「支那政府の外交政略」
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本文
支那政府の外交政略
支那政府が歐米諸國に對するの交際は弱國が強國に對するの關係を有して何時も不利不便
の位地に立ち特には其國外交當路者が外情不案内の咎に依て終始國の威權を枉げられ西洋
諸國の政府よりは毎々愚弄輕侮辱を蒙むりて外の見る目にも氣の毒なる程なりしが一昨年
の佛清戰爭以來は俄に其國の面目を改め取別け外交政略には西洋流の交際手續を辨へ得し
者の如し特に其近來の擧動に至りては大に人を驚すものなきに非ず三日觀ざれば刮目して
待つべしとの言はあれど支那政府近來の外交には頗る以て三日刮目の實あるを覺ゆるなり
例へば本年三月の始め在米國の支那人が米國人の乱暴に出逢ひその財産生命に非常の損害
を受けたりとて支那政府より償金要求の事と米國政府に申入れたるに米國政府は案の如く
これを拒絶し一切その責に任せずと返答したりしに支那政府は之を不當として容易にその
拒絶に應諾せず更に在華盛頓支那公使並に在北京米國公使の手を經由して米國政府と談判
を開き、在華盛頓支那公使は本國政府よりの訓令なりとて米國政府が當時の騒動には少し
も與り知らざることを陳謝する事、騒動の時の被殺支那人に對しての下手人を死刑に處す
る事、米國政府より被害者に償金を拂ふ事等の要求を提出し大統領も已むを得ず教書と國
會に下したるに其教書中又候思はしからぬ處ありとて支那政府は在北京の米國公使に當國
政府は貴國大統領の教書には服從し難し別に相當の面目を立て呉れざれば決して要求を引
去らずと返答し又在米の支那公使も近々歸國の節大統領より最後の挨拶を聞き歸りて之を
本國皇帝に上申する決心なりと云ひて事未だ落着に至らず目下正に紛議中なり今仮りに力
の強弱、國の文不文などいふ考を止め單に純正理論の曲直より判斷を下したらば米國政府
の〓條の非理なること萬明白なるべく隨て支那政府が飽まで米國政府の非理を喝しその無
法を責むるとも決して人の笑ひを蒙むることは無かるべし否獨立の一國政府たるからには
從へ其國は弱なるにもせよ弱國一條の活路たる條理の堡砦に據て強國の暴言に抗するはこ
れを滿世界の耳目に訴へても大に榮譽の事業にしてその光彩燦然たるものと評すべし好し
んば支那政府の懸合往〓〓ずして米國政府遂にその要求を拒むとするも支那〓〓〓その理
非と對比して米國政府を詰りたるだけの大〓〓事の曲直を判すべき事例材料を世界に公け
にしたるの手際とは必ず支那政府の威格を國交際の間に〓せたるに疑ひ無し而してこれが
爲め大に米國政府の〓〓を引起して今後の交際貿易に大妨害を生ずべきやと懸念するに事
實左る痕迹のあるべしとも思はれず以上は一〓支那政府が米國に對するの擧動なれども之
と〓〓〓〓〓〓の耳目を驚したる一報は支那政府が昨年英國と阿片條約を改正して關税一
函三十弗、内地輸入税同八十弗の税金を課することとなしたるに在北京の日耳曼公使はこ
れに不服を唱へ日耳曼人にして清國の各港内に阿片を輸入するには決して此條約に服從す
べき義務なしと申込したる處支那政府云く阿片烟税は獨り英國人の手を經て輸入するもの
に限りこれを施行するに非ず其何國人たるに論なく一般阿片に課税するものゆゑ日耳曼人
も素より此條約の圍内に在りて課税の義務を負はざる可らず左れども日耳曼政府強ひて此
條約の服從を拒むとの決意ならんには我國も其覺悟にて別に法を設け日耳曼船舶が搭載し
來る阿片に限り内地に於て非常の重税を課し即ち禁止税を實行して日耳曼人輸入の阿片を
ば一函も内地に入込ますまじと其旨を伯林政府に通知したるにが同政府も大に驚き英國政
府の如きは傍らより支那政府の談判向の傲慢なるに消魂げ中に立ち仲裁の勞を執りて紛議
の調停を計らんとせしに支那政府は中々承諾の色なく此一儀決して他邦の干渉を被る筋の
ものに非ずと言放ちその落着未だ決せずと聞けり
斯の如く支那政府が日耳曼政府と税權の恢復を爭ひ正々堂々條理を本據として高聲に相詰
責するもこれが爲め大に日耳曼の逆鱗を犯して二國交兵の端となる虞あらんとは信ぜられ
ず米國と云ひ日耳曼と云ひ孰れにも弱國の支那政府がその堡砦たる道理を押張りて容易に
強國の言に從はざりしは其國外交家の技倆近來大に進歩したるの實迹を証するものといふ
も可ならん盖し弱國の強國に對して我權利を保全せんとするには勉めて高聲に我が正理と
彼の非理とを世に吹聴し彼をして心竊かに憚かる所を知らしむるを以て至便の一法と爲せ
ばなり