「■(しょうへん+「又」)税法は整頓したり租税の■(しょうへん+「又」)入は如何」
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本文
■(しょうへん+「又」)税法は整頓したり租税の■(しょうへん+「又」)入は如何
我大藏省にては今般租税關税の両局を廢して新たに主税局なるものを設け從前両局に屬する一切の事務を集括し其局長には主税官長とて勅任官を置き實に郷大藏少輔これに兼任したり今般の改革は單に両局を改めて一局と爲したるに止まらず各府縣に主税長(奏任官)■(しょうへん+「又」)税局(判任官)と稱する税務專任の官吏を置くの制を創め■(しょうへん+「又」)税長■(しょうへん+「又」)税局が租税事務に任するは彼の警部長警部等が其府縣内の警察事務に任すると同一の地位關係に立たしめたり實に此改革は從前の■(しょうへん+「又」)税順序に向て頗る大なる改良を加へたるものにして是よりして全國の税務を一目に通觀することを得氣脈相通し遠近相呼應するの便利十分に備具して世界最文明國の■(しょうへん+「又」)税組織に比し勝る所あるも劣る所なき完全の組織を成すに至るは盖し多日を要せざるべし
一國の租税法は何程に善美なるも其■(しょうへん+「又」)税組織にして未た完全ならざる間は到底其善美を成すこと能はず故に租税法の善美と共に■(しょうへん+「又」)税組織の完全なるものを得るの大切なるは固より多辨を要せざるなり然れとも収税法は唯租税を徴■(しょうへん+「又」)するの器械にして此器械を用て徴■(しょうへん+「又」)する税金其物にはあらざるが故に■(しょうへん+「又」)税法の整頓したるを見て直ちに租税の■(しょうへん+「又」)納を得たりと心得ること能はざるなり故に我輩は今回の■(しょうへん+「又」)税法改革に由て其組織の整頓したるを喜ぶと雖とも果して我日本の租税法と併立して其實用に適し十分に租税を■(しょうへん+「又」)納し得て憾なきや否やを證明し得るの後にあらざれば唯■(しょうへん+「又」)税組織の整頓のみを見て安心すること能はざるなり
明治十七年度日本政府歳出入豫算表に依るに歳入の總計七千五百九十八万二千圓の中其地租に係はるもの四千二百八十八万八千圓即ち歳入の過半は土地に課する税金より成るものにして土地の外に依頼すべきものは千六百八十一万三千圓の酒造税、二百六十一万圓の海關税、二百二十五万二千圓の郵便税、百五十八万八千圓の煙草税にして他に一項百万圓以上の税源あることなし抑も我日本は人口三千七百万を有する世界屈指の一大帝國なり此帝國を維持して今の文明競爭の世界に立たんとするには固より七八千万の費用にて足るべきにあらず必ずや大に租税法を改良し出るを計て入るを制するの工風なかるべからず然れとも昔年の習慣の如く〓用は總て増税を以て辨するものと爲し只管土地に課税して直接に農民社會の負擔をのみ重くせんとするは甚だ計の得たるものにあらざるが故に時の宜しきに從て種々の方法〓〓だ全國人民に平分して能く其負擔に堪ゆるの租税法な〓〓〓からず近年に至り〓〓税〓〓税等の〓ありしは盖し租税主義の漸く精良に赴くの實跡なるべし然るに凡そ租税を定むるに當りて最も大切なるは其關係の及ぶ所を知り其釣合の如何を明にするの一事にして唯一概に何々の税法を設く則ち可なりと云ふべきものにあらず殊に外國貿易の自在なる今の世に當たりては諸税の釣合を失はずして能く其目的を達するは極めて困難の事とするなり例へば内國釀造の酒には五割の税を課し外國より輸入の酒には五分の税を課することあらんには國内の需用者は内國製の酒を飮まずして外國輸入の酒を買ふこととなり五割税の■(しょうへん+「又」)入は皆無とならん或は刻煙草に三割の税を課して卷煙草には無税とすることあらんには世の喫煙家は漸く煙管を投して卷煙草に還らん斯くてはならじとて内國製造の卷煙草には同しく三割の税を課するも外國輸入の卷煙草には五分の税を課することあらんには國内忽ち煙草製造者の跡を絶つことならん或は又内國製造の絹布に幾割の税を課せんか外國より輕税廉價の絹布を輸入し來りて内國人の需用に供し内國の機屋は早々に其機塲を鎖すことならん此等の例を推せば租税の釣合の大切なること亦甚た明白なるべし、内國税にして果して海關税の掣肘する所と爲り一擧手一投足も其自由を得ざるものならんには必ずや先づ海關税の弊竇を塞き以て内國税の働を自在ならしめざるべからず條約改正〓にすべし海關税率増加すべしとの説を爲す者あらんは自然の順序ならん税率の増加甚た善し然れとも我輩は更に一歩を進めて税率の増加果して能く其目的を達し得るや否やを講究せざるべからず日本の外國交際は尋常一樣のものにあらずして彼の治外法權なるものの附着する一種變質のものなる事を考合せざるべかず我輩は治外法權なるものの本來の性質を知らず唯開國以來の習慣に因り我開港塲在留の歐米人等が言ふ所に依れば日本在住の外國人は日本の法律に從ふことを要せず日本の法律を以て定むる所の租税を納むるを要せずと、是れ今日の所謂治外法權なるものなり、收税組織漸く整頓して治外法權尚存せり、治外法權尚存して獨り海關税率を増加し内國税を整理したるのみを以て我輩最上の目的を達し得べきや、我帝國維持の爲に次第に歳入を増加して政府の基礎を強大にするに足る可きや、七千六百万圓の歳入は増して八九千万乃至一億五千万にも進む可きや、我輩は單に其進むに〓て不安心を抱くのみならず〓て不安心の極端を云へば或は現在の歳入すら尚且つ妨害を被りて侵蝕せらるるの恐なきを得ず盖し其罪我内國人に在らず唯外國人が我れに向て主張する治外法權の中に在て存す我輩は日本國民にして日本國の強大を祈るが故に日本國政府の強大ならんことを願ふ者なり我輩は■(しょうへん+「又」)税法の整頓を喜ぶ者なり我輩は歳入の多からんことを希望する者なり歳入を増して國の富強を進め世界最文明國人の中に周旋するの時我は東洋の日本人なりと云て人に〓まれんことを希望するなり然るに彼の治外法權なるものの存在する限り〓り希望を達せんと欲するは盖し天に階するの類に近かるべし