「讀ジヤッパンメール新聞」
このページについて
時事新報に掲載された「讀ジヤッパンメール新聞」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
讀ジヤッパンメール新聞
加奈陀太平洋線路の通したるに付き時事新報に一説を記し忽ちジヤッパンメール新聞紙の咎る所と爲りて樣樣辨明の後メール記者は時事の原文と譯文とを并べて此飜譯に誤りある可らず敵の字をエネミーと譯したり云云とて恰も飜譯の文字論を差向けられたるに付夫れは少しく誤解には非ずや敵の字の意味は云云にて必ず惡くき敵と申す義にあらずとて字義の返答せしに(本月四日時事新報)昨日は又重ねてメール新聞に一文を掲げられて其大意に飜譯の當不當の如きは固より論ずるに足らず時事新報に於て英國に敵意あらざれば以て滿足す可し敢て我意を主張して自から非を遂げんとする者にあらざれども時事新報は少しくメール新聞を誤解する者にはあらずや、時事記者は自家の説に反對者ある可らずと自から信ずる者の如し例へば輓近の事件(何を指すか之を知らず但し我輩の臆測する所の事なれば故ありて云ふを好まず)の如き時事は大に國の不利を爲したれども吾吾は(メール記者)尚ほ時事記者の心事をば正しきものとして視る程の次第にて况して他の點に於ては十分に其志の在る所を信するものなり云云と我輩は此文を一讀してメール記者に謝する所なかる可らず記者は常に我輩に對するに寛大を以てして時事の文面は兎も角も其志の正しき所をば信ぜらるるよし左れば過般以來の疑團も今は全く氷解して敵意云云の事は消して痕なし我輩の最も滿足する所なり平生是れまでに記者が我輩を信ずることなれば例の加奈陀太平洋の線路云云の文章中に偶然敵の字のありしが爲めに記者の疑を引起して特に筆勞を執らしめたるは誠に心外の事にこそあれ夫れは扨置き記者は我輩を評して自分の説に反對者なきを期するものなりと言はれたれども是れは何の爲めの言にして何事に關係することなるや我輩の解する能はざる所なり其言に引續き輓近の事件云云とあり何分にも加奈陀太平洋線路にも縁なく例の敵意云云にも關係せずして如何にも突然なるが如し若しも此事件が本論に關係あることならば其次第を承はり度く或は承はりて答辨の叶ふ事柄ならば直に答辨す可く叶はざる子細あらば何と論鋒を差向けられても默して止まる可し兎に角に時事新報が我最上の友國にして東洋に最も勢力重き英國に對し厘毫の敵意なきの至誠丈けは通達してメール記者も釋然たりしは我輩の欣喜に堪へざる所なり