「英國の政黨事情(前號の續き)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「英國の政黨事情(前號の續き)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

然るに今日保守黨内閣の勢力を如何にと云ふに昨年の昔と今と其実際の成迹は世人の想像に相反し政府の基礎益々堅固なれば自由黨が取て以て之に代らんとするの望亦期す可らざる者の如し固より政治の勝敗は今日を以て明日を測るべからず其變化の趣は天候晴雨を卜するよりも尚ほ難く今の保守黨内閣も何時如何やうの變に會し失敗して政府を失ふや豫期す可からずと雖も今日の實際に於て其基礎決して薄弱ならざるの證は二三にして足らず第一は外交の手段にしてソールズベリー侯が其主任に當りし以來英國の政略は中立不偏を旨とし國の威光を墜さゞる以上は外國に對しても我れより事を構へざるの主義は實際に照らして明なり左れば彼の歐洲の一大紛議たるバルガリヤ事件に關しても今日まで侯の實施したる政略は伯林の條約を本とし露國をしてバルカン半嶋に其力を逞ふせしめざる丈けには盡力怠らざれども無益にバルガリヤの内治に干與し以て自國の多事を買はんとするに非ず左りとて漠然これを抛棄して土耳其獨立の要用を認めざるにも非ず曖昧の手段の中に英國の對外政略は中立不偏を旨としたるの其迹大に英國の人心を滿足せしめたるが如し左れば曩にビスマーク侯がバルガリヤ國主フエルヂナンドの在位を以て不正なりと見做し列國共同して其旨を土耳其に通じフエルヂナンドの廢位を促すに際してもソールズベリー侯の斷然これを拒絶したる手段を以て英國の人民をして保守黨の内閣必ずしも外交上に事を好む者に非ず唯自國の利害を重しとするの政策なることを知らしめ侯が就職の始めに當り世人が漫に想像を書て外國に事あらんと論じたる恐も今は全く消滅して其形跡を留めざるものゝ如し

次に内國施政の方針に至りては從來の經驗に於て保守黨は自由黨に數着の伎倆を讓りたればソールズベリー侯の内閣も其内政の方向に於ては必ず自由黨に及ばざる結果を現すならんと世人の待設けたる處なりしに實際は之に反して案外なる結果を呈し却て人をして其手際に驚かしめたる者少なからざる其中にも先づ財政に就て之を評するに大藏大臣ゴツシエン氏の計畫は實に〓きを得たる者と云はざる可からず抑も氏は有名なる經濟學者にして理論に長けたるは今日迄も人の許す所〓〓しと雖も實際の財務に當りては如何あらんかと竊に之〓〓み居たる者も少なからず加るに反對黨なるグラツドストーン氏は外交は兎も角も財政の始末に至りては得意専門の伎倆にして多年の經驗最も之に熟練したる政治家なればゴツシエン氏が之を敵にして議院に多數を爭はんとするも其勝敗如何なるべきや覺束なき事共なりとて之を慮りたる者なきにしも非ざりしにゴツシエン氏の才幹は容易に侮る可らずして財務整理の其手際はグラツドストーン氏と雖も讓る所なきに非ずと云へり即ち千八百八十七年四月一日より本年三月卅一日に至る一週年度間の財政收入豫算額は八千八百十三萬五千磅(一磅は金貨五弗)なりしに實際の收入は八千九百五十八萬九千磅を獲て實算の豫算に超過すること百四十五萬四千磅なり而して歳出に至りては其豫算は八千八百三萬六千磅なりしに實際の支出は八千七百四十二萬四千磅なれば實算の豫算より少きこと六十一萬二千磅なるが故に都合國庫に二百六萬六千磅を餘したる其結果は豫て財政の事に不案内なりと云はれたる保守黨の政府に取りては近來になき好手際なりと云はざる可からず然り而して今回政府より提出したる本年度(即ち本年四月一日より千八百八十九年三月三十一日迄)の豫算案は收入八千六百八十二萬七千磅にして同く支出八千六百六十一萬五千磅即ち國庫に於て二十一萬二千磅の餘剰を來すべき計算なるのみならず本年度は昨年度に較べて二百四十二萬一千磅の政費節減を行はんとするは果斷の至りと云ふ可し殊に其歳計案調査の周密なること保守主義の財政家は素より、自由黨の政治家と雖も多く之に及ぶ者あるを見ざる證據はロンドンタイムス或はエコノミスト等に斯く財政の始末に委しき人は古に在りてはビツト氏今はグラツトストーン氏ならずばゴツシエン氏ならんと評したるに於ても明白なり且ソールズベリー侯の閣員には有爲の働を以て鳴る者獨りゴツシエン氏に止まらずして地方政務省長官リツチー氏の如き特に内閣の施政には通達して地方分權を行ふに熱心なる政治家なりとす即ち氏が今回提出したる地方自治案は局部の可否は姑く置き全體の旨趣に於て保守黨の内閣より斯る自由分權の議案を出さんとは寧ろ世人の思ひ到らざる所なりしと云へり抑も氏の地方自治案は英蘭、蘇格蘭の二國を限り施行す可き見込の者にて其大旨とする所は今の錯雜極まりなき地方制度を廢棄し更に簡易の制を設け中央政府と地方政府との關係を一新せんとする者にして中央政府の費用に二百四十萬磅を節儉するの見込みなるが如しゴツシエン氏の財政案と參考す可し且今日まで英國の地方政治は四季會同裁判所なる一種の官廳に於て之を處理し政治法律の二者常に相混同するの弊と免れざりしに依り今回の修正案に於ては斷然これを矯めて〓間に正當の區別を設け州會縣會市會を置き地方人民に政務を掌らしむるの法なるが故に若し此案をして下院の多數を制するに至らしめなば英國の政治は爲めに其面目を一新することある可し(未完)