「米國の鉄道家に望む」
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本文
米國の鉄道家に望む
日本の文明は今や正に進歩の最中にありて凡百の事物着々其面目を改むると共に又近來は
鐵道の事業漸く振起して幾多の會社所在に興り官設に民設に東西相呼應する其中には計畫
全く齟齬して空しく廢絶に屬するもあらん又た或は愈々繁昌して芽出度奏功を祝するもあ
らん一二會社の盛衰興廢は固より免れ難き所なるべしと雖も日本鐵道事業の全體上より觀
察するときは今後唯益々盛運に向ふのみにして决して退歩することなしと云ふて不可なか
るべし然るに是れまで既に起業し又目下工事中なる鐵道は英國に軌條を購ひ技師を聘する
ものあり又近年の出來事にして時としては之を獨逸に仰ぐものあり其取る所一樣ならざれ
ども毎度申す如く英獨諸國の鐵道は其外觀と云ひ構造と云ひ共に美にして備はれりと雖も
隨て其代價も亦廉ならず之に反して米國の鐵道は唯その軌條の代價に就て英國に一歩を讓
るのみにして其他は汽車機關車の製作より建築法一切些末の部分に至るまでも總て手輕に
して便利を主とし世に輕便鐵道と稱せらるゝ程のものにして外觀は寧ろ粗末の方なれども
費を省いて實用に差支なければ今の日本の經濟に照らし何れを取りて然るべきやと云ふに
日本國人は外觀裝飾の如何を問ふに遑あらず此等は他日の〓として差向きの處は單に實用
を辨ずるを以て滿足せざる可らず即ち日本国は輕便鐵道の需要者たるべき身分にして其材
料を米國に求めるは算用上損得利害を誤らざる者なりと雖も却て之を捨てゝ彼を取るは誠
に解し難き次第のみならず米國も亦た輕便鐵道の供給者として當然に利すべきの利を利せ
ざるは傍より觀て如何にも堪へ難きものゝ如し然り而して日本の鐵道事業は今日を限りに
中絶するものあらんには既徃今更如何ともし難しと雖も向來猶ほ愈々盛運に赴くの勢あり
として相違なくんば我輩は米人が今後の爲め何分の方〓を〓し其利益を利すると共に併せ
て米國鐵道事業の長所を示し以て永遠の爲めを計るの急なるを知るものなり
〓〓誠に其方策の一を〓するに今我國の書生にして米國に滯留する者は其數殆んど百千を
以て數ふるの多きに及ぶと云ふ盖し此等の書生の目的は農藝に工術に商業に〓〓志す所あ
るべきは勿論なりと雖も其能く當初の〓〓〓從事し何に不足なく本來の目的を達するを〓
る〓〓〓た〓にして〓〓は唯漠然として〓〓〓〓を〓〓〓〓〓〓〓〓の爲〓〓〓〓〓れて
餘儀なく〓〓〓定〓〓〓〓〓〓〓きは〓〓〓〓〓〓して其〓〓〓〓〓〓を〓〓〓〓水に均
しく身を投ずるの良所を望む〓啻に穴隙を穿たんと欲するの比に非ず若し門を開いて之を
迎ふる者あらば未定の方向惣ちに决し相率ゐて之の赴くを躊躇せざるに相違なかるべし况
んや豫て自身の志望に合ふものあるに於てをや之を留めて駐む可らず是に於てか我輩は前
陳米國の利益のため又我國鐵道事業の經濟の爲めに冀望する所のものは他なし彼の國には
各鐵道會社を始め汽車機關車製造會社、隧道會社、架橋會社等凡そ此般の組織各地各所に
乏しからずと云へば此等の會社が何れも皆彼の日本書生の爲めに特別の方法を設け之を雇
入れて各種の事務に當らしめ會社は之に俸給を與ふるに及ばず書生は爲めに謝金を出すこ
とをなさず雙方共に金錢の累なくして其代りに鐵道事業に就き書生の質問する所は會社に
於て多少の面倒を厭はずして特に丁寧に説明を與へ以て實學を講習せしめんことを願ふも
のなり是れ即ち書生の一方より見るときは無月謝にして實業と學理を研究し得るの仕組な
れば衣食の費用は自辨しても唯其修業の門戸の開けたるを見て來りて會社の爲めに如何な
る勞働をも辭せざるべし勿論多數の書生をして實業に就かしむるの傍に毎に説明の勞を執
るは中々容易のことに非ず隨分煩はしき次第にして特別の斟酌を要することなれども若し
又これにて不都合の廉あらば前陳の仕組を以て特に臨時の學校樣のものを設置し日本書生
を導いて之を教養するも亦可ならん其方法は兎も角も斯して數多の書生が米國の鐵道技術
を學び其長所を知り得て他年本國に歸來するや本國の諸鐵道は正に技師に乏しく理事者に
事を缺く折柄必ず夫れ等の事に當る可きは論を俟たず即ち日本の鐵道事業に米國の流を酌
むの日にして世間は如何に歐洲の鄭重風に傾くも憚るに足らず當業者の心には曾て多年の
薫陶を受けたる所ありて先入主座を占むるのみならず米國の長所利點忘れんと欲して算用
上に忘る可らざるものあるより最早斷然固く執て動かず遂に擧つて米國流に化するの事實
を見る可きなり米國の利益を収むるに足るべきは更に疑を容れざる所にして日本も亦經濟
上に失ふ所なく共に利得を樂しむことなれば米人に取りても異議ある可らず日本人は唯其
親切の厚意を謝すべきのみ我輩は速に此一案の試みられんことを望むものなり