「讀ヂャパンメール新聞」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「讀ヂャパンメール新聞」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

橫濱メール新聞紙は、毎度我時事新報の所論に對して喙を容れ、外國に關することなれば格別なれども、我内

國事件にして然かも外國人には少しも痛痒を感ず可らざる内々の又内輪の事にまで、夫れ是れと論鋒を差向けら

れて、他の内國の諸新聞紙よりも更に喧しき其趣は、文字こそ橫文なれ、内實は日本國中の誰れかの爲めに代理

にても相勤めて、常に無理ながらも其御味方を申すと評しても宜しからんかと思はるゝほどの次第なり。故に我

輩は逐一これに答辨せんと欲すれども、彼れは治外法権の内に籠城して自由自在に筆を揮ひ、吾吾は東京に居

ることなれば、迚も公然たる筆戰は叶はぬことゝ自から觀念して、其言ふがまゝに任せ置くことなるが、昨日の

紙上には珍らしくメール記者が外國の事に付時事新報を咎め、新報は米國に心醉し米人の言を信じて英を恐るゝ

ものなれども夫れは心得違ひなりとて忠告するものゝ如し。過般我輩がカナダ太平洋線路の通じたるに付き一文

を草したる其趣意は、英國の勢力は今後ますます東洋に盛なる可し、是れまでは西より來りしものが今は東より

して却て便利なる可し、或は香港の東に相當の港を作ることもあらん、商賣上にも兵略上にも一層の盛大を加へ

たるものなれば、何れより見ても英國は疎外す可き國にあらず、我日本の締盟諸國、佛蘭西と云ひ日耳曼と云ひ

固より之を度外に視るにあらざるは勿論なれども、就中英國をば推して首座に置く可し云々と述べたるまでのこ

となるに、メール記者は此文を何と解したるや、其誤解の甚しき、緣もなき亞米利加を持出して、新報は米國心

醉にて、カナダ新線路の通じたるを見て敵を日本の門に近づけたるの思を爲すものなりなどゝ法外なる評を下す

は、抑も亦何故なるや。我輩は釐毫の敵意を帶びて筆を執りたるものにあらざれども、メール記者の眼に敵意あ

るが如くに見ゆるとすれば、左りとは英人の方に敵意あるかと更に始めて心を動かさゞるを得ず。國交際の事は

微妙の機に苦情の端を開くことなきにあらず。メール記者も少しく心して筆を執られんこと冀望に堪へざるなり。

〔十一月二十七日〕