「〓〓正に極まる」
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時事新報に掲載された「〓〓正に極まる」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
〓〓正に極まる
今〓の清佛事件は支那全國の安危に係わる甚だ重大なる事件なり然るにこれに關して支那政府が處置する所最初よりして着々其宜しきを失い遂に今日の困難に陥りたること自業自得とは云へ又〓に氣の〓の至なりと云うべきなり佛國何〓に開化文明なりと雖も安南何〓に不文未開なりと雖も唯我は文明の民なりと云う一事を以て直ちに他の未開人民の國土を奪う道理と爲す可からざるや明白なり然るに佛國人は主人の招を待たずして自から安南に來り漸く東京一帯の地に占〓して〓に大に其封〓〓蛇の〓を恣にせんとする状況あるが故に支那政府が此有様を見て大に戒め他の侵〓を〓きて自から衛る道を求めんとするは其志に於いて毫も〓然すべき所なしと雖も唯我輩が支那人の爲めに謀を遺憾〓くこと能わざるは彼等が固有の習癖として國の大事を處するに當り勢を審かにせず敵を審かにせず又己れを審かにせず唯空〓の言行以て人を恐嚇し事〓を成るべしと妄信する一事なり故に安南事件の初めに當りては安南爲中國之〓邦と云うを第一の口實として直ちに佛國に退去を命じ若し依違命を奉ぜざるに於いては天兵自から其境に臨み違令の〓を正すべしとて談判正に〓なる際に早く北地の諸軍を催促して東京に屯集せしめ其容色の荘嚴なる〓々然として仰ぎ見るべからざるものあるより當局の佛國人は勿論東西諸國の傍觀者をして一時其〓を冷やさしめたり此發端は正しく一昨年の朝鮮事變に際し朝鮮爲中國之〓邦と云いて傍若無人の處置を爲し大に名誉利益を収めたるの一段を再演するものにして此時に當り支那政府の心中には對敵に東西の相違はあれども例の活手段其成功疑なしと信じたるならん然るに何ぞ〓らん佛國人の大〓剛毅なる〓物を〓見して直ちに背を示して退き走らず顔を仰ぎて鬼面を諦視し徐ろに其腕を擧げて鬼〓に一拳を加えんとする勢あるを見て事の全を齟齬したるを知り〓〓に和を講じて一切の權理を〓却し尚お雲南両廣の三省を打開きて佛國の貿易に供すべしと約束し以て〓かに其〓を謝したるは實に支那政府の大失策なり腹中無一物にして〓容以て人を恐嚇せんとす盖し無理なる願望なり若し恐嚇を以て功を収めんと欲せば〓め先ず萬一の塲合を慮り止むを得ざる時は實力を用いる覺悟を定め置かざるべからず然るに何様の塲合に臨むとも決して實力に依〓すべからずと自から説を定め置きながら尚お鬼來ると聞き〓を止むる小〓もあらんかと千萬の塲合に一二の例外を〓倖し今の外國交際を爲すに〓々鬼面を被りて又〓々にこれを脱し自から好みて人の〓を招くが如きに衛策の最も〓劣なるものと云わざるを得ず左ればにや佛國人は十分に支那政府の腹中を〓見し〓來傍若無人の振舞を恣にして〓し〓なく否と云わゝ全帝國の土地人民をも〓去るべしと〓〓〓〓〓〓〓至りたる〓〓〓〓〓〓〓〓や〓〓れ支那政府が勢を審かにせず敵を審かにせず又己れを審かにせずして國の大事を處するに小〓の戯を以てし遂に敵人の〓を〓い來を我を攻めしめ己れ自から煩悶苦痛するものと云うべきのみ
支那國は甚だ廣く人民は甚だ多し其政府にも必ず有識忠勇の士に乏しからざるべしと雖も〓〓の天子名を知らざる〓外面の事跡上より見れば一人の有識者なく一人の愛國者なく國を擧げ政府を擧げて無識〓賤人の手に歸し四百〓州腐敗氣の充滿するものかと思わるゝなり安南の問題漸く切迫の状を呈し公然清佛開戰の沙汰あるべき程の塲合に臨み突然内閣の更迭あり前内閣の退けらるゝ理由は安南の事を處する甚だ緩慢なりと云うに在りて新内閣の從前主張する所は武を〓かし威を張るに在りしが故に一朝此更迭ありし以上は直ちに政〓の變更を見るべきに更に一事の前日に異なるものなく唯其異なる所は前日に比して一層の緩慢微弱の實を示すに過ぎざるのみ斯の如きは則ち彼の内閣の更迭と稱するものも唯王族以下の官吏が利を爭い權を競う私闘にして國の安危利害等も〓なきなみならず敵国外患の大事を利して一小局部の私を逞うする方便に用いたるものに過ぎず又諸省の総督將軍などゝ稱する者も李鴻章の輩を始め一人として國に盡す誠心ありとは思われず李氏の如きは支那第一流の人物と稱せられ世界の知識を以て自から許す人なるに其行事一として見るに足る者なく殊に過般招商局の汽船を賣拂いたるが如き最も愚拙を極めたる處置なり賣拂の理由は該局の營業出入相償わざるが故なりと云わんか目下佛國との和戰未だ決定せず明日にも宣戰の沙汰あるべきや測られざる折柄汽船の大切なる實に此〓より急なるはなし〓に現在所有の汽船のみならず他の汽船をも買入し素破と云うの日に運輸の不便を感ぜざる様に用意し置くこそ相當なれ然るを時もあるべきに汽船を運〓するは損失多しとて故らにこれを今日に賣却するは甚だ其意を得ざるなり招商局の會計何程に切迫なりと云うとも上海談判の結局を待つ餘裕だもなしとは云ひ得ざるべし或は支那の海軍は其力甚だ微弱にして〓も佛國と海上の爭を爲すに足らず一旦宣戰の上は招商局廿八艘の汽船の如きも未だ支那の用を爲さざるの前に忽ち敵人に奪われ敵の〓食兵士を運送する器械たるに過ぎざるべければ寧ろこれを今日に賣却し五百廿五萬両なりともこれを金にして〓中に〓め置くに如かずと云うに在るが果して斯る理由ならば獨り招商局の汽船のみならず何ぞ南北洋の水師に属する一切の軍艦をも併せてこれを賣却せざるや若し支那軍艦にして己れの背後に在る商船を保護すること能わずんば己れも亦自から衛ること能わざるものなり我は能く佛艦に敵し我守衛する所の〓口は決して敵の侵入を許さずと雖も我背後に在り我〓内に在る商船は我保護し得る〓にあらずと云う理はなかるべきなり加之商船は敵に奪わるゝも僅かに糧食兵士を〓送する用を爲すに過ぎずと雖も軍艦には砲銃の備ありて敵に奪われたる即日より敵の爲めに我兵士を殺し我砲〓を〓つ用を爲すものなり然るに今李氏は斯る大害物たる軍艦を賣らずして彼の小害物たる商船を賣りたり然れば則ち敵国と相對し大敗は苦しからず小敗は恐る可しと云うの意欲我輩これを解すること能わざるなり支那第一の李氏にして既に斯の如し他の老將〓儒の輩は固より論ずるに足らざるなり人或は云う目下支那政府の内情を察するに執權者の無識にして内外の大勢に通ぜず國の公益を思わずして唯現在政府の小利害を謀り同僚相排し相疾み國家の安危に間髪を容れざる瞬刻にも尚お小人等が私利に奔走する其際に何時が天下の大事の去りたるを知らざる有様は我德川政府の末年に類する所ありと然れども我輩を以て見れば支那の内情は我德川の末年よりも尚お一層の甚だしきものあるが如し二十年前の世界に於いてする尚且つ德川政府の存立を許さず況や二十年後の今日に於いて其弊德川よりも甚だしき政府を存立せんとするに於いてをや断じて世界の許さざる所なり若し今日以後現在政府の覆滅と共に其國土を他人に奪われざれば支那人の幸福盖しこれに過ぐるものなかるべきなり