「金融逼迫」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「金融逼迫」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

金融逼迫

今の不景氣の原因中に就き通用貨幣の不足は其最も大にして最も直接なるものなり數年以前には無交換の紙幣日本國内に溢れ世間の需用に割合はしては〓用貨幣〓〓〓〓に〓出なりしが故に物價これに隨て大に騰貴し全國農工商〓〓の秩序を乱りたること少小にあらず〓〓〓〓〓〓〓之きらんとするを見て政府は斷然紙幣消却の〓〓を〓〓し最近四年間に流通紙幣を減すること二千萬圓政府の紙幣も減じ銀行の紙幣も〓するに連ねて金融は次第に六ケ敷なり物價は次第に下落し信用は次第に消え失せ遂に今日の如く全國の農工商業に一の〓〓なく〓鄙を分たず總て不景氣の苦澁に沈みて差當り〓〓〓の目當もなき哀れ至極の有樣となりたり大〓〓〓を發して社會の秩序を乱り大に紙幣を消却して〓〓〓を乱る一張一弛皆人為の力に依るものなりしが故にこれを救治するも亦人力に依頼して爲し能はざるの道理なしとは兼て我輩の持論にして其方法は先づ全國流通貨幣の高を増すに在り其一法として大に外國債を募り文明必要の鉄道を敷設するの甚だ願はしき次第〓〓述べたることあり然るに近日世上の樣子を察するに外國債と申しては甚だ手重きものゝやうにて迚も斷然たる處置を爲すことは六ケ敷からんかの恐なきにあら〓〓〓といふも過般日本銀行は總統吉原重俊氏が英國倫敦に渡り年六分利付金札引換公債證書を英國人に賣らんとするに一向面白き出來榮えなきを見てこれでは日本の信用も未だ煙の如きものか外債には決して手を出すべからずなどいふ考を起し遂に斯る人氣になりたるにてもあらんか併しながらこれは甚だ考へ過した〓〓〓事にして日本の信用決して煙にあらず若し尋常一樣の手續を以て倫敦の市塲に日本政府の公債を募らばこれに應する者は必ず雲霞の如くあらん唯今回の吉原氏は一〓の銀行役員たる身を以て英國人が是迄見も聞きもせぬ日本内國の〓〓證書を携へて倫敦に來りこれを賣らんといふゆゑに英國人は何か不安心なる心地して〓〓〓する〓の少々〓〓ふてもあらん果して然らば吉原氏の一例は日本國の信用の厚薄を〓す〓〓〓の〓わ〓〓して〓〓の〓〓〓巧拙の相違あるを證するに過ぎざるものならん故に今日にても外債を募りて鉄道を布くの決心あらば決して金の集まらざることを心配する〓〓〓〓今の日本國〓〓用にて相當の利息をさへ〓〓〓〓〓〓子〓〓の金〓〓〓するに何の造作もなかるべきなり

外債は決して六ケ敷ものにあらず故にこれを募りて鉄道の資本に下し大に流通貨幣の高を増して不景氣を退治せんとするは〓〓の甚だ〓ふ所なれども若し〓れを行ふに〓〓〓〓〓〓あらば我輩〓〓に其規〓を小〓して外國債と言はず單に内國の小〓域内にのみ〓の及ぶ所と限り何の手段に由らば國内の金融を滑かにして不景氣を退治することを得べきかを詮索せんとす扨も國内に流通貨幣の減少したるは數年來日本政府が年々數百萬圓つゝの紙幣を消却して明治十四年大藏卿の交代ありし以來にても其高既に二千萬圓に達したる〓の外に明治十六年の五月國立銀行條例を改定して銀行札の總額三千四百萬圓を其〓〓年限(廿年)〓に漸次消却することゝなし又在來諸銀行の庫中に在りし紙幣引換準備金八百萬圓は一時に日本銀行に送附して悉く公債に交換せしめたる事もあり銀行部内細密の事情は我輩の知る所にあらずといへども兎に角にこれが爲め各地方の金の融通は大に六ケ敷なりたるのみならず日本銀行の本店の在る東京にても市塲の公債が減して代りに通貨が増したる〓の事跡もなく唯次第に金の流れの源が涸れて一般の不融通を〓したるは事實なりし又一昨年の十二月に中山道鉄道公債二千萬圓發行の布告ありて〓來未だ二箇年に至らざるに金額二千萬圓は既に發行し蓋し其賣上金は悉く既に政府の庫中に納まり居れども中山道の鉄道工事の捗取らざるがため金の庫中を出る工風なく遂に其成跡は二千萬圓近くの通貨が民間を去りて政府の庫中に入りたりといふ丈けに終りたるものゝ如し然るに近頃又大藏省中に預金局といふものを設け驛逓局の貯金を始め官廰の諸積金は勿論寺社會社〓民の共有金等を預かり金利は年六分を拂ふことゝ爲したり預り金に年六分の利足は年七分利付の公債證書〓百圓以上にて賣買ある時節には随分よき相塲なるが故に是れより定めて預金局へ預け金を願出る者も多かるべく随て各地方の銀行等は預り金の収入漸く減し通貨は次第に中央政府の庫中に輻輳し來るの結果あらんか斯の如き折柄今年の秋と爲り又冬と爲り地租酒造税等の納税季節ともならば全國の通貨は其數を益して政府の庫中に納まり民間又一枚の十錢札を見ること能はざるやうの奇觀を呈することなきを必すべからず斯る悉しき時節にも政府は尚ほ鋭意して紙幣消却の事を勉め本年七月より來年三月迄九箇月の間に消却する高は三百五十萬圓に達すべき豫定なり以上皆民間の通貨が日に〓減少するの勢を助くるものなりと云はざるを得ず日本國の理財は果して斯る有樣の儘に遡行して差支なかるべきや我輩は甚だ之に不安心なり若し此儘に通〓の方針を變せざる時は全國農工商業の今の不景氣は更に又〓倍の不景氣を増し遂に救済の道なきまでに及ばんことぞ恐るゝなり(以下次號)