「日本婦人の眞似洋服ドクトルセメンズ原文の譯」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「日本婦人の眞似洋服ドクトルセメンズ原文の譯」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

余が日本婦人服の事に就て一文を草し之を本年四月廿三日より廿五日に至る三日間の時事新報に載たるは讀者の記臆する所ならん當時余は米國に於ても此大切なる問題に注意する者あらんなど毫も考へざりしことなるに今回米國より最も有名なる貴婦人達が特に横濱のジヤッパンメール新聞紙に書を寄送したるは余が大に驚く所なり況して男子たる余が思想と米國貴婦人の思想と殆んど相同ふして着々符合するに於てをやますます驚愕に堪へず其文意を玩味すれば〓方共に意を同ふして恰も一人の手に成りしものゝ如くなれども實際に於て相互に意見の在る所を知る可きに非ず全く縁なくして偶然に相投したるこそ奇妙なれ

右の寄書は大統領クレヴランドの内君、前の大統領故ガーフヒールドの後室及び米國にて名高き女子學校の校長たる貴婦人達の記名したるものにして此婦人達は西洋の婦人衣裳を日本の婦人の衣裳に比較して日本風の簡にして衛生に宜しく西洋風の有害にして不利なるを知る者なり余は今こゝに其寄書の大意を拔抄して彼の貴婦人達の意見と余の意見と如何にも符合したる次第を讀者に示さんとす

美麗温雅恰好の點より評するも善く日本風に仕立たる日本の婦人服は立派にして上品なるものなり又經濟上より云へば洋服と日本服とを較べて洋服に無u無用の材料多きは一見して之を知る可し又日本婦人は洋服の甚だ不健康にして衛生の爲めに宜しからざるの箇條多きを知る可し米國にて有識〓意なる婦人は何とかして其衣裳の風を改め不健康の害を避けんとて思案を巡らすこと既に久しく一朝一夕の談にあらず又同國に名高き醫師の説にも國中に普き婦人の病身は衣裳の風の不良なるに原因するもの最も多くして他の原因の此に非ずと云へり

洋服に宜しからざる箇條多き中にも其最も甚だしきはコルセットを以て小腹を縛り天然にある可らざる程に細く締付ること支那の婦人の足に於けるが如くするの一事なり是等は目下西洋服を着る日本婦人の明に知る所ならんなれば其美麗にして恰好よき自國の衣裳を棄てゝ自國の女性の健康を害し態と外國の風に傚ふて財を失ふが如きは日本婦人の愛國心に於て自から許さゞるや明なり

エーチ フランセス バーメリー

ラクレシヤ アール ガーフヒールド

フランセス エフ クレヴランド

ヘレン エフ スミス

フランセス イー ウヰラルド

以下五名略す

日本に在留する外國婦人の説も素より前文の意に違はずと雖ども日本服の今の風を少しく改めて歩行に便ならしむるの工風はなきやと竊に考ふる所なり但し其工風は日本婦人の風致思付に任して外國婦人の喙を容る可き限りにあらざるは論を俟たざる所なり