「英國東洋の航路」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「英國東洋の航路」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

英國東洋の航路

今日英國の東洋に於ける〓商貿易の繁榮實に此上なくして東亞列國の商權は悉く英國商人の手裡に在りと稱するも不可なき有様なり何故に英國が斯くまで東洋の商權を握るに至りたるやと其原因を尋ぬるに抑も英國の東洋貿易に着手したるは殆んど百年以前の昔にして今を距ること凡そ五十年有名なる支那の林則徐が廣東に於て亞片數千函を焼拂いたる時の如きは英國人が〓に専ら東洋貿易に其手を弘めたる際にして此より先き印度の經略も悉く成を告げ英人は恰も閑暇無聊の有樣にして何がな東洋に機會あれがしと祈る折柄右の騒動の起きたるこそ幸なれ乃ち大擧して支那を攻めたる後両國の〓和は〓々貿易の隆盛を促して英國の東洋政略も此時より大に其面目を改めたるものと知られたり尋で我日本も嘉永開國の一擧と與に兩國〓商の道を開きたれば英國の東洋に於ける商賣の利益も一層其歩を〓めたるに相〓なけれども當時に在りては汽船交〓の便も未だ充分ならずして殊に英國が東洋に徃來する航路は阿弗利加の海岸に沿いて喜望峯を〓廻する不便非當なりしが故に〓て東洋の貿易も〓〓意外の進歩を爲す能わずして唯徐々と盛〓に赴く有樣なりしに千八百六十九年蘇西一百英里の〓河始て開〓したりしより歐亞間の交〓全く趣を一變して特に其利益に浴したる者は英國なりと云わざるも可からず〓河未だ〓ぜずして喜望峯を〓廻する際に在りては本國より印度カルカッタに〓するまでの距離凡そ一萬一千一百海里なりしに〓河開〓以來は頓に三千五百の里程を縮めて其距離七千六百海里に減じたるは前後相比して著しき相〓なれば從前の航路の熱帯地方を經由して人と貨物と其炎熱に惱む不便利は論ぜざるも唯單に距離の一點に於て英國の東洋貿易は此時限より俄に長足の〓歩を爲したるに相〓なきなり即ち今日に於て英國の東亞諸國に商權を握りたる由〓も其〓因より論じたらば全印度貿易の東〓したる者に疑いなかる可しと雖も大其繁昌を促して今日に至らしめたる〓因中には〓の開〓これに與りて其功の多きに居ること實際に於て爭う可からず要するに航路三千五百里の厳縮は歐亞〓商の趣をして俄然其面目を一新せしめたる効尋常に非ざるは我輩の信じて疑わざる所なり

右の如く蘇西〓河は英國東洋の貿易に極めて大切なる者なりと雖も是れは唯平時〓商の行わるゝ間の事にして若しも一朝歐洲に變動起らば蘇西の〓路も之が爲めに〓られて英國の東洋貿易は立處に其害を蒙むるを免れざる可し此點は英國人の最も憂慮する所にして東洋の商利を全うせんとするが爲めには自ら〓河航行の權を有して平時戰時與に歐亞の聯絡を絶たしめざる策必要なるが故に其始め佛人と共同して〓河の計畫を爲せし際には英國は頻に〓河航行の自由を主張し後ち佛國が〓及の共同管理權を放棄するに至りて英國は尋ら承けて其經營を怠らず〓て〓河會社も今は殆んど英國一己の所有に歸して一百里の〓河は恰も其私有たるの趣あれども列國も亦容易に英國の主權を許さずして特に佛國の如きは百事熱心に英國の〓及政策を妨げんとする形〓なれば謂ゆる蘇西〓河航行の自由なる者も今日に於ては未だ英國の目的を〓する能わざるに似たり抑も平時に在りては各國の船舶これを徃來すること素より其〓意なりと雖も戰時に當りては一切船艦の〓航を禁ずべきや但しは或る程度内に〓航の自由を許すべきやの疑問は昨今列國の間に於て未だ落着の決せざる問題にして英國は〓行を許すべしと主張し佛國其他は之に反對し〓河中立の會議も空しく時月を費して解散したるは實は列國が英國の〓河の航權を妨害せんとする〓神に出でたること明白なる可し斯る〓實なれば〓河中立の議も英國の所望〓りに行われざるは豫め視易き條理なれども縦令え萬一英國の所望の如く條約の面に於ては〓河中立の約束整いたりとするも歐洲戰爭の破裂すべき曉に地中海岸の一強國が突然其艦隊に令して〓河を衝かしめたらば之を奪うも容易にして英國東洋の〓路は同時に斷絶するを免る可からず今の〓及は英國保護の下に立つ者にして恰も其属庸に殊ならずと云うと雖も地中海の彼岸には列國互に併峙して就中佛國の海軍も侮る可からざる者なれば平時の議論は兎も角も戰時腕力の爭に英國の艦隊が〓河を扼守して其航行を全うせんとする考は第一、地の理の許さざる所にして現時英國人の着目する要點も唯單に〓河中立條約の成否如何んには關せずし寧ろ然るよりも平時戰時に兼ね處して如何にすれば常に東洋との聯絡を繋ぐことを得べきやと專ら其〓に注意して已まざる者の如し英國東洋貿易の利害倍々〓加するに從て其交〓聯絡を保持する必要も亦〓よ〓切〓したる者と云う可きのみ

斯る折柄本年の初に至り英領加奈陀太平洋の鐡〓落成してモントリールよりヴァンクーヴァルまで二千九百英里の長〓に瞬時徃來の便を開きたるは英國の東洋政略に今後非常なる變動を來す原因にして〓かも東洋の列國中衝に當りて利害を〓する甚しきは我日本を以て最と爲す趣なかる可きや我輩の聊か掛念する所もあれば次號に於て其次第を述べ以て識者に質さんと欲するなり           (未完)