「共同相塲會所設立の噂あり」

last updated: 2019-09-08

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時事新報に掲載された「共同相塲會所設立の噂あり」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

近來東京市中の談を聞くに東京株式取引所と米商會所とは兩所共に正に危急存亡の秋なりと云う其次第は今度東京に共同相塲所なるものを設けて米麥其外の穀物、油、綿、〓、肥料等の賣買を始として諸公債證書諸株式の取引をも同所にて取扱ひ云はば從前の米商會所と株式取引所とを兼帶にして更に手廣き仕掛なるが故にいよいよ此相塲會所が設立と定まる上は從前のものは固より廢滅に歸す可きこと論を俟たず其邊に利害の〓ある商人〓會に於て百説の〓しきも謂れなきに非ざるなり扨今度の共同相塲會所創立の方法如何を尋るに尚ほ未だ確定はせざれども大凡の目論見に先づ會所附属の中買三四百名を撰定して一名より金一千圓を出さしめ〓高三四十萬圓となる其金を以て市中便利の地に洪大なる會所を建築し三百の中買は其周圍に住居する者とす、又仲買より身元金として各一萬圓づゝの出金を命じて其高三四百萬圓これを會所に預る(此身元金は或は公債證書又は信用厚き銀行の株券等にても相濟むことならんと云う)斯の如くして建築も成り仲買の人數も定まり其身元の保證も確なる上は會所にて取引の法は〓々誠實を旨として一萬圓も身元金を出したる仲買人が責任を負擔するが故に會所も餘程鄭重なるものになりて自然に取引も盛大を致し又〓て會所の利uも多かる可ければ其利uの中より役員の給料諸雜費を拂ひ殘りの純uを仲買に配當するの法なる可しと云ふ左れば今度の共同相塲會所には從前の株式取引所又は米商會所の如く所の株式なるものはなくして仲買の名義即ち株式の姿にして其人員三百人を限れば三百株、四百人なれば四百株にして其元價は一千圓なりと知る可し(別に身元金一萬圓を出したれども是れは純然たる預け金なるが故に仲買株の代價とは云ふ可らず)

扨共同相塲の新會所が今將さに起らんとして從前の株式取引所に米商會所の處分は如何す可きや商賣〓會の耳目の〓る所なり株式取引所の資本金は二十萬圓これを二千株に分ち一株の〓價百圓にして今日の賣買は四五百圓の間に在り米商會所の資本金は十萬圓にして〓〓も其一株の原價は百圓なれども賣買の價は三四百圓の間を上下せり今法律上に考れば右兩所其營業に五箇年の期限あるが故に其期限に至り〓府の命を以て約束の通りに之を解散せしむるときは株主等は唯その株式の時價百圓ばかりの金を落手するのみにして向後の利uは第二に起りたる新會所の仲買に歸し舊株主等は非常の損害を被ることならん方今株式取引所には七八萬圓の積金ありて米商會所には殆んど是なしとのことなれば細に其元金のみを勘定すれば取引所の株は百三四十圓米商會所の株は丁度百圓にて相當なる可きに兩株共に非常の高價を現はして其賣買の盛なるは何ぞや兩所の營業繁昌して毎期配當の利u非常なればなり然るに今法律の約束が五年限りなりとて頓に其營業を差留るときは株主等は一株に付き大數三百圓の損亡にして兩所の三千株を合すれば九十萬圓を失ふものなり本人一個の利害は兎も角も商賣〓會の平地に大波〓を起して一時の經濟を〓るものと云はざるを得ず然りと雖ども又一方より説を作り本來株式取引所も米商會所も其株の生價は百圓なり其百圓なるを知りながら〓〓の如き配當の利uを利して高價に賣買するは即ち投機なり、機に投じて利する者は機を失ふて〓るゝも亦この數なり今度若し兩所が廢滅して其株主等が〓を被ることあるも投機者の本分なれば會釋するに及ばずと云ふ者あり至極簡單なる説なれども未だ以て人を服せしむるに足らずと申す其次第は兩所の株主等が投機者の心を以て株を所有したりとの立言は其儘に之を許して扨その投機者が何に由て今度の〓を披るやと尋れば第二の投機者に〓せらるゝ者と云はざるを得ず彼の共同相塲會所を設立するに付き新に幾百名の仲買を撰定し例へば其出金高千圓之に付属するに見元金の一萬圓を以てして仲買の資格即ち仲買株の体を成すときは陰に陽に其仲買株の賣買なきを得ず而して其株の相塲は如何と云ふに營業の利uを配當すること少なかれば下落し、多ければ騰貴し、其〓低は今の両所の株式に異なることある可らず新設會所の繁昌、今の株式取引所又は米商會所の如くならんには仲買株の原價千圓なる者が三千圓又五千圓以上に上ることもある可し此點より〓れば今の兩所の株券百圓にして三千株なるものが今度は一株千圓にして三百株の數に改まりたるまでの變化に過ぎず誠に奇變に非ざるなり盖し今回の新設に熱心する人々は公然錢の事を云はずして從前相塲所の悪風を一洗せんとの冀望ならんなれども其冀望は一にして足らず一〓の千圓が幾千圓に〓長す可しとの冀望も浮世人〓に於て自から其中に隠伏せざるを得ず即ち是れ投機の事ならずや左れば米商會所にせよ株式取引所にせよ相塲所の事は都て投機なるが故に一切これを廢して跡なからしむと云へば〓ち可なり自から無算君子の言にして愚弄亦雅味ありと雖ども前の投機に易るに後の投機を以てしながら前の投機は投機なるが故に之を廢するに會釋なしと言ふが如きは立言の体を成さざる者なり但し我輩は從前の株式取引所米商會所の組織習慣を美なりとして之に〓〓する者にあらば其改良は常に望む所にして毎度論及したることもあるなどなせば新所を設〓〓更に端を改るとも〓所を改革して宿〓を除き去るとも都て其局に當る〓〓一任して傍より喙を容るゝを好まざれども〓に從前の株主等を〓しめて商賣〓會に大事變を起すが如きは經世の爲めに取らざる所なり方今世上に〓〓〓〓して共に一〓なるの説もあり或〓舊〓亡ぼして之に代はるの論もあるよし表面の公論は一通り聽聞し了り〓〓〓〓は兎角利uの一絛なれば臭い者に蠅の俚言に違はず〓らざる所に大蠅のあるやも知る可らずよくよく注意す可き事なり