「各省の事務を整理するの綱領(昨日の續)」
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時事新報に掲載された「各省の事務を整理するの綱領(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
第三繁文を省く事
内閣總理大臣の達文に曰く一令出ることに疑問百出經伺の文簿積で堆を成し徃々半年或は一年にして始めて定まるなり文書繁多の弊は事務を〓〓して公私の障害たり、官吏を冗多ならしむ、一部を擔任する官僚として文書に依頼して責任の意を輕からしむ今此弊を除かんには凡そ布告の法律は成るべく説明書を附して疑問なからしめ又府縣長官及び其他一局部の長たる者は法律命令を施行するに付て其明ある者に付經伺しく指令と〓ふことを得ざらしめ其他公文停〓の弊害救ふが爲めに文書受付徃復の程限を定め稽〓を以て過失と爲し主任の官吏をして其責に任ぜしむ云々と文書繁多事務延〓は世界古今政府の通弊なり日本の如く封建の餘〓尚ほ社會に充滿する國に在ては別しく甚だしきものあるならん此などの弊を除かんとするには固より一と通り規則章程もなかるべからざることなるが此事唯規則章程の文面にのみ依頼して決して矯正し得べき弊害ならず必ずや先づ長官も此事を心とし局長もこれを心とし属官もこれを心として念々忘れず人の監視催促を待たずして銘々自から我心に説ふて我手に働くことゝならざれば能わざる事なり我輩は全國幾萬の官吏が能く此趣意を體して再び府中に文書繁多事務延〓の歎聲を聞ざらしむることに油斷なからんことを希望するなり
第四冗費を節する事
達文に曰く凡そ行政官務整頓嚴確なる國は其經費必ず節省ならざるはなし維新以來歳出の歳を逐て〓加する明治六年の會計表に據りこれを昨十七年度の歳出と比較するに幾んど四分の一を〓加せり官吏棒給の一項に付て言ふも明治六年の〓數に據りこれを十七年度に比較するに十分の六を〓加したり然るに實務の擧がる所成果の得る所未だ經費の〓〓と相比例するに至らず宜しく務めて制限を行ひ各省の定額は内閣に於て事物の緩急を料りこれを總判畫定し超ゆべからざる限を爲すべし各省院府縣廳は毎月官吏の員數〓に棒給を統計して檢査院に報告し檢査院に於て其制限を〓えたるものを檢出したることは内閣總理大臣上申して處分を〓わしむべし又檢査院は會計出入の檢査を爲すことならず需費の成跡に就て事業の得失を察し各廳内部の處務に注目し務めて儉省確實の方法を計畫して内閣に提出せしむべし云々と今日の文明世界に國を立るもの其政費の日に多端なるべきは事前の勢にして實に已むを得ざる事なりといへども左れども成果の得る所經費の〓〓と相比例ならに至らずとありては實は容易ならざる次第に付其當局者たる者は各非常の英斷を以て一々冗費を〓すること實に目下の急務なるべし又其監視の責に任ずる檢査院は以來一層の重任を負ふものなるがゆえに院の當局者は忌憚なく怠惰なく公明頴敏に其職務を盡して行政各部の注意を促し再び冗費〓省の沙汰なからしめんことに十分助力せんことを希望するなり
第五規律を嚴にする事
達文に曰く官吏の品格は實に政府の威信に係り官吏の忠順〓密勤勉〓簾は政務の得失に密接の關係を爲す其紀律を嚴にし其品格を保つは一日も緩慢に付すべからず各省大臣各其權内に於て振勵監督し告戒〓責を懲罰し〓遺の禁は細大に及ぼし職務〓廢の戒めは其意無心を問わず老〓務めに堪えざる者は其官を退かしむべし云々と官吏の紀律を嚴にして遠慮なく〓責懲罰し〓職の者に對しては〓實を問わず老〓の人に向ては免職を惜まず肅然整然英斷を以てこれを率るは政府を維持するに必要の務めなり幾百人の會社を統轄するにも尚〓且つ紀律の嚴肅するを要す況んや幾萬人の集合する政府を率るに於てをや軍法嚴ならざれば兵其用を爲さず紀律嚴ならざれば政府は廢物の府と爲ること世界皆然り公に在ては決して〓實を顧みるべからざるなり我輩は政府の紀律が何程に嚴なるも到底嚴に過ぐること能わざるものと信ずるなり
以上は今回伊藤内閣總理大臣が各省大臣に達したる事務を整理する綱領五箇絛の大要にして又聊か我輩の所見を附記したるものなり此綱領に從て不日各省共に官制も定まり規則規定も定まり事皆漸く其緒に就くに至らば此綱領實行の前後を比較して日本政府の内部外部の有樣に一大相違を生ずることならん果して然らば一般告の爲めに實に此上もまた慶事なり併しながら未來の人事は兎角豫期に齟齬すること多く當初は成功疑ひなかりし計畫も後日に至りて或は人の怠惰油斷より或は人力の左右し得ざる故障よりして遂に其功を半に止め人をして徒らに悲歎恨悔せしむる例なきにあらず當局者の最も自から戒むべき所なり我輩は今回の達文を一讀して其實行の間違なからんことを希望する餘り聊か數言を附記して讀者と共に誓て失望の不愉快を免がれんことを願ふものなり(畢)