「米國よりの輸入を促す可し」
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時事新報に掲載された「米國よりの輸入を促す可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
米國よりの輸入を促す可し
世上唯單に西洋諸國と稱すれども我々東洋の關係より論ずる時は其間に種々輕重の相〓なかる可からず日耳曼佛蘭西の諸國は實に歐洲大陸の強國なれども其強は獨り歐洲部内の強に止りて東洋の利害に關しては其影響する所自から淡泊ならざるを得ず之に反して英吉利は商賣に兵略に最も東洋に關係を有して随て其勢力の〓んなるも他の列國の〓に及ばざる今日なれば凡そ東洋に〓を建る者にして故さらに英國の好意を損なわんとする手段は我輩の極めて取らざる所なり即ち日本に於ても商賣上常に英國の利益を侵さざるを期す可きは勿論或は國交際の點に至りても國の名譽の許す限りは勉めて我厚意を表して其歡心を結ぶ可しとは獨り我輩の私言にあらず苟も自國の利益を思う人ならば此手段の大〓なるを知らざる者なかる可し固より他の諸國との關係に就て特に之を度外にして可なりと云うには非ざれども之を英國の交際に比すれば自ら前後輕重の別ある可ければ東洋の國交際に英國を推して首座に即かしむる一事は誠に至當の順序にして内外人に之を怪しむ者はなかる可し
然るに爰に政略上の事は兎も角も商賣の點に於ては一歩も其地位を英國に讓らずして我輩より之を視るも決して其利害關係を英國の下に置く能わざる國ありと云うは外ならず即ち北米合衆國是なり現今日本の海外貿易は一箇年八千萬圓にして此内輸出は四千八百萬圓なれども其一千九百萬圓は北亞米利加に輸出する者にして其内より幾分か可奈陀殖民地に販路を轉ずるものを除くも我國今日の海外得意塲は合衆國を第一とせざる可からず英國の日本貿易に關係あるは實は其國よりの輸入多きが爲めにして唐絲、金巾の如きは其請要最も廣く其他諸品と與に一箇年の賣込總高凡そ一千二百萬圓、輸入の上に於ては第一なりと雖も日本よりの得意先としては合衆國に及ばざるのみならず支那佛蘭西も〓する能わざる有樣にして我國貿易の利益より公平に米英の二國を比較したらば或は米國を以て重しとする事〓もある可しと雖ども其輕重論は姑く〓き日本人の爲めに謀りて特に米國の貿易に利益する所は今日彼の國は百事創業の新國にして獨り人口繁殖商賣〓歩の著しきのみならず不規律不整頓の其間に日本人の依て以て利す可き餘地充分なるに在るなり英國其他〓〓の〓〓に至りては今の商賣も盛んならざるに非ずと雖も如何にせん千餘年來の舊國にして社會の事〓に悉く〓序を備え例えば商賣の〓に於ても夫れぞれ一定の〓〓〓〓〓〓たれ〓日本人が此秩序中に侵入して商賣の〓〓〓せんとする〓寧ろ〓〓なき希望なれども之に反して米國の貿易社會には日本人も容易に出入徃來して今日までに成功を得たる者も尠からず特に日本は建國年月の久しきにも拘わらず殖産興業の點に於ては現在百事草〓の際中にして外國の市塲に如何なる貨物を輸出したらば最も國の利益を爲す可きやと恰も試驗と商賣とに寸暇なく、日本の特有物産たる生絲製茶〓其他在來品の貿易をも今後倍々盛大にすべきは勿論其他何品にても新規の意匠發明に因て外人の需要に〓するならんと思〓する者は今日頻りに之を合衆國に輸〓して販賣を試むるの有樣ならざるなし此の如く合衆國は現時將來日本物産の大市塲たる可きこと必至の勢にして凡そ新日本の貿易の利は之を古歐洲に求むるよりも新亞米利加に於て發見するの優れるに若らざるは何人も異議なき所なる可し日本貿易の前〓をして〓〓ならしめんと欲すれば斷じて合衆國を疎外す可からざるなり
然るに爰に憂う可きは日本間貿不平均の一條にして現に昨年の如きも日本よりの輸出一千九百萬の大數なるに反對して米國よりの輸入は僅々三百四十萬に〓ぎず即ち輸入は輸出の六分一に居る者にして斯る不平均は獨り昨年に始まりたることにも非ず數年以前より〓に此形〓なれども就中〓來は生絲を始め日本よりの輸出著しく〓加したるに從て倍々右の不平均を釀したる次第もあるが故に今後年一年に日本よりの輸出〓歩の望あると同時に若しも米國よりの輸入を促す手段を施すに非ざれば日米貿易の不權〓は倍々甚しきに至らんも知る可からず但し今日に於ても斯る貿易不權〓の米國に損失たらざるは明白の事實にして例えば日本生絲の輸入の如きも一方に歐羅巴諸國より絹織物の競爭を拒絶するには最も必要なる者にして其他製茶或は雑貨の類に至つても孰れも米國々産の競爭地外に立てこれに妨害を及ぼす可きにも非ざれば右の不平均も自然の勢に放棄するより外に仕方なきが如くなれども然りと雖も凡そ文明の商賣に於ては互いに相利を相益する〓を計ること大切にして彼是れ物の價に相〓もなしとすれば先ず從來よりの得意塲に其注文を爲す可きは概して商人の德義とする所なり米國は即ち此流の得意塲にして日本より最も之に〓敬を表せざる可からず〓て日本需要の貨物にても之を歐羅巴に仰うぐ時は値段に格別の差ありと云わば兎に角も若しも然らざるに於ては其供給を米國に求むる手段商賣上の德義に於て大切の次第ならずや〓て其價格と云い品質と云い二者兩〓ながら他國の〓に及ぶ能わざる物品あるに於ては之を米國に注文する必要素より論を竢つ可からず〓く其一例を申せば日本國中今方に着手し又次第に着手せんとする鐡〓事業の總資本金を仮りに五千萬圓と見積り其中軌條機關車客車等の代價として外國に拂出す金額を其半數なりとして此二千五百萬圓は鐡〓事業の金成までに早晩一度外國人の手に〓る可き者なれども我輩の鄙見を以てすれば軌條は英國製を第一なりとしても汽關車客車は世界中米國の製に及ぶものなきは世人の〓に認定する所なるが故に日本に於ても之を米國に注文し以て其利に浴することを得せしむるは獨り貿易不平均の不利に〓ゆる點に對しても要用の策と云わざる可からず其他何品に限らず総じて米國に仰いで價格に不廉なき者なれば之を他に求めずして成るべく米國よりの輸入を促す手段は兼て將來に大に日本よりの輸出を〓むる方便として與に大切なる所なる可し