「五千萬圓」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「五千萬圓」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

五千萬圓

東京市區畫定〓に東京湾築港の事は我輩の久しく希望するして止まざる所なり何を以て東京の市區を畫定せざるべからざるかと云うに東京は元と德川幕府の城下にして此城下には三百諸侯の各邸の外に旗下諸士の邸宅ありて各所に割〓散在し商家は唯此諸邸の需要品を供給する爲めに四方便宜の地に集在し毎集自から一都府の体裁を具へ數個の都府合衆して遂に一個の江戸〓を今の東京を〓大都會を組立てたるものなりし然るに明治維新政治上の大變革より東京市街の組織を一變し諸侯の邸は變して〓〓の〓と爲り荒〓の廢地と爲り其不規則乱雑なる殆んど名〓すべからざるものあり又文明風潮の進歩と共に〓會の事物日に面目を改め昔日は二里四方の江戸市中を往來する人皆唯徒歩に由り稀には駕籠を用いたるも今日は陸に鉄道あり鉄道馬車あり馬車あり人力車あり川に蒸汽船ありて人事殊に迅速を要する際に當りて此車馬を以て此〓〓を疾〓す其危險は姑く舎を論ぜざるも其事の實際に行わるべからざるは實に明白至極なるべし〓る不都合の事實あると同時に昔日は唯日本政治の中心たりし東京も今は漸く政治の中心たるに兼ねるに更に又商賣の中心たらんとする傾向あり此傾向は日に月に益其力を加える勢ありて明治以前の〓城下は明治の今日文明商賣の新中心たるに適當せずとの事は十分人心に明白なるを得たり是即ち今日東京市區を畫定一新する必要に迫りたる所以なり又東京をして商賣の中心たらしむる念なき以上は兎も角もなれども既に中央市塲たらしむる希望ある上に兼ねて又實勢上大に其傾向ありとすれば時に及びて早く其準〓を爲さざるべからず即ち陸上市街の改正と共に東京の海に港を築き内國沿海航通の〓船は勿論世界〓國へ往來の船舶をして芝築地邊の埠頭に來を直ちに荷物を積み卸しする便を得せしめざるべからず是れ東京市區畫定と東京湾〓港とは一個聯〓の問題にして互に分離すべからざる所以なり

現任東京府知事芳川君は久しく爰に見る所あり市區畫定に關し十分計〓を尽したる後昨年十一月を以て〓よ其意見書を内務省に進達したるに直ちに〓議の裁可ありて内務省中に東京市區改正審査會を設け内務省陸軍省工部省農商務省警視〓東京商工會等より各豫名の委員を出し芳川府知事實に其委員長に命ぜられたり此會にて審査するところは單に市區改正の事のみに止まり築港の事は其問題外なるや否や我輩未だ其詳細を聞くを得ずと雖も我輩が既に前段にも論ずる如く東京の市區を畫定改良するは東京の築港と相須ちを其功を完くするものなりこれを分離して市區のみの改良に止めては折角の骨折も格別の効を見るべからず手短かに申せば市街の改良のみにては其効能は唯東京の全市中が今の銀坐邊の如きものに改まり火事沙汰を聞かぬように爲りたりなど云う位の事に止まり〓もこれよりして東京が全國商賣の中心と爲り随て東洋貿易の中心市塲と爲り其富榮を世界に競わんとするが如き繁昌を見る望みはなからん故に我輩は知る目下開會中の市區改正審査會に於ては重要なる東京築港の事も亦必ず其議題〓一に居ることを

東京市區改正〓に築港の事に關し第一の疑問は費用の出處なり金さえあれば市區なり港なり何様の注文に應ずることも自由なるべし〓今回東京府知事が進達したる市區改正の意見は東京を元との武藏野と見做して新たに市區を畫定するが如き方法に由るにあらずして成るべき丈け既成の市街を利用し大〓銀坐邊の如き市街に改正する工風なりと聞けり強て姑息に泥む趣意にてもあるまじければ先ず其邊の所にて好むとして其費用の概算を聞くに道路改修、上水供給、惡水〓通、河渠〓〓、鉄道布設、橋梁架設及び築港等の工費を總計して四千萬圓餘なりとか云えり兎角我輩は事に臨みて狼狽せざることを好むが故に今回の市區改正〓に築港の費用を大數五千萬圓と豫定し置くべし我輩の意見にては此五千萬圓を折半して半額は國庫より支辨し半額は東京市民より支辨して相當ならんと思わる何故に中央政府の金庫より此費用の半額を支辨するを以て相當なりとするやと云うに東京は皇居を始めとして文武諸官〓の在る日本帝國の首府なり此首府を改良するは決して東京百萬の市民に私する事業にあらず實に日本帝國の國事なり日本の國事とあれば其費用を日本國民に負〓せしむるに於いて決して不都合の事あるべからず我輩は是非とも此工費の半額を國庫より支辨せんことを希望するなり又他の半額を東京市民に負〓せしむる所以は市區改正〓に築港の爲め直接に其利益を受ける者は東京百萬の市民なればなり故に市民は此費用の半額二千五百萬圓を支辨するとして其方法は政府の特許を請いて此金〓を得べき丈の府債を實行する〓〓〓り〓〓入所丈けの布〓證書を賣出して其代金を工費に供し七年或は十年或は十五年を以て全額二千五百萬圓を支出し了るとし此府債を償却する方法は先ず東京市内の尋常地方税を増課する外に彼の入府税の法を〓〓用い東京に〓入する酒醤油味噌の類に若干の税を課し又は新港を利用する各船舶に若干の入港税を課する等にて二千五百萬圓の府債を三四十年間に元利償却し了る工風は甚だ容易なりと信ずるなり斯くて東京市區改正〓に築港の費金五千萬圓の才覺は出來たり審査會の進歩は今如何我輩は會員諸君が毎週毎日會議して一日も早く實際着手の日を喚來る工風あらんことを希望するなり