「東京明渡の結果如何」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「東京明渡の結果如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

東京明渡の結果如何

左の三篇はドクトル セメンズの原文を本社にて翻譯したるものなり

   東京明渡の結果如何

佛國は東京を占領し何の利する所もなかりしが如し盖し同國が東洋に向て其領地を擴めた

るは大に東洋の〓〓を〓強して其益を利するの目的なりしならんなれども事の實際は全く

反對に出で豫ての希望は未だ其實行を見ざるに其奪取たる土地を維持するの費用は頗る〓

〓に上りたる其上に近來は歐洲戰爭の風説、頻りなると佛國の財政困難等の事情よりして

同國の政治社會中には東京抛棄すべしとの議論盛んなるに至れり盖しこの佛國の覆轍は今

後幾年の間歐洲諸國をして東洋を蠶食するの非望を絶たしめ東洋諸國も亦これが爲めに國

防の費用を減じ一國の注意を殖産興業の方に向け其人民をして富庶繁榮の澤に浴せしむる

ことゝもなる事ならんが茲に東洋の爲め一大不幸と申すは支那日本には兎角眞似病

(manemania)流行して動もすれば獨逸の〓に傚ひ東洋の臥楊鼾睡正に濃かなるの時に向

ひ却て兵卒を練り軍艦を造り戰爭の殺氣を振作するの一事なり假令へ兩國の本心は敢て戰

を好むの惡意なしとするも斯く近接の隣國にて互に戰衙に汲々として強大なる兵方を養成

する事は雙方ともに甚だ危險なる話にして若しも其精練なる兵隊と宏大なる軍艦とは唯芝

居〓〓〓〓の觀をなすに過ぎずして敢て戰を好むの惡意なしとすることも斯く近接の隣國

にて互に戰衙に汲々として強大なる兵方を養成する事は雙方ともに甚だ危險なる話にして

若しも其精練なる兵隊と宏大なる軍艦とは唯芝居〓〓〓〓の觀をなすに過ぎずして敢て他

意あるにあらずと云はば其は實に無用の長物にして之を廢するこそ〓〓の事と云はざるを

得ざるなり

   パナマ運河

パナマ運河の開鑿は近代の計畫に出でたる工事中最大の事業にして其目的たる南北亞米利

加の兩大陸を聯接し太平大西の二大洋を割斷する一棧の地峽を開通するにありて此工事の

成功は米國の東洋及び歐洲の西部より日本までの航路に幾百英里の海程を減縮し日本に取

りては其關係實に少小ならざるが故に日本人中には多〓〓の工事に關心する者あるが如し

然るに歐洲よりの〓〓〓〓るに折角の大工事も多分その成功を見る能はず〓〓〓〓に〓〓

すべしと云へり抑も同工事の發起者なる〓 レセフプ氏の計畫にして其目論見通りに成功

を告げなば東西兩半球の貿易に非常なる便益を與へたる事ならんと雖も着手以來既に二萬

弗の金額を費したる〓〓〓〓〓の日に〓るやを知らず〓して〓〓ての〓〓〓〓〓〓〓〓〓

民社會の僅かなる〓〓より〓〓したる〓〓〓〓〓〓〓この〓に〓〓〓〓〓〓をも〓〓〓〓

〓〓〓〓〓〓〓〓命も〓〓〓〓きたりと云〓〓し〓〓〓〓〓〓〓〓同會社が〓々解〓を告

ぐる其時には〓〓中數千萬の貧民が之が爲め破産するは勿論、佛國政府も亦之が爲め一時

破産の厄運を免れまじと云へり若しも然らば其時こそ近來稀れなる理財上の一大混雜を現

出する事ならん

   歐洲戰爭の説

最近の米國郵信中最も緊要の報知は歐洲戰爭の説なりとす露國皇帝は元來平和の説なれど

も同國中には戰爭を望む一黨ありて其勢ひ頗る強く動もすれば皇帝をして其説を變ぜしむ

るに至るの恐れなきにあらず而して獨逸も亦頻りに軍備の擴張を務め七十萬の兵を増加し

一億マークの軍費を國會に要求せり而して其議は未だ國會の可决を經ずと雖も委員會にて

は之に同意を表したりと云ふ左れば兩國敵愾の心は日日に益々その烈しきを加へ其破裂の

機實に間、髪を容れざるの有樣なりと云ふべし歐洲諸大政事家の所見にも各國現今の形勢

にては平和の望み全く絶え戰爭は到底免るべからざるのみならず若しも其戰爭の起らん日

には世界古今未曾有の一大不幸を現出するならんと云ふ歐洲の諸國が近年に至り歳々その

國債を増加するは實に非常のものにして現に英國のデルビー侯の如きも近時の演説に於て

この有樣にして永續したらば歐洲諸國は擧て破産の大危險に陥るならんと説けり兎に角歐

洲の形勢は永く今日の有樣を保つこと能はざるべし