「米は損なり一昨日の續」
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時事新報に掲載された「米は損なり一昨日の續」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
〓〓〓〓〓〓又曰く
〓〓〓〓米穀は彼の歐洲に於ても頗る上位を占め價〓〓〓きも印度米に比すれば三割以
上の高價を持し〓〓〓〓益々增加の勢あり又〓國に於ては追々我が〓〓〓〓〓を增すの勢
あるにも拘らず一概に米麥作〓〓〓〓〓定し斷然之を全廢して桑圃茶園と爲し我〓〓〓〓
〓用する米穀を悉く他國に仰がんとするは抑も〓〓た迂〓策なり云々
日本米は印度米に比して三割以上の高價を歐洲市塲に〓〓するとの説は間違ひなり尤も印
度といふは甚だ廣き國の〓〓所によりて上米を産するもあれば下米を産するもあるは無論
の事なりボンベーのバシイン港より輸出する米の中には隨分或る日本米に比して三割位價
の〓〓〓米もあらんかなれども東部のベンゴル地方より輸出する米は中々上等なるものな
り今左に英國ロンドンの相場付を示すべし
明治十七年五月下旬ロンドン米價
印度ベンゴル米 百十二斤に付 十一シルリング三ペンス
日本米 同 九シルリング七ペンス半
緬甸ラングーン米 同 八シルリング一ぺ子
暹羅米 同 七シルリング
右は一昨年の相塲にて聊か古臭き氣味あれ共ゆるゆる詮索の暇なきゆへこれにて間を合せ
たり一昨年の相塲なりとて米價の比較を見るには少しも差支なかればなり〓〓我輩も成る
丈け新らしき相塲を示さんとて近着〓〓〓〓〓新聞紙を披閲したれども近來同地に日本米
〓〓人多きゆえにや他の米價は掲げあれども日本米の〓〓一〓相塲表中に掲載なし依て昨
年の新聞紙を調ら〓〓〓ども生憎又日本米の相塲を見當らざりしゆえ遂に今〓年遠きもの
を用ることゝしたるなり畢竟するに〓〓が此相塲を掲ぐる主意は日本米といへば世界無類
の〓〓にして無類の高價に賣れ行くものと妄信し居る〓を〓しめんが爲めなるのみ歐洲の
市塲にて最も高價〓〓米は米國南カロライナ米にて價は大抵ラングーン米などの二倍以上
なり又物價記者の言に日本の小麥が〓〓に〓くといふことあるがこれは彼の淺草米廩の小
〓〓を〓〓斯德の兵榮に賣込むことを指すものならん〓しながらこの品の輸出は誠に小量
のものにして米國より日本に輸入する小麥粉の三分の一にも及ばぬ位のものなり殊に又此
小麥粉の貿易を〓常自然の貿易の如〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓なり兎に角に淺草米廩の
〓〓〓〓日本全國の麥作論には〓〓縁の遠きものと知る〓〓
〓〓〓〓〓〓〓曰く
〓〓〓〓〓〓〓〓て〓〓〓〓を增すと稱し貧民之を好〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓は玄米
に〓多く白米にす〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓殊に〓〓少なく滋養の量〓〓〓〓〓〓〓〓〓
〓〓比して〓余程多量を食はざ〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓甚だ速かなるもな〓〓〓
〓〓〓〓〓〓〓一〓に付き一弗五六十仙を平均の相塲とすれば若し之を吾邦へ輸入すると
きは之に運賃其他の諸雜費を加へ一石五圓前後に至るべし云々
南京米は滋養が少ないとか腹の減り方が早いとかいふは我輩が常に裏店の井戸端會議に聞
く處にして斯る議論の堂々たる物價新報紙上に現はれ出でんとは我輩の未だ豫期せざりし
所にして唯愕然たるの外なきなり如何にも物價記者の云ふ如く米の良否により滋養分の多
少あるべきは無論なりといへども其多少を人間の口腹にて判定し得んとは思ひも寄らざる
ことなり何となれば上米と下米と滋養分の相違は千分中幾分の多少を爭ふ位のものにして
其相違誠に微細なればなり本年三月五日の官報に衛生局橫濱試驗所に於て四等技師辻岡精
輔、一等技手齋藤猛寛の兩氏が試驗したる飯米試驗の報告書を掲載しあり上米下米の試驗
成蹟左の如し
上米伊勢關取米 下米奥州本石米
白米 炊米 白米 炊米
脂肪 〇、六七 〇、一〇 〇、六四 〇、〇九
澱粉 八三、〇〇 八〇、〇二 八四、二七 八〇、七七
糖分 二、五七 七、三〇 二、三〇 六、七〇
窒素 一、四三 一、二八 一、〇二 一、一〇
本邦人の食料は古來米飯を主として之に少許の肉類魚類等を副へるを習慣とすれども右
の成蹟表に見ゆるが如くなれば米飯を以て充分に身體の發育を掌らしむべき善良の滋養品
なりと認むることを得ざるは一目瞭然たり是米の主成分は澱粉にして蛋白質、糖分、脂肪
等に乏しきを以てなり故に食物の改良を爲さんとするには從來の食料をして主客の地を易
へ專ら肉類等を主とし米、麥、蕃薯、野菜を以て副食物とするの風習となさしむるを必要
とするなり
此試験は日本米中の上米と下米とを分析比較したるものにて日本米と南京米との比較には
あらざれども我輩はこれを推して大体を知るに十分なりと信ずるなり南京米は腹に溜らぬ
などとは唯下等人民の迷ひのみ又物價記者は南京米の價が一石五圓前後に當るとて甚だ心
痛の樣子なれども我輩は毫も恐るゝに足らざることゝ思ふなり今の日本田地一反歩を耕し
て一石五斗の米を落手するよりも此一反歩に桑を植え蠶を飼ひ廿圓の金を儲け此金にて南
京米を買入るれば五圓相塲にて四石の米あり七圓相塲にて三石ばかりあり少しも米代の心
配に及ばざるなり况んや追ひ追ひ貿易の組織進歩すれば輸入米價を低廉にするの工風もあ
るべきに於てをや又况んや横濱試験所技師諸氏の論ぜらるゝ如く自今日本人の食物には大
に肉類を用ひ米は唯副食物として存するに止まらしむるときは大に米を輸入するの要もな
かるべきに於てをや物價記者も日本國民と共に安心して南京米を食ふて可なり (未完)