「日本鐵道論」

last updated: 2019-10-28

このページについて

時事新報に掲載された「日本鐵道論」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

日本鐵道論(前號の續き)

第一機關車

機關車の優劣を比較するに當りては其事器械學上の議論に係る者多くして平易に之を説かんとならば其圖面雛形を示し術語數理にも渉らざるを得ず斯ては徒に煩雜に流るゝの恐れもあれば是等は略し唯其大體に就て論ずるに米國製の機關車は英國製に較べて薪炭を消費するの少きは爭ふ可からざるの事實ならん好し又其消費は同一なりとするも制作の費用彼是相違の差の著しきは論を竢たず然りと雖も假に是をも同一の者と見做し最後に構造の便不便に至りては米國の機關車は工風を凝らして眞の改良を經たる者なれば英國製に優る遙かに遠しと云へり左れば其車輪の造りも屈曲の甚しき線路を通行するに差支なきのみならず勾配の急なる所を上下するにも昇降甚だ易く或は又列車充分の速力を張て進行するの其際に時として急に之を止めざる可からざる塲合にも米國の機關車は英國の製に較べて一層〓〓自由なりとす例へば列車の進行すべき線路に人畜の横はり居るを發見するか或は土堤崩れ橋梁損じて漫〓進行せば危險に陥るの塲合にも米國の機關車ならば之を避くるに一層容易なるが如し或は軌條の良不良客車構造の堅不堅に至りては種々の議論もあることならんなれども獨り機關車の構造に就ては米國製を第一と爲すも決して溢美に非ざる可し

第二客車

客車に至りては内部の装飾は暫く論せず其大小に就て云ふに英國製は米國製に比して縦横共に小なるは實際兩國の鐵道を乘較べたる人の經驗に照らしても明白なるべし英國の車は車中を横に仕切り旅客をして向背相對し整列せしむる者なれども米國の車は然らず縦に通路を設け兩側相向ふて人を坐せしむるが故に此點より論ずるも米國の客車は究屈ならず但距離の短き地方を旅行するに當りては英國の客車に乘るも左までの不便を感ぜざる可しと雖も幾時間若くは幾晝夜を重ねて旅行するの塲合には米國の客車を悦ばざる者なりと云ふ〓〓〓〓車内の装具に付て言へば米國の〓には飲水手〓〓〓〓旅客の〓〓〓〓〓〓〓らざる〓〓〓〓〓居る〓〓〓英國の客車〓〓〓〓〓〓すること〓〓〓又英國〓〓〓〓の如く〓〓〓〓〓〓に消息を〓〓〓の工風〓〓〓〓〓米國の〓〓〓〓〓〓に至る〓〓〓〓〓〓〓なるを以て事〓るに當りても直ちに變じ〓〓に通じ其急を救ふこと亦容易なり現に先頃の事なり我國某鐵道の線路に於て客車車室の〓隙に積れる塵埃に乘客の棄てたる煙草の吸殻を飛して火氣を移し將さに大事に至らんとせしも幸にして間もなく次の停車塲に達し列車の進行期せずして止まりたるが故に急に救を求めて水を呼び火を消したりとぞ是等は英國風に模したる鐵道の客車に於て交通消息の法なきが爲めに起き勝ちの出來事なれば日本の鐵道客車中にも鐵道局の訓諭により旅客は妄りに車中に喫烟す可らずとの廣告を張出し置くは盖し右の事變を豫防するの手段なる可けれども如何にせん天下滔々たる多數の愚民左る戒を知らずして偶然に喫烟し其殘煙過て火を失するの恐なきに限らざるを即ち此一例を以てするも米國の客車は英國に較べて優る者なるは言を竢たず爾のみならず英國の客車には暖爐なくして冬は寒く、車室狹ふして夏は暑く、寒暑共に米國の客車ほど愉快ならず故に坐席の取方に依りては車室の中央に圍まれ空氣の流通せざる所に蟄伏するの苦なき能はず又ボーギー トラツプの設けなきが故に列車の震動激うして車中に書見も叶はず况んや筆を取り文字を綴るに於てをや米國風の車は全く之に反して多くの便利と快樂とを旅客に與ふるの工風到らざる所なければ此點に至りても英米の鐵道は日を同ふして語る可らざるなり

第三貨車

貨車の用は其名の如く貨物の搭載を以て目的とする者なれば第一に英米兩國の貨車は何れが多く貨物を搭載し得るやを考へざる可らず即ち大小に就て之を云ふに英國の貨車は重量五噸にして而して八噸の貨物を積むに足るが故に其割合は十に對する十六の比例なれども米國の貨車は重量二萬三千斤にして貨物は五萬斤を運搬し得るの割合にて其比例は十に對する二十一とす客車の重量は全くの死量なれば之を省き貨物搭載力の割合を比較するに米國の貨物は英國の上に在る者と云はざる可らず尚ほ英國の貨物列車には齒止めの仕掛を用ふる者少きが故に列車其數を多くし或は又峻坂を上下するの際に在りては俄に齒止車を附屬せしむるの必要起りて爲めに徒らに列車の死量を揩オ同時に多數の人夫を用ひざるを得ざるの不利あり或は米國の列車は其速力稍や遅緩なりとの非難あれども貨物の運搬は通常一時一刻の早きを尚ぶよりも賃錢の廉なるを主眼とする者なれば盖し此點は掛念に及ばざる可し(未完)