「・支那國の運命」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「・支那國の運命」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

・支那國の運命

文明の利〓は本來人に私する者に非ずと雖もその成述に就いて考えるごときは亦甚だ偏〓あるに似たり先ず近代の世界に汽電その力を逞してより〓國頓に〓えて新國急に興り大強も小〓となり小〓も大強となりて邦國の運命その變化の迅速なるに至りたるは文明の利〓實に之をして然らしめたるものと云うべし蒸汽電氣の用開けて以來世界上、無形有形の人事一切に變動を受けたるは〓しきことにして人も我も同じく其變動中の風波に捲かれたる者なれども局部より見るごときは人類社會の幸不幸に大相違ありて一極の不幸は甚だ以て〓憐に堪えざる所多し其大体、何者が汽電の力の爲めに幸福を得たるやと云うに即ち西洋各國にして此幸福に反對する不幸福の國とは汽電の力無くして文明の攻撃に抗する能わざる邦國なるのみ然れども文明の利器は獨り歐米人の専有物にあらざるが故に能く採て之を使用せば自から歐米國たるも亦難きにあらず要するに文明の利器、汽電の力只これを他人の使用するに任せて己れ則ちその攻撃の衝に當る邦國は運命を保つことも亦決して久しかるまじき道理なりとす畢竟、支那帝國に西洋の文明が進入する趣は正に之と同一様にして四面の敵は皆汽電の力を以て攻〓の利器と恃めども自國は獨り嚴然として中華四千年來の古法に依頼し以て此文明の敵に當らんとす傍觀人より之を見るごときは其危さ言う許りにあらざれども當局者は安心して甚だ氣樂の至りなるは寧ろその亡滅を招く所以にあらざる無きを得んや去〓大にこそ門を開て西洋の文明を入れんとせば目下の如き頑固無識の老〓にて組織する支那政府の内閣を其儘に持續すること能わざるべければ勢い先ず今の政府を變更して彼の老〓を排せざるを得ざるなり老〓を排せんか、支那政府は〓れざるを得ず、政府を持續せんとするか、西洋の文明支那に入る能わず、文明入らざるか、支那帝國は亡びざる能わざるなり其故如何となるに盖し支那に於いて北京の中央政府若しくは地方の政〓にある政治家なる者は百中の九十九、先ず頑鈍にして何事も知るなく以て無感覺の人民を治めながら西洋文明の利器を採用せんなどは實に思いも寄らぬことにして又有られ得まじき次第なれば此老政治家がある間は西洋の文明は一歩たりともその歩を進めて支那國に入ること容易ならざるべし若し又今の支那國にても李鴻章輩に次ぐ二三の人々が萬が一其勢力を得て文明の利器を採用するに着手するとせんか然るごときは老〓は興に朝に立つ可からず今の政府は以て持續する能わざるべきが故に文明進入の第一着として支那現政府の〓覆あるは必然〓易き道理ならん支那の現政府と文明の進入との相両立す可からざる此の如くなれば李鴻章等開國主義の徒が支那に勢力を得る暁は乃ち左宗棠、彭玉麟等の攘夷家が失敗して政府變更する機なりと雖も目下の形状に就いて〓〓るに支那國の〓〓は攘夷の意見多數を占め勢威を占め、その權甚だ嚇然たるが故に文明の利器〓に支那國に入ること決してある可からず文明の進入既に支那國の門前に拒絶せらるゝ以上は此利器を利用する西洋諸國が支那に對して人を愚弄する擧動を爲すに何の憚る所も無きを以て自在に支那國を苦しめ其手を切り其足を断ち次第に呑〓の慾を逞せんとするに至るも亦勢の必ず然るものならん然るに其土地は肥沃にして山に〓物富み河に魚介多く水陸運輸の便も至りて自由にして恰も是れ天然無〓藏の樂土なるが上に其人民愚にして其政府には又恐るべき利器なくんば箇程結構なる猟塲の世に二つとはある可からずとて世界各國の人民が皆其後を窺〓る其一〓を奪いて我腹を肥し其一島を得て我喉を潤さんと欲し左より右より前より後より次第に〓食せば如何に無尽藏の支那帝國たりとも遂には有盡藏の期に達し〓地寸土の失を積んで最後には其宏大數千里の帝土を喪うに至るも亦遠きには非ざるべきなり喩えを言わば支那國に猶極めて肥大、極めて痴鈍なる動物の如く虎豹〓狼の群中に立てその〓〓を免れんと欲せば第一その腦髓と神經とを入替え併せて之が爪牙を鋭利にせざる可からずと雖も四千年來生々死々相傳えたる身体のこと故に腦髓に〓〓なる虎狼の群に〓まれ一身肥大の肉は寧ろ敵の〓〓を誘う媒となりて〓して後に終る者と云うべし支那國前途の運命實に氣の毒に堪えざるなり

西洋の文明を利用せざれば支那帝國の存在難し、文明の進入を許せば支那政府覆えざるを得ず、畢竟支那政府を持續すると支那帝國の亡滅を免がるゝとの相両立し能わざる次第は既に我輩が數年前に洞見したる所にして此持論は嘗て開陳に及びたることもありしが近來支那國外交の困難を見るに益々切迫を重ねたる姿にして我輩の持論は亦た甚其肯〓を失わざりしを信ずるなり先頃東京事件危急に指迫りて支那佛蘭西將に交戰に至らんとする際に恭親王李鴻章等支那政府中にても〓々開進と聞えたる人々は一時に内閣を罷去を其代に醇親王、左宗棠等頓に威權を占めて内閣に列座しこれが爲めに文明の進路には一大關門を〓えて多くその侵入を遮ぎると同時に中華尊大の主義盛んなるに至りて倍々今の政府を今の儘に萬世無窮に持續せんと勉め文明の進入には復た一歩をも仮えざること知るべきなり然るに其外國との關係を視れば頑固老〓の新政府が權を占めて未だ〓ならざるに東京に郎松事件出來して佛國より償金要求の談判を蒙り支那政府の政略遲慢を極むる際、佛國の軍艦は既に台湾の〓籠港を〓取り或は將に〓州をも占領せんとする色あるが如し此事件は目下進みつゝある〓にして其結局如何に成行くべきか佛國よりは果して償金と引換えに〓〓籠港を指戻すべきやも知れ難しと雖も或は無理に理を〓會して永久台湾の一港を支那の〓許の儘に占領して〓葡萄牙が漢門を〓するが如き所為に出るなしとも云う可からず兎に角に此等は將來に定まるべき事件として先ず是迄の有様を察するに葡萄牙は漢門を領し莫吉〓は香港を領し〓〓亞は黒龍江一帯の地を領し佛國は既に東京一帯の地を領して又將に両廣雲南三省の地を領せんとし今又將に台湾島を領するも測り難き有様なり且つ朝鮮は既に獨立し琉球は既に日本に属し支那四邊の敵は随分許多にしてその應〓亦繁劇なりと云うべし尤も宏大なる帝國の斯る土地を失うは猶肥大なる動物が〓邊の片肉を失うと同然ならんなれども四隣の敵既に其肉の味わうべくして之を切取ることの容易なるを悟らば爭て〓〓の慾を逞しせざるあらんや縦い尺寸の土地なりとも次第々々に奪い去られなば支那帝國の版〓漸く縮小して肥沃豊饒なる部分は総て他人の手に歸し僅かに北京一帯の地を保ちて宗社の祀り絶えざること殆んど〓の如く其有様は昔、周の天下が分裂して諸侯の割〓したるが如く英露獨佛その他伊太利、葡萄牙等夫々支那の要害を〓守分有して清朝の天下遂に誰の手にか落つることにて其當〓者は秦に非ず漢に非ずして遠く西洋の諸強國その一に在ること我輩が今日より空想する所なり