「租税徴集法を論ず」
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時事新報に掲載された「租税徴集法を論ず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
凡そ天下の事業之を遂げ之を行はんと欲せば從て其資本なかるべからず資本あり事始て成り業始て起る資本なくして空手、事の成果を待つ焉ぞ其源を養はずして其末を恃むの識りを免がれんや事業の基、一に資本に在て存すと云ふべきのみ去れば今一國に於て苟も興すべきの大公事あり遂ぐべきの大公業ありて之を興し之を遂げんと欲せば必ず先づ其資本即ち政府の歳入を備へざるべからざるは今更我輩の喋々を須くずして世人の已に知〓する所ならん蓋し政府の歳入に充つるが爲めに人民より租税を徴集するや其政府にして尚ほ純然たる專制政治の形跡を存するが若くは封建政治の餘弊を〓んで天下公共の事物も一切之を秘密に附し官吏、私を謀て人民、上意を知らず一國財政の道の如きは勿論未だ全く〓はずして金錢の出納一に二三官吏の左右する所たるが如き世の中ならんには自から人民の方に於ても猜疑の念を抱き安心して租税の徴集に應ずるを敢てせざるの事〓もあるべく又事實斯かる世の中にては〓りに人民より財を貧て之を官吏の私用に供するが如き不正の所業もあるべければ人民の時に或は課税に就て不平を訴ふるも誠に無理ならんことなりと云はざるを得ず然れども〓會の秩序已に成り政府の組織已に完うして理財の〓亦已に能く〓ひ毫屋の金も官吏私に之を左右せず一出一納毎に之を帳簿に明記して人民の公〓を憚らず〓税を謀かるも官吏の私嚢を富まずにあらず〓税を命じたりとて其所得を〓損するにもあらず政府は唯事業と人民との中〓に立ち一時人民より租税を徴集するも直ちに之を以て其人民公共の事業に充つることなれば政府は唯金錢の取次をなすものに過ぎず斯かる公明正大なる〓會に在ては人民の多く租税を出す其人民の利uたる〓會の事業も亦盛んに行はるべき筈なれば最早人民は租税に關して兎角の猶像をなさず一令の下、惜まず疑はず之を納ること眞に正當の業務なりと云はざるを得ず或は世人の口癖として政府は租税を取ると云ふことあり我輩は此取の字に就て聊か不審なき能はず何んとなれば政府の租税を取立るや固と人民の爲めのみ人民公共の事業を遂げんと欲すればこそ資本を要し資本を要するが爲に租税を取立つることなれば固より〓りに財を取て深く之を倉庫に〓め若くは私に之を浪費するにあらず去れば我輩は政府、租税を取ると云はんよりは寧ろ政府、人民の財を集むと云はんこそ誠とに穩當なるべきを信ず又政府も公共有uの事業を起さんが爲めに到底其資本を要することならんには遠慮に及ばず人民より租税を徴集し唯其用法順序等さへ之を人民に明にして不平あらざるより以上は毫も疑懼する所勿らんことを希望するなり
然れども政府が人民より租税を徴集するには豫め其人民財産上の進度如何んを知〓すること甚だ大切なり盖し租税の輕重を論ずる唯其金額を以てのみ標準と爲す可からず其重〓と云〓輕税と稱するは畢竟其人民財産上の有樣に比較したるの區別に外ならざれば苟も文明國の政府ならんには豫て其人民財産上の進度如何んを認知し而して後ち始て徴集の沙汰に及ぶべきなり若し夫れ唯想像上より此人民は斯かる税額には尚ほ堪ゆべし今一歩を進めば必ず不平を訴ふることならんと恰かも尺度を用ひずして物の長短を推測するが如きの所置あらんには其不都合擧を云ふべからず例へば一頭の馬あり〓馬に向て荷物を負はしむるに豫め其馬の力量を探り其〓る所の荷物は幾千なるかを知るにあらざれば或は重きに過るあり或は輕きに失するあり常に適度を外づして實際上の不都合を生ずること甚だ少なからず人民に租税を賦課するは則ち荷物を負はしむるなり此荷物を負はしむるに先づ其人民の力量を測らず唯漠然たる想像上より輕重を斷定するが如きは誠に明政府の爲すべきことにあらざるなり盖し斯く人民財産上の有樣を知〓することは中々容易の事業にあらずと雖ども亦我輩が去月廿七同廿九の両日間時事新報雜報欄内に米國の進運と題して〓載したる同國人口及財産の比較銕道、森林、田圃、運河、金銀、船舶、等一國財産の〓〓其〓輸出入品の比較等數年間進運の景〓に關する統計表の如きものに依て考ふるも一國民財産の現〓如何んを知〓するは必ずしも行届かざることにも非ざる可し又凡そ物の適度を考ふるに先づ上下兩極端の二數を必中に〓き其ニ數にして不適當なれば則ち其適度は此二數の中間に在ること甚だ明白なり例へば馬の力量を定むるに百貫目以上と先づ目安を立てんが未だ之を馬背に試みずして已に其重荷に過るを知る、依て下を十貫目の荷物とせんか之れにては又餘りに輕荷と云はざるを得ず乃ち其馬力の適度は此百貫目と十貫目との中間なる或數に在て存するや明なり今一國民租税負擔の適度を定むるにも斯かる數理上の思想を以て兩極二數の不適当を見出し其中間なる數は如何なるものなるかを吟味せば或は稍其當を得るに近からん之を日本の政府に適用して云へば其歳入を英國に〓ふを四億五千万圓とせん歟、今日の有樣にては國民の負擔に過重ならん然ば則ち其九分の一即ち五千万の輕きは誰れ人も許す所なるが故に此兩數の中間何れの點に止まりて適當なる可きや之を吟味するは租税法の根本なる可し
根本〓に定り此國民には大凡そ幾千の荷物を負擔せしむるも途に〓る〓ゝの憂ある可からずと確に見込を立たる上にて始めて〓〓の方法を講ず可し即ち荷物の種類を〓び荷作りの風を吟味することなり此一段に至て我輩の鄙見を陳んば都て税目は〓くして細々ならんよりよりも寧ろ重くして簡單ならんことを願ふものなり盖し馬に荷物を負はしむるに唯其輕からんことを謀て一個の荷物を數分し或は頭上に或は背後に或は足に或は頸に數ケ所の間に分擔せしむごときは馬は之が爲めに少しも輕きを覺えず却て歩を妨げられて煩鬱に堪えず事實は少量の荷物にても之を負ふて疲るゝの〓は重荷を負ふに等しきことある可ければなり我輩〓て云へることあり課税は輕重共に國民の苦痛たるを免がれず等しく苦痛を覺へしむるならば細鞭無數の打〓は木刀の一撃に若かずと云ひしも其徴意この邊に在るものなり税法を講ずるに當て彼れを慮り是れを思ひ遂に細々の策に出て國中各處の小分子を集めて以て歳入に充てんとするが如きは所謂小政治家の爲す所にして〓〓姑息の策略に過ぎず苟も〓會有uの事業を起さんが爲めに〓税の必要を覺悟したる以上は大膽政略を以て二三税源の上に大に之を賦課せんこと正さに文明政治家の勉むべき所たるを信ずるなり