「政府の執務時間改正に就き豫め一言」
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時事新報に掲載された「政府の執務時間改正に就き豫め一言」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政府の執務時間改正に就き豫め一言
代 言 士 〓.S.寄送
我政府舊臘の改革にて冗費を節し冗官を省くの主旨を實行するに就ては各省にても追々執務時間を長くし午前九時出頭午後五時退出の都合に改正する趣なり左れば今後追々には東京各裁判所の執務時間も右の都合に改正することとも爲らんか夫れに就き豫め一言と申すは他に非ず明治十三年に定まりたる規則にて各裁判所の召喚時間に不參すれば勿論、遲刻するも夫れ夫れ罰金を課せらるるの法なれば裁判所より午前九時出頭可致〓〓との召喚状を得れば定刻より出頭せざる可らず斯くて裁判官の御用都合にて十時を過ぎ十一時と爲りても出廷を命ぜず待つに倦んで漸く辨當を遣ひ午後一二時頃に至りて始めて出廷の命あることなきにもあらず〓〓〓〓都合にて他日の召還を待つ可しとの命を得て手持ち無沙汰に一日を空費して退くことなきにも非ず且つ各裁判所の慣例として門に入る時に名刺を出し其名刺に〓〓〓見認印を得て出廷し御用了れば掛り裁判官の見認印〓〓〓〓〓受付に示して出門するの法なり然るに裁判官の繁忙中其見認印を得ること難く訴訟上の用事は既に濟むも門を出づるの機會を得ず空しく時間を費すの塲合もなきにあらず左れば今後若しも各裁判所の執務時間に改正ありて午前九時出頭午後五時退出の都合と爲り然かも從來の慣例を改正せざれば裁判所に召喚さるるものは萬々一の塲合を慮かるに都合によりては午前九時より午後五時まで空しく控所に詰ることなきを〓言すべからず果して然らば從前に比して法廷執務の時間の長くなる程、裁判所に入て時間を費すことも益多く〓〓べく〓〓是金の〓を以て視れば實に不經濟の極と云はざるを得ず横濱の外國領時裁判所にては午前何時に出頭せよとの召喚状を出せば其事件を午前に審〓〓〓し若し又午後の召還なれば午後に事を辨ずるの法に依て人を召還し事を〓理するに午前午後の分界を立てあるが〓に出廷人も空しく時間費用を要するの〓なく至極〓利なる事なれば東京各裁判所に於てもこれ〓〓今後〓〓〓間に改正あらば勿論の事仮令へこれなくとも爰に從來の慣例を廢し午前午後の分界を正くして時間空費の不便を省き門の出入をも簡便にして出廷人の都合を謀らざる可らず盖し此間の便不便は經驗ある人々の熟知する所なれば予は敢て贅辨を費さず今回の改革と共に此邊の弊習をも改正せんと偏に企望する所なり
序に尚一言することあり從來各裁判所には別に食堂と稱するものなく出廷人は終日控所に群集し午飯の時至れば此中にて辨當を遣ふの都合にて其体裁宜しからず今後追々内地雜居にても行はれ歐米人も時に此控所の中に入り來ることありとせんに其傍に幾多の人あり食卓もなく辨當を抱へ牛蒡大根の雜然たるものを見ることもあらば他日日本法廷の模樣を報告するに當り此事實を採て或は歐米人の笑柄に供することなしと云ふ可らず故に今予の願ふ所は控所と食堂丈けは何樣にか之を區別して互に相混ずることなきの一事なり夫れとも裁判に午前午後の區別を立て出廷人をして午餐を控所中に喫するの必要ならかしむるを得ば其便利更に云ふ可らざるものあらん改革孤ならず必ず隣あり今回政府各部の改革と共に此等の細事をも改正して永く公衆の便を謀るには今の機會を失ふ可らずと信ずるなり