「加藤弘之君日本人種改良論の辨を辨ず」
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時事新報に掲載された「加藤弘之君日本人種改良論の辨を辨ず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
(前號の續)高橋義雄・
事の實際は前段に陳述せし如くなれ共余は今加藤弘之君に一歩を讓り雜婚の結果として日
本人も何時か一度は西洋人種に化し日本人種の血脈は漸く消滅する者也と覺悟せん然るに
君は初より優勝劣敗は是非もなし劣等の日本人が西洋人に迫らるれば夫迄と觀念して絶滅
せんとの英斷なれば余も君も現在の日本人種が未來に絶滅す可しとの見込は同樣なり斯て
其雜婚の結果として日本人が優勝劣敗にて根絶すれば彼の亞米利加土人同樣遂には其〓類
をも留めず祖先血食せざるに終るならん之に反し雜婚の方法にて日本人種の血脈漸消の塲
合には毛髪膚色等こそ異なれ其後に天晴れ祖先に立ち歸りたる〓子孫を留め日本人として
未來永劫永く相繼承することならん此二者孰れを擇ぶか余は尚君の再考を〓はざるを得ず
又君の説にては純粹なる日本人の働にて國家の隆盛を發せば日本人の面目なれ共異人種の
國と爲りては隆盛も何の榮かあらんと申せど君は人種一源論を承知するに非ずや假りに人
種一源にして我々は猿と同族なりとすれば白色人も黄色人も同一の祖先より出たるものに
して今日交通頻繁世界の人種漸く一に歸せんとするに當り兩人種共に區別を立て好惡を其
間に存するは俗に云ふ迷ひの一種には非ずや余は日本人種改良論中に雜婚の結果として子
孫に白色人種の形容を存するを見て日本人の身体は西洋人に取られたりと云はゞ牛肉を食
ひ其元素を以て筋肉を組織するを見て我々の身体は牛の爲めに取られたりと云はざる可ら
ず云々と記したり〓〓〓に屬すれども此間辨宴の一端と爲る可し夫れとも縁もなき異人種
が突然來りて日本國を其儘引き受くるの塲合には所謂異人種を疾視するも一應尤なるが如
くなれども君の〓はるゝ異人種とは現在日本人の子孫なり日本人が其隨意を以て西洋の男
女と婚し其相愛の〓に生〓たるものなれば眼色膚色等の外見に多少の變相ありたりとて子
孫として之を愛するの情に區別なきは〓〓〓に雜婚して合の子を持てる人に同ふて〓〓可
〓〓〓子孫として之を愛すれば彼の祖先として我を敬〓〓〓〓〓千年の後彼等の力能く日
本國の隆盛を爲せば祖先たる我々は敢然として我子孫の面目を〓とすることならん聞く亞
米利加土人中白色人と雜婚したるものは雜種として人口稠密の地に生息すれとも純粹なる
土人は漸く山中に逃げ入りて次第に消滅するの勢なりと然るに君は合の子を以て人種に不
忠なりとするものなれば彼の落機山の蕨を食ひ枕を駢べて餓死したる銅色の伯夷叔齊に左
袒することならん君の説の如く宇内の事は優勝劣敗の異種に支配せらるゝものなりと知ら
ば自から工夫して優等の地位に進み其劣敗の數を免るゝこそ智者の事なれ敗するを知りて
詮方なしとて手を束ねて絶滅するを俟つは餘り不甲斐なき所爲にして後世子孫に面目なき
次第ならずや
君は辨駁の末段に人間の世に立つは只我と云へる者の利uを計るが爲めのみ今日本人種は
大なる我なり人種改良論者は此大切なる我を亡ぼすものなりとの申條なれども元來我と云
へるものは終始變遷するものなり今の日本人は日本人種を以て我とすべけれども合の子は
合の子を以て我とす可し余は今の我と後の我れとの利uを計ればこそ雜婚を奬勵するなれ
我れ優等人を夫妻にし夫婦相愛、優等の子を生めば其子は即ち第二の我にして第三第四轉
た相繼承し各我を我として大なる我の便uを謀る、雜婚は利己主義の大なるものに非ずや
若しも然らず日本人は何時までも今の日本人種として改良せざれば優勝劣敗所謂我なるも
のも全く影消泡滅するに至る可し是れ亦君の熟考を請はざるを得ず
以上は理論上より大畧君の説を辨じたるものなれ共實際上より觀察すれば非雜婚論の行は
れざるや疑を容れず今後外交ますます繁多各人種互に相往來し我國にても早晩内地雜居を
許すならんとの豫望ある今日、雜婚の機會はますます揩オ到底人力を以て之を制する能は
ざる可し又カトルフエージ氏の如きも其雜婚を論じたる文中に今後交通の便利揄チするに
隨ひ蒸氣船車能く各國の氣脈を通じ各人種互に利害を同ふし性癖を同ふし又其需要を同ふ
するに至らば人種の混合にも又一層の便利を加へ其血脈も亦互に通同し遂に人種の一新期
限を表するに至らん云々と記せり君は此際に處して非雜婚論を實行するの望ありや或は法
律を以て雜婚を制せんとするに現に米國オハヨ州の成分律には純粹の白哲人種にして黒人
及亞弗利加人種の血脈を現存する者と雜婚する者は罸金百弗より多からず禁錮三個月より
多からざるの刑に處す又黒人及亞弗利加人種の血脈を現存するものにして純粹の白哲人種
と雜婚するものは同刑に處すとの條款あり此條款に倣ひ我國にても異人種と雜婚するもの
は罸金若干禁錮何箇月の法を設くるを得べきかオハヨ州にては優等の白哲人が劣等人種に
對するの塲なれば右の變則を實行するを得しなれども日本人が歐米文明國人を驅て此變則
中に封ずるを得べきや畢竟小兒の戯と爲る可きのみ又君は國土に戀々するものに非ず土地
の如きは何處にても差支なしと云はれたれば今後數千數萬の日本人が米國に移住したる塲
合ありと假定せんに身は何の土地に在りても日本人は西洋人と雜婚す可らずとて各種の交
際中結婚の交際丈けは巖重に之そ差し止め米國中に生息して若し米國人と雜婚するものあ
れば國民のコ義上之を咎むることを得べきや事實に於て行はれざることならん余は理論に
實際に加藤弘之君の非雜婚論を非として之を辨ずるものなり(畢)