「日本條約改正の影響」
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本文
日本條約改正の影響
目下日本の條約改正最中、西洋諸國が勉めて公平の見を持し其改正の箇條能く日本人を滿
足せしむること我國の爲めに謀りて素より渇望に堪へずと雖とも今又各國の爲めに謀りて
此條約改正の影響如何を按ずれば其改正の極めて寛大なるを要するの事情あるものゝ如し
抑も西洋諸國の人が千里を遠しとせずして東洋に來り共に交際し共に商賣するは何故なる
や共に仁義を語るが爲めに非ず唯尋常に利を談ぜんとするが爲めのみ利を談ぜんとして東
洋を見渡し共に語を交ふ可きものは何國なるや問はずして支那帝國たるを知る可きなり左
れば支那帝國は西洋人の眼より見て東洋隨一の大富減、其人民に深交し其政府に密結して
富源の餘澤に霑ふと固より肝要なりと雖ども奈何せん人民頑陋にして政府傲慢、西洋人を
視て蠻貊と爲し仁義尚且つ語るに懶し、况んや利をや陰に陽に之を嫌忌するの念あるが故
に西洋人も久しく之れに接近するの機を得ざりしが支那は日本と對岸にして歴史上榮辱相
競ひたるの關係もあれば日本の一擧一動に就ては最も頴敏に注目する折柄、近年此日本國
の進歩異常にして西洋人に交り其文明を納れ電線を架し銕道を起し軍制兵式を西洋風に變
じ軍艦銃砲亦皆な西洋の摸形を採り商賣交際衣服飲食の微に至るまで一に西洋風に從て開
進し名聲世界に籍々たりしかば支那人の頑陋傲慢なるも亦自から安ずる能はず日本の進歩
に刺衝せられて漸く西洋の人を近づけ又漸く其文明の利器を導き電線を架し軍艦を造り砲
臺銃砲の如きも亦西洋式を採り物論囂々異議百端なりし彼の鉄道敷設事件も論漸く和熟し
て追て其工事を西洋人に依托せんとするの模樣あり是に於てか西洋人も漸く支那の官民に
接近するの機會を得、利を談ずるの區域を廣めて富源の餘澤に霑ふこと日にますます深き
に至れり即ち事の成跡より見れば西洋人の着眼は素より支那の富源に在れども單刀直入法
を以て之れに近づくの難きを知り紆余曲折法を以て先づ日本の開進を促し支那が對岸より
觀望して之を羨み之を嫉むの餘漸く其顰に傚はんとするに乘じて始めて其素志を成さんと
せしものに似たり但し其此に出でたるは彼の人々が相互に討議したるにもあらず又一名の
指令者ありて之を差圖したるにも非ず彼れ東洋に對して其利害を同うするが故に恰かも一
個人の方寸に出でたるが如き觀あるなれとも其責は偶然に出でたるの名策なりと云ふ可し
偶然にても故意にても名策は名策なり、西洋國人にして今後若し支那國に接しますます其
富源に近寄らんとせば永く此名策を襲用するの外ある可らず而して今西洋人が差當り此策
を成さんとするには目下日本の條約改正の際に於て成る可き丈け日本の文明を助長し其開
進を促すの工夫專一なるべし條約改正果して公平寛大にして税權は回復され治外法權は撤
去され改正の箇條能く日本人を滿足せしむると同時に日本にては西洋人の内地雜居を許し
内外國人同法律の下に在て政治共に談じ商賣共に營み冠婚葬祭花鳥風月共に楽んで和親密
接共に文明の進路を快奔するときは支那は此隣の形勢として漫に之を傍觀するに忍びず日
本にては鐵道ますます延長す、支那も亦之を敷設せざる可らず日本にては外國人を雜居せ
しめて土地鑛山等の所有を許せり、支那も亦其覺悟なかる可らず云々とて鐵道敷設を始め
文明の噐具を西洋諸國に注文し斯くて交通の便を開きて通商の區域を擴むるときは十八省
中の商利、西洋國人の嚢中に集ることとも爲らん即ち先づ日本の開進を促し之を目前の刺
衝物として支那人羨望の念を挑發し其漸く開進の途に就くに乗じて商賣の區域を廣むるの
手段にして西洋人の爲めに謀り支那帝國の富源に近づくの方法は唯此一策あるのみなり然
るに策此に出でず日本の條約改正の際に於て或は偏僻の見を持し爲めに日本の開進を障碍
する等の拙擧あらば支那人は日本人の進歩恐るゝに足らずと爲し又其西洋人の爲めに法權
税權を蹂躪せらるゝを見てますます西洋人の嫌忌す可きを感じ彼等をして容易に其富源に
接近せしめざるに至らん即ち日本條約改正の影響は東洋の全局面に向て關係最も大なるが
故に西洋國人は自から其利害を顧みて公平寛大勉めて日本の開進を促すことと相戻らざる
の覺悟なかる可らざるなり