「英國の政黨事情(前號の續き)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「英國の政黨事情(前號の續き)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

抑も内治改良は今日迄自由黨政府の専ら主義としたる所にして保守黨内閣は常に之に注意せざるの趣ありしに今や之れに反對して保守黨の内閣より地方分權の大議案を提出するとは時勢の變遷寧ろ驚くべき現象と稱す可きなり碩學スペンサー氏の言に英國の政治世界は自由と云ひ保守と云ふも今は兩者の區別判然たらず一歩を進めて其實際を窺へば今の自由黨は昔の王權黨にして保守黨こそ却て民權黨なることなかる可きやと説きたれども氏の論は姑く擱き今の保守黨内閣の手に於てゴツシエン氏の財政案、リツチー氏の自治案の如き者出るとすれば謂ゆる内治の改良を自由黨の専有主義なりとしたる古來の口碑も今は實際に然らざるを見る可きなり

次に愛蘭の疑問に至りてはソールズベリー侯は飽くまで其獨立分離を非とする者にしてグラツトストーン氏とは其説水火相容れざるのみならず保守黨の内閣は彼の鎭壓條例の執行を以て〓く可らざるものと認め愛蘭事務総裁バルフオール氏を其主任として治安の計畫〓らざりしかども其實際の成跡を見れば條例の執行以來法網に觸れて刑辟に罹りたる者は意外に少く昨年の始めと今年の今とに於て犯罪者の數は次第に減少し壮士煽動者の類の如きも亦大に其勢力を減じたりと云へり若し此報をして眞ならしめなばバルフオール氏の施政は其宜きを得たるものにして鎭壓條例を議するの始めに當り自由黨が非常に論難攻撃を加へたるは寧ろ先見の明なしと云ふ可し且グラツドストーン氏は如何に老練の政治家なりとも愛蘭の自治案を主義とする其間は今の保守黨内閣を敵にするの其外に自由黨の内に在りてもハーチントン侯の聯合自由派とチヤンバリン氏の急激派とに聯合する能はざるの事情なれば今後グラツドストーン氏の一黨のみにて議院に多數を制するは容易なる可らず此一事に就ても保守黨の位置は安全なる者にして之を要するに今の内閣の政略は外交と云ひ内政と云ひ申分なき結果なるが故に英國民の多數は之に滿足を表するの有樣にして意外の事變あるに非ざる〓〓〓〓黨が取つて之に代らんこと易からざる可し

〓〓〓〓黨の内閣はハーチントン侯とチヤンバリン氏〓〓〓〓〓を得て〓〓〓〓〓〓〓〓は其基礎固より章〓〓〓〓〓〓も二人の中その一方の助〓〓ふ〓〓〓〓〓〓〓〓ころに政府の〓覆するは數の明かな〓〓なりとの説もあり自ら一説にして現内閣の今日あるを得たる所以は全く此後援に依るものなりと雖も内閣の施政に謹愼の旨を失ふときは如何なる公園も其効ある可らず左れば現内閣の堅固なるは右二大家の助と内閣の謹愼と兩様の原因に依て然るものなりと評して當るが如し盖し政黨政治の國に在りて内閣の更迭する其原因は樣々なる可き中にも政府が自から議院に對するの勢力盛なるを恃み斯る多數の味方ある上は大抵の事を爲すも失敗を招く恐ある可らずと大膽に構へて政治に當るの傲慢心は遂に輕卒疎放に流れて人を厭はしめ俄に多數の味方を失ふて敗北するの事例少なからず嚮にグラツドストーン氏が保守黨の爲めに敗られたるも實は自黨の勢力を恃み愛蘭自治案を通過せしむるに何程の事あるべきやと閣員中の不同意をも顧みず其議案を提出したるに因るの一例を見ても知る可し故に現内閣に獨り保守黨の力にて多數を制する能はざるを知り努めてハーチントン侯及びチヤンバリン氏に結び内外の施政に於けるも百事鄭重を旨とすれば大膽事を醸して失敗を招くが如き愚を爲さゞるは必然なる可し

又他の説に今の保守黨内閣は議院に於て假令へ聯合自由黨等の助を假るにもせよ是れは他人の力なれば永遠の恃と爲す能はず而して自黨の黨員は其數至て少なければ早晩失敗の恐なきにあらずと云ふ者ありと雖も事の實際は未た必ずしも然らざる可し既往の例を以てするにパルメルストーンが嘗て政府に入るの際に在りては僅議院に十三人の多數を制したるのみなれば當時世人の思ふ所に斯る少數の政府にては忽ち失敗を免かれざる可しと竊に危ぶみたれども實際に至りては反對黨中の温和派がたまたま内閣を助けたるが爲めに失敗を免かれて加ふるに政府の政略果斷なりしより基礎却て固かりしは世人の夙に知る所なり今の保守黨内閣も之れに類する者にして即ち自由黨の全體に對しては少數たること勿論なりと雖ども其の中の温和派及び急激派が今の政府を助くる間は反對黨に多數を制せらるゝ心配なく而してグラツドストーン氏が愛蘭自治案を主張する其間はハーチントン及ひチヤンバリンとの折合も亦就くべしと思はれざれば保守黨の政府は斯る機間に潜り抜けて其政權を維持するの望少きに非ざる可し斯る次第なれば昨年の今頃と今日とにては保守黨内閣の勢は前後相比して著しき相違ある者なれども又一方より見るときは政治は動機にして人心亦物の遅滯を許さざればゴツシエンの提出したる財産案とリツチーの地方自治案と此二つの者は現内閣が其進退を決する重大の疑問なれば政府の運命も此二大議案の可否如何に係のなり此議案は現時英國の議院にて討議の最中なれはるも我輩は之れに依て現内閣の運命如何を卜するも亦た近きにある可しと信ずるなり(完)