「中學の独立」
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時事新報に掲載された「中學の独立」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
中學の独立
本年九月三十日勅令第四十八號を以て府縣立醫學校の費用は明治廿一年度以降地方税を以て之を支辨するを得ずと令せられたり我輩は之を讀んで〓神の在る所を察し大に其當を得たるを賛する者なり抑も醫學校と云い地方税と云う其性質を如何と尋ぬれば醫學校とは醫科の學術を教え其學生が成業の上は一家の開業醫となるを得せしむる所ならん、地方税とは其地方に必要なる事業を與し若くは在來のものを維持する等地方一般に〓する公共の費用に供せんが爲め人民の嚢中より其幾分を徴〓する税金を云うなり左れば地方税なるものは其事苟も地方公共の爲めに非ざるよりは決して之を他に流〓轉用すべき限りにあらず若し一歩にても此限界を〓るに於ては直ちに地方税の性質を誤りたるものにして人民の志を空うする處分と云うべきなり然るに醫業なる者は亦是れ尋常の商賣と均しく由て以て身を立て家を成す營業にして事全く私に属し銘々の望によりて其業に就くものなれば之を研究するに於ても費用萬端自身の懐より之を支辨すべきや勿論にして其趣は喩えば職人藝人が一家獨立の生計を立てんとて技藝の練習に資金を投ずるこ一般彼是の間毫も擇む所ある可からず假に今爰に尋常一樣の〓藝職工の稽古料に充てんが爲め公けより漫に別〓金を支給する樣のことあらば〓れか其事の奇異なるに驚かざらん地方税を以て醫學校を維持するは取りも直さず此職人藝人の稽古料を拂うに等しく公共の資格にある可からざることなり苦んで人の商賣に元入れするが如きの贅澤は今の日本人民の經濟に能わずして又條理の許さざる所なるべし勅令第四十八號の〓神も盖し此〓に在て存するものならんなれば我輩の賀〓に堪えざる所なれども〓て望蜀の〓已む能わず〓に此〓神を擴張して今の府縣立中學校をも亦共に地方税と分離せしめんことを希望せざるを得ず
然らば其中學校は如何なる性質のものなるやと云うは小學校に於て尋常一〓りの讀書算術を學びたる上猶更に〓々高尚なる地理博物等種々の學科を講修し他日これを人事の實際に利用して以て身を立て家を〓さんと欲する者が入學して其根底を培養する教塲たるに外ならず左れば其外觀表面こそ異なり之によりて一身の計をなすに於ては藝人も醫師も皆一樣にして社會の〓要を共に來る自然の趨勢ならば學問上の事に属すれ〓とて殊更に之に區別を設くべきに非ず然るに彼の醫學校をば地方税と分離せしめ此の中學校は依然舊面目を改めず先頃は又高等中學校の區〓を定め其一半の負〓を地方税に歸し以て各縣〓合議會を促したるが如きは殆んど其理由を解するに苦しむものなり〓し無智無識目に一丁字なきの人民は身を處する方向を知らず間接直接に社會の安寧を妨げて害〓を一般に蒙らしむる惧なきに非ざれば教育の極めて普〓にして極めて〓淺なる部分に就き政府の力を假して之を奨励するは間接に公共の利益なれば此點に於ては我輩も異議を挟む者にあらず人民の資力の許す限りは政府の干渉も亦要用なりとて之を賛成するものなれども小學の程度を超えて猶一〓立優りたる學問に從事せんと欲するに至ては則ち自身營生の料に供するものにして所謂商賣の部類なれば之が爲め公共の資金を使用するを得ざるや實に火を視るより明かなる〓理なれども政府の事を實施するには千百の事〓もあり又その手順もあることにして〓般は先ず醫學校を獨立せしめて地方民の負擔を輕くしたるが故に其第二着は中學校に及ぼし又これを獨立せしめて地方税の支辨を仰ぐことなきに至るは〓きにあらざる可し我輩は竊に四十八號勅令の〓神に依頼し第二着の〓擧あらんこと信じて疑わざるものなり (未完)