「移住論前號の續」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「移住論前號の續」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

米國人民にして男子廿一に達したる者はホームステツド、プレインプシヨン及びヲンパー

カルチャーに由り數年の内に廣大なる土地を領すべし殊にホームステツドを以て人民に與

ふるは折角生活の道を立てしめんとの意に出でたる者なれば新持主に舊價の未だ辨償せざ

る者あるも其土地を以て借金の低當に埋むる能はずミニアムランドは百六十ヱークル、ダ

ブルミニアムランドなれば八十ヱークル以下の耕地を相し我ホームステツドと定めて地方

土地局に屆け置き開發耕耘五年の間に収穫ある者となしたる上にて更に其旨を地方土地局

に告ぐれば地方土地局は之を中央土地局に通報して地券證を授與し是にて全く持主私有の

土地となり其代價を政府に納むることなく唯手數料を拂ふのみ其手數料の割合を擧ぐれば

太西洋部即ちミシガン、ウイスコンシイン、ミソリー、ミ子ソーダ、カンサス、ネブラス

カ、ダコタ、アラバマ、ミスシツピー、ルイシアナ、アルカンサス及びフロリダの州郡に

てダブルミニアムランド八十ヱークルに付九弗四十ヱークルに付七弗ミニアムプライスド

ランド百六十ヱークルに付十四弗八十ヱークルに付七弗四十ヱークルに付六弗太平洋部即

ちカリホルニヤ、子バダ、オレゴン、コロラド、ニユーメキシコ、ワシントン、アリゾナ、

アイダホ、ウタ、ワイヲミン及びモンテナの州郡にてはダブルミニアムランド八十ヱーク

ルに付十一弗四十ヱークルに付八弗ミニアムプライスドランド百六十ヱークルに付十六弗

八十ヱークルに付八弗四十ヱークルに付六弗五十錢なり之は其始ホームステッドをなす時

に上納するものにして五個年を經過したる後再び出す手數料は太西洋部にてダブルミニア

ムランド八十ヱークルに付四弗四十ヱークルに付二弗ミニアムプライスドランド百六十ヱ

ークルに付四弗八十ヱークルに付二弗四十ヱークルに付一弗の手數料を納め又太平洋部に

てはダブルミニアムランド八十ヱークルに付六弗四十ヱークルに付三弗ミニアムプライス

ドランド百六十ヱークルに付六弗八十ヱークルに付三弗四十ヱークルに付一弗五十錢なり

壤地餘り有て代價一文を要せず手數料さへ些細なること此の如し富源の饒かなる推して知

るべし

プレインプシヨンにても一人の所有すべき耕地の制限ありてミニアムプライスドランド、

ダブルミニアムランド共に百六十ヱークルより過ぐるを得ず其プレインプシヨンを爲すも

のオツペールランドの方を撰べば三十日以内に地方土地局に告げ其土地に住居し其土地に

耕作すること一年間、地方土地局之を信認すれば中央土地局に通じて地券證を與ふ、與へ

られたる地主は同時に其代價を納むるの例なり若し又アンオツペールランドなれば則ち土

地局へ三箇月以内に屆け出で住居耕作も三十箇月間をようするが故に通計二年と九箇月に

して全く所有の權を有すべし但し其手續に於ては前後相異なることなし

プレインプシヨンに由て得たる土地の價は必ずしも正金を以て納むるを須ゐず諸種の手形

を以て正金に代用することあり其手形の重要なるものを云えば一にミリタリーバウンチー

ランドウヲランド二にシユープリームコールトスクリツプ三にインデム〓チーランドスク

リツプ四にレボリユーシヨナリーバウンチーランドスクリツプ〓〓り此外坊間に賣買通用

するもの一にして足らず試みにミリタリーバウンチーランドウチランドを見るに四十ヱー

クルのものあり六十ヱークルのものあり八十ヱークルのものあり百臺にて百廿五ヱークル

と百六十ヱークルの二種を合せ總て五種なり其時價の變動、高低定りなしと雖ども大概一

ヱークル一弗より一弗二十錢の間を以て通例とす此手形を以て代價を納めんとするものは

一ヱークル一弗二十五錢の割合を以て手形を地方土地局に拂ひ込み別に手數料少し許りを

出すのみなり

チンバーカルチャーは林地を買ふて森林を仕立つるものにして亦一人百六十ヱークルを以

て限りとす此制に由てチンバーカルチャーを爲さんとせば之を地方土地局に告ぐべし其後

八箇年にして樹木培養の成跡擧がれば即ち地券證を受けて別に土地の代を納むるに及ばず

唯八十ヱークル以上は十八弗、以下なれば十三弗の手數料を出すに過ぎず荒地は僅に水利

を通ずれば直ちに沃饒の田地に變ずべし假令田地たらざるも牧畜に適するもの少なからず

其地價は一ヱークル二十五錢の割なり此外石地とも云はず鑛地とも云はず何れも些少の代

價を以て莫大の地所を領し其方角と種類は固より本人の撰ぶ所とす

抑も外國人の身を以て新世界三百五十万千四百四方英里内に土地を求めて起居營生の計を

爲さんと欲せば米國の人民となりて米國に住居するの外に上策は稀なる可し既に歸化して

共和政治の正朔を奉ずれば其土地を購買して之を所有するの權あること毫も在來の土民と

異なるなくホームステツド、プレインプシヨン、チンバーカルチャーに由りて些細の資金

あれば四百八十ヱークル以内の土地は所有すべきものにして假りに此土地をミニアムプラ

イスドランド及び林地として代價と手數料を概算すること左の如し

大平洋部        代價手數料

ホームステッド        二十二弗

プレインプシヨン        二百弗

チンバーカルチャー       十八弗

合計  二百四十弗

夫れ斯の如く四百八十ヱークルの土地を所有し之を開發耕作して収穫を見るに至れば地價

大に騰り高きは十萬弗低きも一萬弗に下らず其資本を問へば僅か二百四十弗にして一ヱー

クル五十錢なり若し此二百四十弗の出所に困ると云はゞ亦方便なきにあらずプレインプシ

ヨンなりホームステッドなり將たチンバーカルチャーなり皆之を兼併せざるも三者其一を

撰ぶべし其一とても地所狹小なりと云ふ可らずホームステッドにして尚ほ七十六町八反あ

りて地價は只の二圓なり無代價同樣なれば土地も定めて鹵莽なるべしと訝かるものあるな

らんなれども前章にも述べたるが如く土地は上の上にして鍬鋤一たび入れば種勃然として

生え苗油然として秀づ耕作費の少なくして収穫の多きも亦驚くに足るものあらん好しや

かゝる利益なしとするも人口と土地とを比較し風土と人情とを參考し今の日本人民の行末

を慮れば一日も早く合衆國に渡て移住歸化すべきなり何を苦んて此猫額大の天地に戀々た

るや衣奔食走トドの詰まりは餓て死するのみ、如何に推量しても其得策たるを見出す能は

ざるなり (畢)

昨日掲載せし社説の初段は〓記者の粗漏にて計算の誤謬尠なからず依て本欄内に於て左

の如く正誤す讀者幸に諒せられよ

合衆國は新世界に比類なき大國にして其面積實に三百五十万千四百四方英里なり之を十

四万八千四百五十六方英里(前號には誤つて六万千百三十三方英里とせり)の日本國に比

すれば凡そ二十三倍(前號には五十七倍とせり)にして尚大なりと雖ども其人口の稀疎な

ること亦奇なりと云ふべし千八百八十年の調査に由れば僅に五千四十九万七千五十七人同

年調査の日本人口三千五百九十二万九千六十人より多きこと千四百五十六万七千九百九十

七人なるのみ今其土地と人口とを割合すれば日本は一方英里に付二百四十二人(前號には

誤つて五百八十七人とせり)なるに米國は只の十四人にして日本より少きこと二百二十八

人(前號には五百七十三人とせり)なり米國をして日本ほどの土地人口の比例に至ら市む

るには現在の人口を別にして尚九億八百卅二万百十二人(前號には二十億六百三十万四千

四百九十二人とせり)を要すべしされば日本全國一人も殘らず米國に移住するも猶八九億

(前號には誤つて二十億内外とせり)の人口は不足なるべし(中略)米國人口の繁殖速き

ことは世界獨歩とするも今の人口に十倍するは百年の後なれば六年間の增加は二三割(前

號には誤つて半倍強とせり)に過ぎず即ち十四人に付三四人位(前號には誤つて八人位と

せり)にして一方英里の人口は現在にても十七八人なるべしされば日本の人口は千八百八

十年の儘とするも猶以て十二と一との比例(前號には誤つて二十四と一の比例とせり)と

又二段目三十二行の一弗五十錢は一弗二十五錢の誤同末より二行の四反十八歩は四反八

畝の誤