「立憲國の國會」
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本文
立憲國の國會
左の一篇は九月九日倫敦發にて在英國特別通信者より郵送し來りたるものなり
時事新報記者
立憲國の國會 豊浦 生
歐米諸國憲法を定め國會を開き所謂立憲政体の形をなす者尠からずと雖ども其國會の稍や
体を成したる者米洲に在ては合衆國歐洲に在ては英佛のみ日耳蔓と云ひ墺地利と云ひ羅馬
尼亞なり西耳〓なり其國會の形なきもあらざれども其形は流〓不定の形にして未だ〓の國
會の体をなさゞる者なり去れば世界に立國の數多しと雖ども眞に國會の体をなしたる者は
歐米中僅か三大國あるのみ我日本にても國會開設の期將さに近きにあらんとするの時なれ
ば今此の三大國にある國會の体を互に相比較して其全体を知ること决して無益の業にはあ
らざ〓〓〓〓扨此の三國の國會は世人の能く知るが如く上下の兩議院より成立つものにし
て其名目並に其議員撰擧の〓は國々同一ならずと雖ども下院に於て議决したるものも若し
其决議を以て不當なりと認むる時は上院に於て是を破棄するの權あるの一事に於ては各國
其趣を同くする者の如し併しながらこは唯表向きの形にして其實權の歸する所は豫め之を
定むべからず上院の權威をして至大ならしめんとの趣意を以て最初上院に破棄權を付する
も歳月の經過するに隨て却て其實權の下院に歸することあり下院を以て國會全部の骨髄と
なさんとするも却て上院の爲めに其實權を奪はるゝことあり國の政体は作るべからず又定
むべからず唯時勢の成行に〓して其成果を〓るべきのみ〓米國の如き佛蘭西の如き其初の
國會を作るや上下の兩院をして其〓〓〓な〓同〓同權たらしめんとし今日其憲法の明文を
視るも其文面に於ては毫厘の差等なしと雖ども之を其實際に徴するに大に然らざる者あり
英國の國會は其實權下院にあり下院〓黨の多少に由て其進退を决し其黨勢多數なれば朝に
立て施政の權を執るべく其黨勢小數なれば野に在て反對黨の義務を〓すべし上院に破棄權
ありと云ふと雖ども濫りに之を弄ふ能はず唯下院多數黨の指定する所に隨て其議を决する
のみ英國の實權下院に在りと云ふべし、合衆國に在ては其實權元老會即ち上院に歸する者
の如し試に今合衆國の上院を破廢せば合衆の國体忽ちに一變して憲法其實を失ふべしと雖
ども其代議會即ち下院〓〓するも爲めに全般の國体を變ずるが如き事はなかるべし其初め
米國の憲法を制定するや上院をして下院よりも重からしめんとの趣意は毛頭なかりしこと
ならん唯其下院に異なる所は下議員は全國の人民これを撰擧する者なれば則ちこれをして
全國人民の代議士たらしめ上議員は然らず合衆連邦の各州より撰擧さるゝ者なれば則ちこ
れをして州の代議士たらしめ以て下院の議事急進過激或は民情に反するの議案を可决する
ことある時は是に破棄權を付與して以て其急進過激の弊を制御せしめんとの趣意なりけれ
ば憲法上より之を觀る時は其立法の權に於て敢て上下兩院の間に輕重あらざるが如し啻に
輕重なきのみならず凡そ全國の財政に關することは先づ下院に於て是を議决せん以上なら
では上院に於て是を議するを許さず上院に於て國費に關する議案を作ることを許さゞる憲
法なれば上院の實權は却て下院に劣る者の如く思はるれとも其實際に於ては决して然らず
上院は恰も全國政權の源にして下院は其意を承けて働く者と云ふべし各州より撰擧さるゝ
所の元老員は必ず常に其州内に住居する人に限るとの制なれば州内の事情に通ずるは勿論
州内に在ては恰も其黨派の首領なるが故に州政の實權は自から此人に歸着し官員を登用す
るも工業を起すも事々物々其意の如くならざるはなし金權なり政權なり一切萬事己れが手
裏にあるが故に其威權自から強大なり此強大なる人物が各州より集まりて其上院を組織す
るが故に米國の實權上院に歸着するも亦謂れなきにあらざるなり米國政治家畢生の大望は
元老會の議員となりて其政權を執るにあり斯く其上院の威權強大なるが故に下院は之に抵
抗すること能はず全〓〓〓〓〓〓〓〓〓あれ〓唯命これ從ふ者なれば米國の政治社會に於
て大爭論の生ずるは上下兩院の間にあらずして上院と大統領との間にある者の如く其事実
は古今の歴史に照らして之を知るべきなり全國の政黨兩派に分れ時の大統領が其一方の首
領にして上院の多數は之れに反するの政黨なれば忽ち施政の澁滯を來して當惑の塲合に至
るべし故に云ふ米國の政權は上院に歸し上院は米國政体の骨髄なりと、佛國の共和政治は
立憲以来日尚淺く上下兩院の如きも未だ流動不定の有權に在て政治の實權は果して何れの
部局に歸着すべき哉是を知るに由なし憲法の文面に據れば時の大統領は上院と恊議の上〓
に臨み下院を解散して議員の更〓を免ずることあるべしとありて上院の權力は如何にも強
大にして其意に任じて下院を解散することを得る者の如くなれども其實際に於ては然らず
却て上院は下院の爲めに制せらるゝ者の如し千八百七十七年「マグマホン」氏と共和政黨
と〓〓〓〓〓〓生じたる時大統領は〓〓と力を〓〓〓て當時の下院をして解散せしめんと
せしかとも何分下院の勢力強大にして其意の如くならず却て上院の敗北となりしことあり
去れば其憲法の文面は兎も角も其實權の歸着する所は未だ確定せずと雖ども其實際に於て
は權力稍や下院に偏する者の如し過般上下兩院の「コングレス」に於ても生涯就職の元老
議員が〓〓て九箇年期限となし米國元老院の仕組に倣ひ其中三分一の議員を毎三年に交代
せしめ第九年目に至り全く是を新陳交代するの仕組に改めたり尤も此上院なるものは下院
の如く臨時之を解散することは出來ざれども既に其生涯議員を廢せし以上は間接にも輿論
の代表者たる資格を有するが故に其權力の輕重に於ては更に下院に異なることなく却て後
來其權衡下院に傾斜し政權の中心下院に集點する哉も亦測り知るべからざれども前文にも
云へる如く佛國の政体は今正さに流動不定の有樣にして未だ固形有体の階級に達せざる者
なれば是を豫言すること甚だ難しと云ふべし、反之當英國の國体は數百年の習例今日に至
て儼然確定其体を成したる者なれば他より動かすべからず自から改むべからず憲法の明文
はあらざるも政權は下院多數の党派に歸し党勢弱ければ野に在て反對党の義務を盡すべし
勝つも負るも時の運、野に在るも耻るに足らず朝に立つも誇るに足らず白晝議塲に施政の
是非を爭ふも所謂主義の公敵にして嫉妬猜疑の私敵にあらざれば共に國恩に報じて共に其
〓に浴すべし己れが主義の行はれざるを憤て不平を干戈に漏すの卑怯者あらざれば主義の
行はるゝに乘じて壓制を試みんとするの卑劣者なし仮令ひ一時の多數に依頼して與論を壓
倒する者あるも其具は腕力の兵權にあらずして空理の議論にあるが故に之に應ずること太
だ容易にして其壓倒も強ち恐るゝに足らず又其海陸の兵權は恰も一種獨立の姿にして武人
は武人たるの品格を存し國内に其權を振るふて武名を損せず政党の爲めに役せられて下民
を窘めず兵は全國の兵にして一政党の兵に非ざることを知り外國に對する時は猛虎の勢あ
るも内國に在ては誠に無害なる牛羊の如し眞に武門の名に耻ぢざる者と云ふべし、以上の
諸件憲法の明文を以て之を定めたる者にあらず事務の章程に由を行はるゝものにあらず全
く無形有力の慣例に由て行はるゝ者なれば或人が英國を評して無法調和の國柄なりと云ひ
しは葢し其國情を悉したるの言と云ふべし去れば英國の如く無法にして調和せんか將た佛
國の如く有法にして騒擾せんか調和するも騒擾するも豫め是を定むること難く調和せんと
して却て騒擾する者あり騒擾せんとして却て調和する者あり唯時運の赴く所に任じて其成
果を待つべしと雖ども小生輩は寧ろ無法の調和を希望する者なり憲法々律の明文は何程精
密なるも其効能は案外に薄弱にして徹頭徹尾其明文に依頼せんとする時は即ち有法騒擾の
弊するを免かれざるべし日耳蔓の法理は天下最も精密なるものと雖ども其所謂法理は唯空
理にして其實際に未だ立憲の實あるを視ず英國の法理は淺近にして殆ど法ありて法き者の
如しと雖ども社會全般の秩序は誠に整頓して羨むに足るものなり英國の上院は貴族世襲の
ものより成立ち人民より撰擧されたるものにあらざれば人民に〓〓て直接の責任を負はず
之れに〓して直接の責任あらざれば下院に於て何樣の議案が可决する〓自家一〓〓利なら
ざる者は〓〓なる之を〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓なれば〓の〓分の權を振ふ〓施政の混濫を
來すことなく互に一歩を〓て〓〓し敢て上下兩院の〓に大なる軋轢を生せざるは〓〓英國
の幸福にして上院の面目之れを過ぐるものなり〓〓の如きは法律に由て求むべからず憲法
を以て定むべからず〓一國人民の氣風と之れを〓〓する党派首領の〓〓とに〓〓する者な
れば苟も政治社會の〓〓も〓〓〓を執る者は平生〓〓〓〓なからざるべからず