「支那の交際亦難い哉」
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時事新報に掲載された「支那の交際亦難い哉」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
支那の交際亦難い哉
支那帝國は版圖大にして人口も多く地味は概して豊〓にして人民も既に富み其地利を見れば二方に海を廻らして二大河は深く内地に入り其渡航の自在なること河にはあらで寧ろ海灣の長きものと云うべき程にして貨物の出入集散その便利なること世界無比の貿易國と云うも可なり斯る富大國にして其國勢の振わざるは唯兵備を〓くが故なり支那の版圖人口に加えるに其人民の富實と其地理の便利とを以てして更に之に教るに強兵の法を以てせば世界中如何なる強國とても之に敵する者はなかるべし然るに英佛の人は其事勢を知らずして漫に支那に向て兵端を開き戰て勝つに一時の愉快ならんなれども毎一戰その勝敗の如何に拘らず彼をして兵備の要を悟らしむるは西洋人の利益に非ず支那國人を擧げて洋砲洋艦の利を知り自から之を利用するに至らば〓も西洋諸國の制御に甘んずる者にあらずして却て西洋人の不利を爲す可し故に今の時に當て支那と戰うは正しく之に兵法を教授するものにして既に教を授けたる上は遂に其教師たる西洋諸國の禍源たる可し云々とは今を去ること二十餘年前英佛の兵が北京に攻め入りたるとの或識者の言なりき其立言の意味少しく陰險に似たれども能く事勢を洞察したる卓論にして之を爾來の事實に照らすに中るものあるが如し支那に於て西洋流の兵備に着手したるは實に二十年來のことにして李鴻章氏らの他の開化者流が北京天津の失敗に懲りて漸く西洋の兵制を自國に採用せんとして之を試る其最中に不幸の幸とも云う可きは一昨年來東京の一條より佛蘭日と取合を始め勝敗半にして局を結び一時は支那の方にも容易ならざる損害を被りたれども被害と共に恰も兵制改革の教授を被りて爾來支那軍備の進歩は著しきものにして〓に軍備のみならず鐡道電信等文明の利器は兵器と共に國内に入る道を開き其勢〓々として止むことなき状を見る可し盖し世界中何の國にても其開明に遲々するものは國を擧て開明の利を知らざるに非ず其中には必ず具眼の人物ありて國利民福のために之を熱望すと雖も常に凡俗の俗論に妨ぎられて意の如くならざるのみ然るに此凡俗の〓を破却して一時に其方向を新にし以て開明の域に入らしむる手段は唯戰爭の一策に在りと雖ども内亂は國内の人心を分離せしむる掛念あるが故に果して此策に依頼するときは外戰の安全なるに若くものなし外國と戰て勝てば固より妙なれ其仮令へ敗しても其敗北の損害は一時に限りて随て生ずる開明の結果は百年の利益なればなり左れば從來支那帝國にて開明の魁たる李鴻章氏の如きは必ず此邊の利害に眼を着け其〓政を改革し其國民の方向を新にせんとして意の如くならざるもの今日尚お十中の七八なる可きは問わずして明白なることなれば氏をして中人以上の人物ならしめなば外戰を利用する策は既に其方寸の中に成らざるを得ず如何となれば此策決して奇策に非ず政治家の常に用る所にして然かも支那に於ては偶然にも一昨年來佛蘭西との戰爭に於て其効験の著しきものを見たればなり〓李氏の方寸に外戰と決定して其敵を撰ぶに何〓の國が最も適宜なる可きやと尋るに〓〓〓の戰爭〓敵國を惡むがために非ずして自國内〓の〓合の爲めに戰うものなれば強大國に敵するよりも〓ごろなる小弱國と戰う利なるは固より〓を〓〓〓〓の近隣には〓國あり朝鮮あり又日本あり〓〓〓のみならず西洋各國人の往來も甚だ〓くして〓れを〓とするも其口實をさえ設れば敵たらざるものなし大敵にても望次第なる可しと雖ども斯く敵を求めて戰を開き支那内治の都合は誠に好き都合なる可きも之に接する國々には迷惑千萬なる次第なれば我輩は先づ我日本國の其撰に免れんことを祈るものなり或は仮令へ支那人が直に戰爭を挑むことにも其内情に於て戰爭は苦しからずと決定したる上は平日平和の交際に於ても常に此意味を内に含み、〓く談じて濟む可き處も故らに角を立て、美人の如くに可〓塲合も夜叉の如くに装い以て他を困却せしむることもある可し日本は支那に對して國も隣し交際も繁多なり固より平和至極の交際にして今後我國人は専ら其通商に熱心たる者な〓ども彼れは常に政治上の意味を含む仮令へ公に戰を挑まざるにもせよ戰爭苦しからず杯の内情を以て傲然たるに於ては日本には自から日本の國權ありて際限なく其傲慢を差置く可きにあらざれば其内情の如何に〓わらず我が行う可き事をば斷行くして我が立つ可き處には獨立せざる可らず支那の交際も亦難しと云う可し但し支那の開進者流が最後の一策外戰を以て内治を改革せんとする工風は〓して實際に行わる可きや外戰の機會を作ることは甚だ易しと雖ども其戰爭の餘勢を以て果して滿〓朝廷の根底より改革して其宮中府中を併せて文明の宮内開化の政府たらしむるを得べきや事の成跡反對に來れば外戰却て内亂を導く媒介たる奇觀なきを期す可らず我輩は聊か此邊に疑を存し置くものなり