「日本人種改良」
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時事新報に掲載された「日本人種改良」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日本人種改良
左の一篇は九月十二日倫敦發在英特別通信員より寄送ありしものなり 時事新報記者
日本人種改良 豊浦 生
近頃日本より達する新聞を視るに學者社會には頻りと内外雜婚の議論喧しく今日復た是に
異説を唱ふる者なきに似たり小生も亦此儀に付ては誠に御同意にして毫も異論なし啻に異
論なきのみならず偶ま獨身者の朋友に出會する時は勉めて其雜婚を勸奬する程の次第なり
種子を改良せざるべからざるの一點に至ては馬も人も更に異なる所なく是を改良するには
異種の血を交へざるべからず同種と同類とのみ結婚して更に異種異類の血を交へざる時は
馬にても人にても次第に其血統を損し其品格を失し馬なれば駑となり人なれば日本人の如
く矮小虚弱の侏儒となるべし此理は少しく牛馬牧畜の事に經驗ある者の能く知る所にして
生理上疑ふべからざるの定則なり去れば雜種の婚姻は人類を改良するの良手段にして他に
又一策なしと云ふも可なり古來我國民は唯日本國中の同種類とのみ結婚して他種の血を混
ぜざりしが故に其身体漸く微弱縮小遂に今日の如く世界第一の矮小人種となりたる事なら
ん啻に日本人中にて結婚せしのみならず其日本中にても農工商抔の種族ありて大概は同種
族中にて結婚せしことなれば其血統の混淆極て狹しと云ふべし故に我日本の人種を改良し
其身体を強壯偉大ならしむるには様々の工夫あるべけれども先づ雜婚を以て最も適實のも
のとす扨其雜婚をなして其血を混するに最も良好なる血統は世界中何れの人種なる哉と考
ふるに歐米の人種を措て他に望むべき者なし其体格の完全なる其体力の強大なる天下歐米
の人を以て最良とす加ふるに歐米人は祖先遺傳の敎育を享有し其体力の強大なるに加へて
其心力も亦太だ強大なるが故に此血統を以て我血と混和せば其子孫に至り必ず心身壯健の
人種となる哉生理の定則に於て疑ふべからざることなり此雜婚の〓に〓するに或は國体論
の一種變形なるもの〓〓〓する者あり曰く歐米人の血を以て我血に混和する特〓〓〓〓〓
矮小なる日本人を〓〓〓〓〓壯健の者となる事生理上疑ふべからざるの定則なれども此内
外人の間に生ずる者の血統は半和半洋にして是を純粹の日本人と云ふべからず後世此半和
半洋の人種が我國の充滿して天下純粹の日本人なきの日に至らば我日本國の土地は依然尚
存するも是に居住する人種が純粹の日本人にあらざれば是を日本國と云ふべからず則ち其
形は雜婚にあれ歸化にあれ其實は我神國の体面を損し我日本の獨立を失するものなり若し
又其人種は如何樣に變ずるも日本國土の獨立のみを維持せんとの目的なれば雜婚抔の間接
法に依らずして直に我日本國を英人なり米人なりに賣り渡し其賣上代金を今の日本人中に
配分し以て一生を氣樂に消すべし何ぞ條約改正を論ぜん何ぞ治外法權を説かん日夜齷齪と
して國の獨立を憂慮する亦徒勞のみ試みに見よ今の亞米利加合衆國は元と何人の領地なり
し哉其土人「インヂアン」は年々歳々白人の爲めに其領分を押領され其人種も今方さに絶
滅の期に迫りたり然れども其土地は依然亞米利加洲にして然かも其文明の度は天下最高の
點に達したり若し其人種は如何成行くも唯其土地をさへ文明に進むれば毫も遺憾なしと云
へば亞米利加の土人「インヂアン」の爲めには白人の押領を祝せざるべからず甚だ謂れな
き次第ならず哉雜婚の説或は生理の眞理に適せんと雖ども我國体を損するを奈何せんと以
上團体論の變形を唱ふる者が雜婚の説に反するの言なり然れども能く眞理を究めて是を考
ふるに雜婚をすればとて我國体を損するにあらず又其獨立を傷るにもあらず雜婚は唯我人
種を改良するの一術にして是に依て生ずるの子孫は依然尚我日本人なり譬ば我日本の通過
が其通用の際追々磨滅して其定位下に減ぜしが故に是を大扱の造幣局に持ち行きて鎔解し
更に外國より幾分の金塊を仕入れて是れと混和し以て其減量を補ひ再び是を鑄て我日本極
印を押て發行する時は仮令ひ其元質には幾分の外國金を含蓄するも尚是を日本の通過と云
はざるを得ざるが如し我國民の血統歳月の久き追々磨滅して通常人間の定位價よりも下落
して物の用に立たざるが故に他より幾分の良血を輸入して其缺を補ふのみ人種を改良する
も通貨を改鑄するも其是を改良するの一點に於ては更に異なる所あるべからず通貨は國の
寶なれば是れに外國の金銀を混合するは宜しからずと云ふ是を改鑄せざる時は忽ち其品位
を損して遂には通貨の用をもなすべからず日本人の血に外國の血を混合するは好ましから
ずとて是を改良せざれば年々歳々其人品を損して其微弱は益微弱となり其矮小は愈矮小と
なり遂には全滅するの期に達すべし如此は國体を維持せんとして却て其國体を損する者な
り亞米利加「インヂアン」云々の説あれども此雜婚の儀とは更に關係なき者にして爰に其
例を引用するは所謂牽強附會の説と云ふべし亞米利加洲に白人が渡來して其國を建て是を
亞米利加合衆國と稱して其土人を逐退けんは則ち其領分を押領せん者なり其血を混和して
其人種を改良せしにあらずして他の人種を以て元の人種に代へ英人を以て亞米利加印度人
に代へしことなれば前の譬を用ふれば我日本の通過を廢して亞米利加「メキシコ」國の極
印ある「メキシコ」弗を以て直に是を通用するが如し是れ則ち通貨を改鑄するにあらずし
て他國の通貨を以て直に我通貨に代用する者と云ふべし我輩と雖ども此人種の代用は〓〓
〓〓ざる〓にして〓〓〓でも我人種を改良し我人種を以て我國体を維持し我獨立を保たん
こと畢生の願なり日本人種は消滅しても日本の土地さへ文明に達せば夫れにて足れり強ち
日本の人種を以て其文明を進めんとするは太だ狹き量見なり四海は兄弟人類は同等何人が
日本國を押領するも聊か妨なし抔世の中には千萬年の後を談ずる人もあれども我輩未だ遽
かに此説に同意するを得ざるなり他の良血を取て我不良血と混合し雜婚の法を以て我人種
を改良し他を化して我身となすは誠に同意にして聊か異論なしと雖ども他人を以て我身に
代用し我國を擧げて他人の手に渡し他人の爲めに我國を押領さるゝは决して好むべき事に
あらざるなり讀者幸に此二者の區別を錯雜して通信者の意を誤認することなかれ(未完)