「整理公債」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「整理公債」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

整理公債

我政府は一昨十六日に特に官報號外を發し勅令第六十六號を以て整理公債條例なるものを公布したり其全文は本日の時事新報に登録〓になれば熟讀せらるべし實に此公債發行は日本全國理財上の一大事件にして殊に商業家の最も細心に注目すべき事柄なりとす〓條例文中になる如く此公債は年利五分にして發行總額は一億七千五百萬圓なり名稱は整理公債と唱え其所用は當時現存する内國公債中に就き年利六分以上にあるものを悉皆償還する爲めのものなり則ち發行總額一億七千五百萬圓は金〓公債六分以上利付、〓業公債六分以上利付、金札公債六分利付、中仙道鐡道公債七分利付等の諸公債の目下尚お償還を了らざるものゝ合計金額なるべし此公債の發行法は矢張り是迄の例の如く公債應募金額にして募集需要高に超過する時は應募價格の高きものより順次に證書を交付する法にして即ち俗に所謂競賣法なり但し本條例第三十條に「從前發行の六分以上利付の公債證書を所有するものは元金償還の時本人の〓求に由り大藏省の都合に以て整理公債證書を交付することあるべし」とありて從前發行の高利公債證書と新整理公債證書と額面百圓は百圓にて其儘取り代え渡すべき道も存しあるが如しといえどもこれを實行するは全く大藏省の都合に由るものにして舊證書持主が〓求さえすれば大藏省は〓度新證書と交換すべしと申すにはあらざるなり而して目下日本市塲の實況を察するに第三十條に掲ぐる舊新兩公債證書を打歩なしに引換うる事は到底實際見るべからざる事柄ならんと思わる何となれば五分利付の公債證書の當時の相塲は三ヶ月以前海軍公債證書を賣出したる時の例にて明白なる如く額面百圓は實價百三四圓乃至百十圓にても尚お且つ供給少なくして需要の多きに困却する程の景氣なればなり如何に大藏省なればとて現在百四五圓にて賣れる新公債證書を與えて只の百圓にて取戻し得べ〓舊公債證書を落手するが如き無勘定の事を働くべき謂われなければなり大藏省が果して從來の競賣法を以て今回の新公債一億七千五百萬圓を賣出し漸く年利六分以上の舊公債を償還し了りたる時に至れば其國庫に利する所實に容易なれざるものならん仮りに我輩の臆測を以て概算すれば整理公債證書一億七千五百萬圓を額面百圓に付百三圓にて賣るとして此賣得益五百廿五萬圓又從來高利の公債中にて最も多額を占むるものは七分利付金〓公債同利付中仙道鉄道公債二種合計一億二千萬圓なるがゆえに新舊兩公債の利子の相違は凡そ年二分〓に相當するならん一億七千萬圓の高に年々二分の利子を減〓とすれば其初年一箇年間に國庫の費用を省くこと三百五十萬圓以後も年々それに準じて費用の減少すること實に莫大のものならん證書發行の時先ず一發に五百萬圓を利し〓後數年の間毎年三百萬圓内外の支出を減ず實に今回の擧は日本政府を利すること非常のものなりというヴぇきなり

顧みて民間公債所有者の顔色を見れば喫驚落〓〓然として途方に暮れたるの有樣は實に氣の毒という〓〓〓〓おろかなり前日迄は年利六分乃至七分の公債證書を百十圓内外の價ある財産なりと心得て大切に金箱に藏に置たる者も今日は忽ち百圓に下落して一夜の内に身代の一割を〓取られたるが如に想いあり左ればとて此公債なるものは政府の都合に由りて何時にても額面の金高にて償還すべしとの始めよりの約束なるがゆえに今回奇麗に元利を拂いて其證書を取り戻されたりとて一言の不の字をいうこと能わず止むを得ず其拂い戻されたる百圓の金に更に三圓を足し前して又々五分利付の證書を買入るゝより他に名案なきことならん則ち今の不景氣の續く限りは何時までも五分利付整理公債證書が景氣よく賣れざらんと欲するも得べからざるなり〓來日本守舊財産家の癖として公債證書を〓ること萬代不易し實貨の如くし唯公債をさへ所持すれば身代永く〓殖して欠損の憂なしと心得たる者も今回の例を以て公債證書というといえども矢張り人間の製造品にして何時何樣の變化〓沈あるやも知るべからず決して油斷はなり〓しとて以來大に安心の置き所を轉ず其影響は漸く公債證書の賣買相場面に現わるゝことならん何に致せ今回の整理公債證書發行は全國理財上の一大事件なりと申すべきなり