「外國人は資本を日本内地に投ず可し」
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本文
外國人は資本を日本内地に投ず可し
金あるものは志なく文明の事業は目前に堆積するも進んで之れに着手するの勇氣なく五六
朱利附の公債證書を懷にして只管無爲を貴ぶは今の日本の資本家の有樣にして今後鉄道敷
設を始めとして文明の事業を發起するに此等の人々を相手にせんとせば迚も至急の間に合
はざるが故に止むことなくんば外國人と其資本とを導き入れて内地の事業を起さしむ可し
とは我輩が日本國の爲めに謀りて既に發論せし所なるが今又外國人の爲めに謀るも今より
其資本を内地の業に投ずるは甚だ得策なる可しと信ずるなり世人の〓(行人偏に扁)く知
る如く條約改正は目下其會議中なれども大体の評議は畧ぼ纏まり治外法權を撤去すると同
時に外國人の内地雜居を許可するの運びに至るは餘り遠きに非ざる可しと云ふ斯くていよ
いよ内地雜居の日に至らば從來日本に居留したる外國人は申す迄もなく雜居許可の報を聞
き日本内地に一仕事を試みんとわざわざ渡來する人々も共に内地に長驅して殖産興業の事
に從事志第一着に先鞭を着けて寶庫の鍵を專用せんとするや疑を容れず左れば今外國人の
爲めに謀れば不日雜居の許可あるを見込んで今より其資本を内地に注ぎ内地の實業家と力
を協せて確實有益なる事業に着手し以て他日經營の地歩を占め置くと最も肝要の事ならん
而して其資本を投ずるの事業如何と云へば山に水に將た平地に到る處に資本家の來て着手
するを待たざるものなし特に彼の鉄道敷設は日本全國の隅々に至るまでも頻りに其急要を
感じて土地の有志家は囂々喋々、百方盡力して之を敷設するの計畫を爲志居るが如くなれ
ども滔々たる天下有錢の人は無志にして纒まらざるものは金策なりけり、左ればにや世上
鉄道敷設の急を感ずるもの多しと雖ども今日の實際に於て之を敷設するものは概ね政府の
みにして人民の手に成るものは甚だ稀なるものゝ如し此時に當り資本ある外國人の目を以
て内地の鉄道事業を一覽したらば之を敷設して利あるもの甚だ多きことならん、利を見て
なさゞるは勇なきものなり、外國人は内地の企業家と相談して或は其資本の幾割を助くる
か或は外國の鐵道技師を雇ひ來りて自から其工事を管理するか其邊の協議を〓へて政府の
許可を得る以上は何も遠慮することなく颯々と其資本を投ずべきなり斯く云へば人或は之
を難じて内地雜居の後は兎も角も今日の處にては外國人が日本内地の不動産を所有し又之
を抵當に取る能はざるの制なれば或は内地人の奸策に掛りて鐵道敷設の中ごろに何か一塲
の紛耘を生じ左ればとて其鐵道を引上げるの手段もなく空しく大損を起す可し抔の掛念も
ありて容易に其資本を投ぜざる可し云々と云ふ者あらんかなれとも此邊は何も心配に及ば
ざるなり外國人が内地の不動産を所有するの權なければ當初鐵道敷設の組合を立つるに臨
んで内地人と相談の上、萬一事業半途にして間違ひあれば其鐵道のレール機關車等を賣却
することを得云々の權利を約束し置く可し或は此點に關して確實の保護あるやう外國人よ
り特別に日本政府に嘆願して特別の沙汰を仰ぐも可ならん斯くて鐵道敷設に着手し居る其
中には條約改正も其緒に就きて世は内地雜居の春に逢ひ外國人は青天白日日本内地を横行
して自から其鉄道を管理することを得べきなり盖し日本内地にて外國人が資本を投ずべき
事業は獨り鉄道敷設のみに非ず日本は勞役の價廉にして気候は熱からず寒からず海岸處々
に石炭山もあり又到る處に細溪小流ありて水力を利用すること誠に自由自在なれば或は濠
洲邊の羊毛を輸入して毛布製造所を設立するなどには最も適當の塲所ならん之を要するに
日本内地には遺利富源到る處に之れなきはなし外國人にして若し先づ其最も利益あるもの
を取らんとせば須く其先鞭を着けざるべからず之を喩へば猶ほ競馬の如し衆騎相駢んで合
圖を待ち號令一發して疾驅すれば第一着に達したるものが最も優等なる褒賞を得べし内地
雜居許可の合圖は即ち競馬の始にして内地の遺利を得ると否とは衆外國人着手の遲速如何
に在るなり外國の資本家にして苟も斯かる競馬の列に入らんとするものは號令の未だ發せ
ざる前より腰を据え身構を爲し或は竊かに一二歩駈け拔け居りて先登第一の功を博するの
覺悟專一なりと信ずるなり