしめんとする者にして裁判の目的は人民の〓理をして抂屈する所なからしめんとするより外ならず極端の事例を枚擧すれば際限もなきことなれども訴訟全体の基づく所は斯くの如しと云わざるを得ず故に我輩は今爰に訴訟税の性質如何を研究することを好まず唯今回の印紙規則は從前の罫紙規則に比較して民事訴訟の入費上に何様の相違あるかを知らんと欲するのみ
明治八年十二月第百九十六號布告訴訟用罫紙規則の第九條に於いて原被告人より裁判所に差出すべき訴訟用罫紙を類別し第一金〓の類に關する訴訟の金十圓又は米五石又は雑穀十石のものには一枚一銭の罫紙を用い金十圓以上百圓未満(米〓に雑穀の量は略す)のものには一枚二銭の罫紙を用い金百圓以上五百圓未満のものには一枚三銭の罫紙を用い金五百圓以上千圓未満のものには一枚四銭の罫紙を用い金千圓以上のものには一枚五銭の罫紙を用いること第二家督相續養子雇人等に關する人事の訴訟には一枚一銭六厘の罫紙を用いること第三地所境界田畑等土地〓に建家に關する訴訟には一枚一銭四厘の罫紙を用いること第四金穀人事〓に土地建家に關せざる雑事の訴訟には一枚一銭二厘の罫紙を用いること第五訴訟に關する文〓には一枚五厘の罫紙を用いることを示し又同規則第十條に於いて裁許〓罫紙の種類を示し一枚二銭より同六銭まで夫々に類別したり然るに今此罫紙規則を取りて今回の印紙規則に比較し精細に其輕重如何を判別せんとするは固より我輩の能する所にあらずと雖も試しに統計院編纂の統計年鑑を繙きて最近の民事訴訟統計を見るに明治十三年大審院の民事件數中其新訴に係わるもの四百九十七件同年上等院裁判所の民事件數中其新訴に係わるもの五千四百七十一件同年地方裁判所〓に支〓の民事件數中其新訴にわ係るもの八万二千○五十二件同年區裁判所の民事件數中其新訴に係わるもの四万九十七百六十一件以上合計十三万七千七百八十一件なり而して明治十三年度我政府歳出入統計額表中訴訟用罫紙の税額を見るに九万三十四百四十一圓とあり爰に於いて前の明治十三年の民事訴訟總件數を以て同年度の訴訟用罫紙税の〓入額を〓除するに一件に付罫紙代金六十七銭〓となるなり是に由て視るごときは現行の罫線紙規則にて訴訟人の負擔する罫紙税は一件に付金六十七銭位の平均なりと知らるゝなり〓今回の印紙規則に依るごときは民事訴訟一件に付印紙税何程の平均となるやと云うにこれを今日に橡定すること甚だ難きは勿論なりと雖も先ず〓解に於いて二十銭の印紙を勸解表に貼用し裁判所の訴〓には人事等金額に見積るべからざるものに限り三圓の印紙其他は金額五圓までのもの二十銭夫れより次第に割増して百圓まで三圓、千圓まで十五圓、五千圓まで二十五圓、一万圓まで三十五圓、十万圓まで二百十五圓の印紙を貼用する等次第に昇りて際限あることなし訴訟中裁判所に差出す書類の中或は二十銭の印紙を貼用するあり或は五十銭の印紙を貼用するあり裁判所より様々書類の謄本を申受るには毎一枚に三銭乃至五銭の割合を以て印紙を貼用する等の法を〓覧して見積りを立つるごときは民事訴訟の印紙税は一件に付平均六七圓位に相當するならんかと憶測するなり即ち現行の罫紙税より大概十倍内外の増加ならんと思わるゝなり果して此計算に大差なくんば今回第五號布告を以て民事訴訟用印紙規則を制定したるがため政府の歳入を増加するは決して少小ならざるべしと信ずるなり明治十六年度歳出入〓算表中訴訟罫紙税は十二万千六百四十二圓とあり來る四月一日今回の新印紙税規則實施以後に於いて此税額を十倍内外に増加すべきものとすれば我政府は新たに百万乃至百五十万の税源を發見したるものと云うべきなり知らず我輩の計算果して其當を得たるや否や