「條約改正と北京の談判」
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時事新報に掲載された「條約改正と北京の談判」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
條約改正と北京の談判
條約の改正を待つ人者幾許ぞ我輩は之を待ち之を望て最早や〓み退屈したり盖し此事の斯くも遷延して〓取らざるは我外交官の怠慢に非ず、我國民の忘れたるに非ず、朝野擧を改正の終局を冀望せざるものなしと雖も爰に其事に就ての故障は我締盟興國人の意見と我日本國人の意見と相協わざる一事なり抑も西洋人が動もすれば公平論を唱えて萬國公法など云う其萬國とは唯西洋各國内部の名稱にして苟も西洋を離れて外に對するごときは之を萬國の數の中に計えずして西洋の外には恰も國なきものゝ如し既に國なければ固より公法の行わる可きにも非ず東洋諸國の如きは取りも直さず公法外の國なるが故に其國を〓て貿易の條約を結ぶにも西洋の國々と相對して對等の權理を許さず即ち我日本國も開國の初に西洋諸外國と締盟して一種無類萬國公法外の條約書を認めたる所以なれども我國民が締盟以來漸く文明の事物に接して自から自分を省れば心身共に一種無類の生物に非ず西洋人の爲す所の事にして我日本人に〓す可らざるものなく、我國民の難んずる所のものは西洋人も亦共に之に苦しみ有形無形如何なる塲合に於ても是れは西洋諸国に限りて行われ其れは日本國に限りて施す可からずと云うが如き天然人為の差支え見たることなし是に於てか我國人も初めて大に發明して東西の人類等しく天地間の生物にして西洋の人事を文明と稱して世界中に有力なれば我れも亦これに倣いて有力の伍に入らんものと覺悟を定め政治學問商工殖産の事より衣食住の些末に至るまでも〓套の脱す可きは之を脱し新様に採る可きは之を採り開國三十年の今日に〓て之を觀れば今の西洋諸國も左まで驚く可きものに非ず固より我れは三十年急行の文明にして〓れには幾百年養成の基礎あり百般の事業に付き難易便不便の別なきに非ずと雖も彼れの進む處には我れも亦進み彼れの決断する所は我れも亦決断し共に文明の歩を興にして彼我同一の方向に進む丈けの事實は世界中の耳目に明白なる所のみものなり既に文明の歩を共にして同一の方向に進むごときは其交際に於ても最早や一種無頼の法を用いる可からず即ち其著しきものを云えば我条約兩に治外法權など稱する無〓無法の箇條を記す可からず、海關の税權を主權國の一手に任ぜざるが如き歴制法を除かざる可からず、左る代りには日本國中を打開て外國人の雑居を許す可し雑居雑婚歸化往来自由自在にして我内治に妨なき限りは毫も内外人の區別を立てず英米人の日本國に於けるは佛獨人の英米國に於けるが如くす可しとて我れより進て國を開を彼れを容れんとする旨は近年我朝野の興論にして條約改正の眼目とする所のものなり
然るに自由を重んじて〓落を悦ぶ西洋諸國人が數年前に在ては頻りに我れに開國を勸めたるにも拘わらず今日は我れより大に國を開かんと云えば彼れ自から退縮の色を現わして容易に我勸告に從うことを爲さざるは我輩の遺憾に堪えず又不審に堪えざる所なり盖し案ずるに西洋人も亦是れ一種の固〓物にして變通を知らず、祖先以來東洋は文明範圍外の國にして共に語る可からずとの口碑に先入して其筆法を〓守し東洋諸國中新に文明の見る〓き事實あるも唯東洋の二字に拘泥して之を同〓視する勇氣なきものならん又或人の説に西洋人は既に日本國の改進を知り其條約改正の如き決して之を無理とは思わざれども如何せん隣國に支那あり又朝鮮あり日本に向て承諾したる條件は支那朝鮮に對しても同様にす可き順序なるに實際に於いて支韓二國の有様を視れば日本と並べて同様に待遇す可からず即ち日本にて條約改正の難き由〓なりと云う者あり此言域は信ならん我方に於ては誠に迷惑至極なる〓けとは申しながら情實に於て或は左ることもある可し、若しも然るに於ては爰に偶然にも不幸の幸に遭い一擧以て西洋人の耳目を〓にして我條約改正を〓取らず可きものあり其次第は他に非ず今回朝鮮の變乱より日支韓の葛藤を引起し今や我大使は北京に赴き大に清廷に向て談判を開かんとする折柄の〓條は我輩の今日得を知らざる所なれども兎に角に我れより進て支那政府に要求する所あるは疑を容れず〓して其求め得たる所のものは我日本國民を滿足せしめて拍手〓と稱し、國〓〓〓と呼ぶ可きものたるや是亦預期して逢うことある可からず我内國人民にして中心に滿足す可き者なれば必ず日本國の榮譽にして其外見外聞以て西洋國人の耳目を一新し〓は日本國は其地位東洋に在りと雖も其國の精神は則ち西洋文明の翼を得たり朝鮮變乱の始末、韓に接し清に當り、甚大に要むる所を得て活〓なる國民の報國心を滿足せしめたり、允分允武これを傍觀して遺憾を覺えず日支韓の三國等しく東洋の國と稱すと雖も獨り日本に限りて他の二國と同等視す可からずとて、特別の敬意を表し條約改正の難問題の如きも今度こそ速に我が多年の本願を達することならん聞く所に據れば井上外務卿は目今専ら此改正の事に忙わしくせらるゝ由、その最中に伊藤大使は北京の談判を結了し談判の成跡は以て間接に改正の成を助くることならん朝鮮の變乱我國の奇禍たりしと雖も偶然にも之に由を以て我國權を張る機會を得ること我輩の豫期の如くなるを得ば不幸の幸と云う可きなり